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あとがき、みたいなもの。

~Storyを描き終えて~

2020年3月1日に『放課後、桜の基地で』の第一話を公開してから、およそ1年。2021年3月29日に最終話となる第十二話を公開し、物語を完結させることができました。まずは、このお話を受け入れ、最後まで読んでくださった多くの方々に心から感謝します。皆さんから毎回のように頂く温かい言葉が、この長い物語を諦めずに完結させることができた原動力でした。

中学生の頃から物語を書くことに興味はあったものの、ひとつのストーリーを最初から最後まで描き切ったという経験は、自分にとって、この『放課後、桜の基地で』が初めてでした。このお話がどこからやって来たのか、自分は何に悩み、どうやって完成させたのか、それらを辿り振り返ることは、後々自分がまた何かお話などを書こうと思った時に、貴重な資料になると思うし、この自分勝手で無茶な試みに付き合ってくださった皆さんにこの場を借りてお礼も言いたいと思ったので、無粋なこととは知りながらも、自分で自分の創作のあとがきを書こうと思い立ったのでした。


そもそも。

2018年11月25日、東京国際フォーラムCホールの3階席で、僕は『さくら学院祭☆2018』の舞台を観ていました。冒頭からの明るく溌剌とした2曲のパフォーマンスに続いて、呼吸を整える間も無く始まった寸劇。そこで受けた衝撃が、僕が「さくら学院のメンバーを登場人物にした物語を書いてみたい」と思った最初のきっかけでした。

『さくら学院のこと。② ~『さくら学院祭☆2018』~』

当時のブログです。寸劇は生徒たちの演技は勿論、脚本家としての森先生の実力がいかんなく発揮されたもので、その時はただ純粋に「ああ、この少女たちを主人公にしてストーリーを描けたら、とても楽しいだろうな」と思っていました。最初に主人公にしたいと思ったのは、真彩さん。真彩さんは、とある理由で学校をエスケープするのですが、それを支える友達としてゆづみんと麻鈴さんが登場し、そして『基地』と呼ばれる場所には華乃ちゃんが居て、そこでは子どもたちがダンスを踊っている。真彩さんが華乃ちゃんに出会うことで、物語が動く…というアイデアでした。結局、2018年度のメンバーでお話を書くことは出来なかったのですが、学校からのエスケープや『基地』といったお話の骨格はこの時からうっすらと存在していました。


はじまりまで。

さくら学院の2019年度がスタートした2019年4月1日から、僕は#吉田爽葉香さんを365日尊ぶ というタグを付けて、1日1回Twitterへの投稿をすることを始めました。それに先んじて2019年1月からは1カ月に1通、必ず爽葉香さんにお手紙を書くことにしていました。爽葉香さんがさくら学院での最後の1年を迎えるにあたって、チケットの当落や席順の良し悪しではなく、「自分が何をしたか」に拠って、彼女を応援し切ったという実感を持ちたかったからです。一方で2019年度の中等部3年生、いわゆる仲さんの4人は、僕の気合いとは裏腹に雑誌やWEBのインタビューでは常に自然体で気負い過ぎず、仲の良い姿を見せてくれていて、その中でも、アニカンドットジェイピーで公開されたインタビューは素晴らしいものでした。

INT #さくら学院 中等部3年 #藤平華乃 #吉田爽葉香 #有友緒心 #森萌々穂 / Part1

INT #さくら学院 中等部3年 #藤平華乃 #吉田爽葉香 #有友緒心 #森萌々穂 / Part2

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INT #さくら学院 中等部3年 #藤平華乃 #吉田爽葉香 #有友緒心 #森萌々穂 / Part4

INT #さくら学院 中等部3年 #藤平華乃 #吉田爽葉香 #有友緒心 #森萌々穂 / Part5

このインタビューは、仲さんの4人が@onefiveとして羽ばたこうとしている今、読み返してみると、とても興味深いものがあります(タイミングとしてはもう「Pinky Promise」の話が水面下で進んでいた時期だと思われます)。それは置いておくとしても、これを読んだことによって、僕の中で、あの2018年度学院祭を観た後からずっとくすぶっていた「さくら学院の生徒が登場する物語を書きたい」という想いが、一気に再燃したようでした。4人の関係性は不思議で、依存し合っているというのとは少し違うけれど、決して切れることのない絆の強さを感じたし、ただ自然に喋っているだけでその背景にストーリーが浮かぶようなドラマ性を持っているように思えました。この4人を主人公にすれば、書けるかも知れない。そう思いました。そして、先述したように「応援し切った」という実感を強めたい、絵を描いたりグッズを作ったりできない自分も、なんとかしてファンアートを表現できないか、と思って、とにかく創作に挑戦してみよう、と決心したのです。

その時点で決めていたのは、『そよ』という名の少女が主人公であるということ。彼女が主人公である理由。『かの』、『つぐ』、『ももえ』という少女との関係性。『基地』と言う場所の存在。その場所を中心に『12人の少女たち』が出会い、『何かひとつのこと』に挑戦する…などでした。主人公が学校に行かなくなるという設定は、主人公自身が秘める理由(であり物語の核心)、そして基地に登場人物たちを集める、という二つのことから必要不可欠なものでしたが、このテーマを物語を進めるための手管として使うということは嫌だったので、例え付け焼刃だとしても、自分で咀嚼し納得してから書き始めたいと思い、まずはインプットをしようと思いました。それが2019年7月頃のことです。

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フリースクールに関するWEB記事を調べたり、学校に行かないという選択とはどういうことなのかを知りたいと思って、最初に読んだのが『学校に行きたくない君へ』(全国不登校新聞社 編)という本。そしてその中で辻村深月さんの『かがみの孤城』を知り、これも読みたいと思ってすぐに購入しました。二冊の本から、その選択をした人たちの色々な想いを感じることができ、主人公や、或いは『さくら寮』に集まる子どもたちが学校に行かないという選択をしたことは、決して荒唐無稽な話ではない、と自分の中で納得できました。

僕はお話の中で、「不登校」という言葉を一度も使いませんでした。それは自分が軽々しく書いてはいけない言葉のような気がしたし、その言葉を使ったとたんに、読んでいる人の視野が限定されてしまうような気がしたからです。さくら寮に集まる子どもたちは、自分で選んでその場所に居る。そして、その選択を決して後ろめたく思ってはいない。それを、メッセージ性とは別の次元で、淡く柔らかに表現できればと思い、不登校という言葉でカテゴライズすることを避けながら、彼女たちの『日常』をできるだけ丁寧に描こうと思いました。学校に行かないという選択を悪として描かないのと同時に、ポップに軽くなり過ぎないようにも気を付けながらバランスを取るのは難しく、精一杯やってみましたが、うまく表現できたのかどうかは、書き終えた今でも、自分では分かりません。

また、さくら寮には学校に行かない子だけではなく、親と一緒に暮らすことができない子も生活をしています。実際にモデルにしたという訳でないのですが、この施設をイメージするにあたって自分の中にルーツとしてあったのが、松本大洋さんの『Sunny』です。この作品で描かれている子どもたちは、さくら寮の子どもたちに比べればずっと手に負えない ″悪ガキ” たちだし、もっとシリアスな状況に置かれているのですが、絵、エピソード、何よりも登場人物たちが紛れもなく生きている(大げさではなく、紙の中で生きていると信じることができる)という感触がとてつもなく素晴らしいので、機会があればぜひ読んでみてほしいです。それから、あずまきよひこさんの『よつばと!』が持つ空気感、特にこの作品に登場する大人たちが子どもたちを見つめる視線、というのも、物語にインスピレーションを与えてくれました。その他にも幾つかの青春小説を読んだり、過去に読んだ作品を読み返したりして、自分の中に表現の土台を作って行きました。


描きたかったこと。

幾つかの作品をインプットするのと並行して、2019年の秋頃からは、自分が描きたい世界のイメージを固めていきました。12という数字を大切にしたいから、短めのエピソードを交えながら十二話でひとつのストーリーを完結させよう。だいたい7万文字、長めの短編~中編くらいのボリュームで。四章立て、各章に三話ずつ、章の題名は季節を感じさせるもの。それくらいのざっくりとした決めごとだけして、ストーリーのプロットはほとんど作りませんでした。ただ、主要な登場人物となる4人の性格や特徴、家族構成はきちんとメモをして、中学校の時間割りやどの曜日に塾や習い事があるか、ということもしっかりと決めました。もう一つは、さくら寮の建物、これは古い民家という設定なのですが、この建物の外観や間取り、或いはそよの部屋のレイアウトなどは初めに決めておきました。これらを決めておかないと、お話が進んでいく中で必ず矛盾や違和感が生じると思ったからです。とにかく、準備とは言えないほどの拙い準備ですが、そうしてやっとお話の本編を書き始めたのが、2019年の冬でした。

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2020年に入った頃には、幾つかのエピソードの下書きが出来上がっていました。初めは特に慎重に進めていたので、何度も書き直しや推敲をしながら、2020年3月1日に第一話を公開しました。当初は、先にも書いたように、長めの短編あるいは中編ほどの長さの物語を5月頃までには完結させるつもりでいました。ところが、現実世界の2020年3月は、ほんの2カ月前と比べても、世界が一変してしまった後でした。僕たちはできるはずだったことができなくなり、会えるはずだった人に会えなくなりました。2019年度さくら学院の12人に捧げるつもりで書き始めた物語は、捧げる対象と自分とが途方もなく広く深い地割れで隔てられてしまったような感覚の中で、僕自身にとって、より大きなものへと変化していきました。2020年4月以降の不透明で不安な時期でも、自分が『推し事』を続けている、という実感を、僕は物語を書き、物語の中の彼女たちを追うことで、かろうじて保つことができていたのです。そして、物語は段々と長く深くなっていきました。

僕がこの物語で描きたかったことは、とてもシンプルでした。それは、第一に、やはりこれはさくら学院のファンアートだということ。そして、物語の中で起こる出来事と主人公の行動や意識の変化を通して、2019年度さくら学院の12人に「あなたたちは、誰かの人生をちょっぴり素敵に変えるような、素晴らしい存在なんだよ」と伝えたかった。突き詰めればそれだけでした。この物語は架空の世界のお話で、さくら学院を想起させるグループがカメオ出演的な形で登場しますが、現実の世界の何処かでも同じようなことが起きているかも知れない。さくら学院から自分が受けた感動やその結果として起きた行動の変化を考えれば、それはとんでもない空想ではなく、不思議と信じられるもののように思われました。

書いていく上で注意していたことは幾つかあり、全体のトーンは、K市という世界で起きたことを出来るだけ淡々と描く。ジオラマのように既に存在する世界で息づいている人たちの姿を、ドローンで追いかけているような感覚で描けたら、と思いながら書きました。自分が彼女たちと同じ年齢の頃に見てきた景色や、体験したことを下敷きにして書くことで、K市の様子はかなりリアルに自分の頭の中にあったし、エピソードも、場面場面を鮮やかに頭に思い浮かべながら描くことができたと思います。それから、見たままを描いている感じを出したかったので、あまり手の込んだ表現は使わない、登場人物の心境を直接表現し過ぎず、行動を通して表現するようにする、漢字とひらがなを使い分ける、などを心掛けながら書いていきました。また、書き手がストーリーを動かすという意識をなるべく持たないようにしました。僕が描こうが描くまいが、K市の中で人々は生活を続けていて、たまたま僕が切り取った部分を文章にしているだけで、同じ時に別の場所では別のことが起きている、と思いながら書きました。分かり易く起伏のあるストーリーに合わせて登場人物を都合よく動かそうとすると、ファンアートとして12人の姿を描くという部分が薄れてしまうように感じていました。

12人の容姿を表現する部分は、特に力を入れました。絵の苦手な自分がファンアートとして表現できる唯一の方法なんだぞ、と自分に言い聞かせながら書いていました。一方で、そのファンアートの対象である実際の12人がどれほど魅力的であるかということを知っているだけに、場面を描く中でその魅力を文章で表現しきれないことが本当にもどかしく、苦痛でした。描くのが最も難しかったダンス練習の場面は、ほとんど12人に心の中で謝り続けながら言葉を綴っていました。僕はあなたたちの魅力を知っているのにその魅力を表現する力を持っていなくて本当にごめんなさい、と、下書きのワード文書を開くたびに思っていました。僕が切り取らなかったとしても、彼女たちは知恵を出し合い、力を合わせて練習を進めたと思いますが、その場面を描くことがどうしても必要だったから、下手くそでごめんなさいと謝りながら文章を書いていました。逆に、嬉しい偶然もありました。2019年度のアルバムのサブタイトルが『Story』だったこと、『モノクローム』の歌詞の内容、瓶ジュースの王冠、登場人物たちの言動…。書き進めるうちに何度か起きた実際の12人とお話の場面とのシンクロは、自分が12人をしっかりと見ることができていたという証なのかな…と少し自信を持てた瞬間であり、自分にとっては何よりのご褒美でした。

ファンアート。そして皆さんへ。

描き終えてみて改めて感じるのは、これはかなり特殊な試みだったな、ということです。登場人物を別の名前に置き換えた場合でも成立するような物語でありながら、文章でのファンアートというものが成立している…、完結した時にはそんな風になっていることを目指しながら、長い時間をかけて描いて来たのですが、結果はどうだったでしょうか?この物語が、読んでいる皆さんの心にほんの少しでも何かを残すことができて、それと同時に、2019年度さくら学院への愛と敬意に基づいたファンアートとして受け取ってもらえることを、心から願っています。

最後に、ダンスの練習についてとても詳細に、情熱が込められたアドバイスをくださったそのさん。物語をただの活字から鮮やかな世界へと昇華させる4枚の素晴らしい挿絵を描いてくださったKANAさん。本当にありがとうございました。間違いなく、お2人がいなければ、このお話を完結させることはできませんでした。そして、「お話を書いているんです」と打ち明けた時から、面白そうだねと言ってくださり、1年間という長い間、見捨てずに最後まで読んでくださり、いつも温かい言葉で励ましてくださった皆さん。お話を公開するたびにK市へと足を運び、僕と一緒にそよ、つぐ、ももえ、かの、ここな、さな、みく、ねお、さきあ、ゆめ、みき、みこの12人を見守ってくださった皆さん。本当にありがとうございました。皆さんのおかげで、僕はひとつの小さな夢を叶えることができました。


おまけ。(イメージサウンドトラック解説)

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『放課後、桜の基地で』イメージサウンドトラック

物語の場面や登場人物をイメージして選曲したプレイリストをApple Musicで公開しているので、その楽曲を解説してみました。もし興味がありましたら、読んでみてください。(*物語の内容に触れる記述があります)


1.『When It Rains』/ブラッド・メルドー

物語のメインテーマとして、そして『そよ』のテーマ曲をイメージして選びました。現代のジャズシーンを代表するピアニスト、ブラッド・メルドーの2002年のアルバム『Largo』から。メルドーはストレートアヘッドなジャズは勿論、ロックへのアプローチも積極的な人です。この曲はプロデュースがジョン・ブライオン、ドラムがマット・チェンバレン。ロック寄りのリスナーにもすんなりと受け入れられるのではないかと思います。郷愁を誘うメロディと木管楽器のバッキング、そしてメルドーの温かくエモーショナルなピアノに心をがっちりと掴まれる名曲です。

2.『A Tune for Jack』/Lemon Jelly

『つぐ』と『ももえ』の関係性を表す、淡々としていて軽快なエレクトロポップ。1998年から2008年まで活動したイギリスのデュオ、Lemon Jellyの楽曲。ジャンルとしてはエレクトロニカですが、Lemon Jellyはどちらかと言えば ”踊らせる” よりも、”聴かせる” 音楽をやっているという印象です。大きな抑揚はないけれど、あなたと日常を過ごすだけで心が少しうきうきする。そんな2人の心の内を想像してみました。冒頭のナレーションを切りたかったので、ここに選んだのは『Man Ray』というコンピレーションに収録されているバージョンです。

3.『Part of the World』/レジー・ワッツ

アメリカの俳優、コメディアン、ビートボクサー、ミュージシャンであるレジー・ワッツのソロアルバムからの一曲。この曲も少し淡々としたビートで、温かい旋律と浮遊感のある音が印象的なソウルチューンです。Speechのソロ作品などにも通じる音楽性ですね。つぐとももえが、そよの家に通う日々をイメージして選びました。歌詞はよく分かりませんが、たぶん良いことを言ってるはず!笑

4.『Great To Be Here』/Bacao Rhythm&Steel Band

『かの』をイメージして選曲したのは、Jackson 5の1971年の名曲を、リズムセクションとスティールパンでカバーしたこのバージョン。ファンキーでタイト。夏っぽく、おおらか。Bacao Rhythm&Steel Bandは上記の楽器編成でヒップホップ・クラシックスなどをカバーするという面白いバンドで、この楽曲が収められているアルバム『The Serpent’s Mouth』には他にDr.DreやMobb Deepなどのカバーも入っていて、とても面白いです。

5.『The Precious Jewels』/チャーリー・ヘイデン&パット・メセニー

チャーリー・ヘイデンとパット・メセニーのデュオによる大傑作アルバム『ミズーリの空高く』から、瑞々しく心躍るようなこの曲は、『さくらベース』に集まった子どもたちの夏休みの日々をイメージして選びました。楽曲のタイトルも素晴らしい。大学生の頃にこのアルバムがリリースされ、僕は毎日のように聴きまくっていたのですが、とにかく全編の一音一音が美しい名盤です。『ニュー・シネマ・パラダイス』のカバーは落涙必至。

6.『secret base ~君がくれたもの』/Silent Siren

2001年にリリースされたZONEの代表曲であり、青春や友情といったテーマで選曲されるプレイリストなどでは未だに根強い人気を誇る名曲。さくら学院にとっては、2018年学院祭の寸劇において麻生真彩さんが独唱したことによって特別な一曲となりました。『放課後、桜の基地で』の基地というアイデアは、当然この楽曲にインスパイアされたものです。ここでは、オリジナルよりもスウィートなSilent Sirenによるカバーを選びました。

7.『Jump Up ~ちいさな勇気(instrumental)』/さくら学院

さくらベースの子どもたちがダンスを練習する風景のバックトラックをイメージして選びました。インストバージョンであることがポイントです。

8.『FLY AWAY』/さくら学院

『制服姿の12人の少女たち』の映像を観ながら、さくらベースに集まった12人が2カ月間練習し、バザーで踊った曲。彼女たちにとっての大切な曲。

9.『I Set My Face To The Hillside』/Tortoise

”祭りのあと” の寂しさ。バザーの本番が終わり、晩秋から冬にかけてのさくらベースをイメージした楽曲です。シカゴ音響派ポストロックを代表するバンド、Tortoiseの1998年の名作『TNT』から。スパニッシュな旋律と子供たちの声のサンプリングが、懐かしく切ない感情を呼び起こします。

10.『Wintergreen』/ロジャー・イーノ&ブライアン・イーノ

餅つきの日の夜、小さな部屋で『そよ』と『ねお』が交わした言葉。石油ストーブの匂い、やかんの中でうごめくお湯、窓の外の静寂、雪が降る音。自分で描いた中でもとても印象的だった場面のために、この曲を選びました。イーノ兄弟が初めてのデュオ作品として2020年にリリースしたアルバム『Mixing Colours』は、アンビエントというよりも電子ピアノで奏でられる室内楽のような作品です。

11~12.『Spring 0』~『Spring 1』/マックス・リヒター

たくさんのことが同時に動き、心の準備ができないまま時間だけが過ぎて行くような春の日々をイメージして選曲しました。色々の花がざわめくように咲き始め、生命の息吹が強くなる季節は、人々の日常にも大きな変化が訪れます。マックス・リヒターがヴィヴァルディの『四季』をミニマリズムで再構築した素晴らしいアルバムから、冒頭の2曲。

13.『アイデンティティ』/さくら学院

そよが提案し、お別れ会で、自らのピアノの伴奏でかのに贈った歌。ベースの子どもたちも大好きな歌だし、さくら学院の在校生、卒業生たちにもとても人気がある楽曲ですね。

14.『モノクローム』/さくら学院

この物語が映画だとしたら、エンドロールはこれしかないでしょう、と断言できる曲です。初めてこの曲を聴いた時、自分が描こうとしているお話とイメージがぴったりでとても嬉しかったのを覚えています。まあ、さくら学院のメンバーを想像しながら描くストーリーだから、当たり前と言えば当たり前なのですが…(笑)。ぜひ、ラストシーンの最後の一文に、イントロを被せて聴いてみて下さい。

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