毒林檎01

あざといくらい青春の詩なので「あ、青春の人だ」って思ってもらえるかなって。<PSJ2018ファイナリスト・毒林檎>


2018年9月に催されたポエトリースラムジャパン(以下、PSJ)前橋大会で会場賞を受け、全国大会へ出場された毒林檎さん。

2018年から詩作を始めた駆け出しの高校生詩人がまっすぐ詩に向き合い、真摯に戦略を練って臨んだ前橋大会と全国大会。
PSJのみならず、多くのスラムや朗読のイベントへ精力的に参加し、第2回西荻DUMBO(ラッパーのうめda詩学が主催するスラム)では見事に優勝を攫っていきました。

驚く速度で成長を続ける毒林檎さんに、詩との出会い、大会を通して見えてきたこと、また2019年の活動目標などをたっぷり伺いました!!

初めてのポエトリー、初めてのスラム

―PSJ前橋大会に初出場されて、会場賞を受けて全国大会へ進むという勢いに周りのポエトリースラマーも驚きと興奮を覚えたと思います。前橋大会以前にPSJの大会は観たことがありましたか?

毒林檎:出場を決める前に名古屋大会を観覧して、出るって決めてから動画を見ました。それから、東京大会Bを観ました。

―スラムの経験を教えてください。

毒林檎:スラム経験は(PSJを除けば)西荻DUMBOと路ポス(路上ポエトリースラムの略称。屋外で行なわれるのが特徴)です。
初めに第1回西荻DUMBOに出てみたんです。その時は1回戦でiidabiiさん(エモーショナルなパフォーマンスが特徴のスラマー。今大会で準優勝しパリのW杯に出場することが決定した)に負けちゃったんですけど、負けてても楽しさが残っていて。スラムって楽しいな、と感じました。その時にiidabiiさんが東京大会Aから会場賞で選出されて全国大会に行くことが分かったので、リベンジできるかなって前橋大会にエントリーしたのがきっかけです。

―そのあとに、PSJ前橋大会で会場賞を受けたり、第2回西荻DUMBOで優勝されたりと華々しい成績を残されています。初めてのスラム参加で楽しさを経験して今があるということですね。

毒林檎:そうですね。いま振り返ると(第1回西荻DUMBOでの)僕のパフォーマンスって正直あんまり良くなかったなって。噛んじゃったし。iidabiiさんって、ここっていう肝心な箇所ですごく引っ張り込まれるじゃないですか。それで「ああ、負けたな」って分かったのと同時に「ああ、面白い」と感じてのめりこんでいった。そのままiidabiiさんが第1回を優勝されて「すごい人がいるんだ」と実感したんです。

―詩の朗読を始めたのが2018年で、詩を書いたのはいつ頃からでしょうか?

毒林檎:詩を書くのも初めてです。
僕、アーバンギャルドをよく聴いていて、あるとき松永天馬さんのリーディングを聴いたんですね。それで「こういうのがあるんだな」とポエトリーリーディングのことを知りました。
で、そのタイミングでUPJ5(ウエノ・ポエトリカン・ジャム5。2017年に開催された詩の野外フェス。発起人はさいとういんこ。2017年の主催は詩人の三木悠莉と胎動LABLEのikoma)が開催されたので、観に行こうかなと思ったんですけど、土曜日で学校があったから諦めちゃって。その時はまだ学校休んで行くぞ、って思うまでにはなってなかったので(笑)。だから、UPJ5もポエトリーリーディングのことも自分で始める前から知っていたんです。
それから2017年12月に塾に通いはじめて、その時に向坂くじらさん(ポエトリーリーディング・ユニットAnti-Trenchのポエトリー担当。PSJ2019大阪大会の会場賞を受けて全国大会へ出場)が塾の講師でいらしてたんです。塾内でお話しした時に詩の朗読活動をしているのを聞いて「UPJみたいなものですか?」って聞いたら「なんで知ってるの。私はそこに出てたんだよ(笑)」っていう感じで話が繋がったんです。それでその時お誘いを受けたのが、2018年1発目のポエラボ(ikoma主催のポエトリーイベント)だったんです。

―そうすると、向坂さんに会う前に色々なことを知っていて、たまたまそこが符合していって、そこにポエトリーリーディングの芽みたいなものが生まれたんですね。
そこから実際にポエトリーの界隈に関わって、前橋と全国大会に出場されました。他のMCバトルやライブイベントとPSJが違うところってどんな点だと思いますか?

毒林檎:名古屋と東京大会Bを観に行ったんです。主催の村田さんがいるのは同じだけど、会場とか土地の雰囲気も違います。名古屋はただの観覧で行ったんですが、東京大会Bは前橋大会にエントリーした後だったので見方も見え方も全然違うんですね。PSJは観客が採点するじゃないですか。採点をやってみると、周りと大きく評点が違うことがあって驚くようなことがありましたね。
前橋大会は文学館のホールだったので少し固い感じで、名古屋は鑪ら場っていうライブバー、東京大会Aはクラブ(渋谷R-Lounge)で。出場者によっては「この人たとえば違う会場だったら勝ってたかもしれないな」と思うこともある。会場によって見え方とか評価が変わってくる可能性があるっていうのが特色ですね。

知らない人が思わぬ角度から感動させる

―高校の勉強で習ってきた詩に感動してポエトリーシーンに入ったりする人もいるかもしれませんが、いまの高校に詩の授業ってありますか?

毒林檎:僕は附属高校なので、割と進学校でも削られがちなこともやりますけど、やっぱり平田俊子さんや谷川俊太郎さんなどの有名な方、それこそいまは宮沢賢治の「永訣の朝」をやってます。詩って授業で教わると作者の経歴とか、その詩が書かれた背景とか、外堀から埋めていく感じになります。なので詩そのものは意外と生徒自体が面白いと思わないと過ぎ去ってしまいます。小説はそれなりに面白がれるところまで連れてってくれるんですけど。
去年短歌を授業でやったら、斎藤茂吉はかっこよかったです。だけど、他はピンとこないなみたいな感じでした。授業では、この人は何年生まれで、こういうところが評価されて、何々を確立して、この詩が作られた背景は戦争が終わって何年で、ということが多くて歌自体はそんなにやらなかったです。

―どうやって詩が生まれたのか、ってのを教えるっていう感じですよね。でもその中でも斎藤茂吉とか自分でかっこいいなと思えるものはあるんですね。

毒林檎:そうですね。あとポエトリーシーンに入ってから単純に授業で知ってる人が増えたなと感じます。塚本邦雄が出てきて、あ、くじらさんに教わった人だ、とか(笑)

―それに比べると、ポエトリーシーンに経歴はあまり関係ありませんよね。

毒林檎:知ってる人が少ない中において参加する大会で、疲れがあったり勝ち上がって次にどうしようって考えたりしてて、正直耳に入ってこない場合もあるんです。けど、荒木田さん(荒木田慧。前橋大会の優勝者)はすごいカッコイイなと感じたら、そのまま1回戦で26.9点を叩き出して、結果優勝しました。見た目だけでは判断できなかったり、知らない人が思わぬ角度からとんでもないリーディングで爆笑とか感動を攫っていくこともあるな、って気づかされますね。

―PSJに臨むときに、なにか戦略みたいなことや、自分のスタイルは考えてましたか?

毒林檎:前橋大会はすごい戦略を練ってました。僕は来年まで高校生なんですけど、高校の内に全国大会行きたいなと思ってました。どうしようかと思ったときに、1本目に青春を感じられる『青の名前、くすんだ春』(以下、青の名前)を読んだら、「あ、青春の人だ」って思ってもらえるかなって。あざといくらい青春の詩なので。そのあとに「ピンク」っていう詩はどうとも言えないんですけど、1本目の青春の色に一枚フィルターがかかって青春っぽいな、って思ってもらえるかなって。そういう前橋大会の臨み方でした。
全国大会でも1本目は『青の名前』でいくのは決めてたんですけど、三木さん、荒木田さん、野口さん(野口あや子。歌人。名古屋大会にて準優勝)が同グループにいて、一人しか上がれない。それでいて、そのグループは採点が少し辛い感じがあって、2本目を置きに行っちゃって。そんなに悪いと思われなさそうなものを読んだために、突き抜けられなかったなと思います。

―1本目の評価が低いと焦りますよね。毒林檎さんは全国大会を前に色んな人から情報収集していた姿が印象的でした。『青の名前』は高校生という特に若い詩人であり、今だから読める詩だと思いました。

朗読スタイルと今後の展望

―毒林檎はどこからきたペンネームですか?

毒林檎:いくつかあるんですけど、椎名林檎とか吉田戦車みたいな名前っぽくない名前が好きで。アイドルの推しに恋汐りんごって人がいて、その林檎をつけたかったし名乗りたかったんですけど、男子高校生で林檎名乗るの恥ずかしいなあ、っていう(笑)それで変な葛藤からなんか間違った方向に逃げて、毒林檎になったんです。くじらさんには林檎は別にただの果物で名詞だけど、毒林檎はメルヘン感出るからそっちの方が恥ずかしくない? って言われましたけど。

―毒林檎っていう名前と詩の雰囲気にまっとうな青春じゃない感じが出ていますよね。詩を書く上で影響受けた人はいますか?

毒林檎:今まで詩や短歌はあまり読んできてません。どっちかっていうと小説やラノベで、詩人というよりリーディングで聴いた人の方が印象的です。やっぱりくじらさん。ガッとギアを入れる感じはiidabiiさんの影響が強いかと思います。

―詩をいくつか読ませてもらって、なんとなく物語性が感じられました。

毒林檎:物語性があるのはやはり文章のイメージが小説やラノベから来ているからだと思います。その中でももう少し、自分の思う詩らしさを考えたのが『ボトルシップ』という作品です。

―朗読のスタイルについて聞かせてください。

毒林檎:書くときはスマホで、縦書きで紙に印刷して読んでます。暗記はいずれやってみたいですが、覚えるのが遅いのでやるんだったらちゃんと準備していかないとな、と。最初の方はスマホで読んでいたんですけど、くじらさんにスマホで読むと小さく見えるし、視線が下に行きがちになるとアドバイスを受けまして。そのスタイルが合う人もいるけど、君の場合は紙でやった方がいいんじゃないと言われて紙に変更しました。
スタイルは自然なままですけど、声は変えてますね。あからさまに声を低くしたりとか、それこそ役に入るようなことはしないですけど、テキストに合ったテンポにしたいな、と考えてます。あと僕はまだやってないですけど、紙を落とすかっこよさってあるじゃないですか。その場に言葉を落としていくような。パッパッて。
誰かにあてた手紙をどんどん没にするようなパフォーマンスを見たことがあるんです。一言だけ書いて捨てたりとか、何枚も一気に捨ててくと姿が印象的でした。

―最後に。運命的にポエトリーリーディングのシーンに入ってきて、2019年やりたいことってありますか? スラムに出続けたいとか、誰かとコラボとかライブやりたいなど展望をお聞かせください。

毒林檎:ライブでゲストとして出られるようになりたいです。オープンマイクだけではなくて。スラムって色んな面を見せていくようなイメージですけど、ライブにゲストで出れるなら、『青の名前』で出したような青春感をもう少し掘り下げてみたいと思っています。


【プロフィール】

毒林檎 <どくりんご>

高校生。2018年の2月、師である向坂くじらのパフォーマンスを見て、4月にポエトリーリーディングを始める。その後ポエトリースラムジャパン2018前橋大会会場賞、全国大会出場。


                                                                                      (取材・原稿/遠藤ヒツジ)


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