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【詩カフェレポート】 山之口貘さんってなんであんなに自然体なんだろう

詩のなかに貘さんがいる

今春から東京・西荻窪の今野書店さんで始めた「詩をめぐる対話カフェ」(詩カフェ)。毎回ひとりの詩人をとりあげ、その詩についてみんなで話してみようという会です。第1回の茨木のり子さんに続き、第2回は沖縄出身の詩人、山之口貘さんをテーマに開催しました。

6月2日(日)午後2時、今野書店のB1イベントスペース。参加者はそれぞれお好きな貘さんの本を手に集まってきます。円形に並べた椅子に座り、山之口貘作品をいくつかプリントした資料が配布され、さて、詩カフェオープンです。

会についての簡単な説明のあと、まずは案内役の私(村田)が数篇を朗読します。「座布団」「存在」「生活の柄」「自己紹介」…どれも貘さんらしさが滲んでいて味わい深い。

この朗読をきっかけに、皆さんの手が上がりはじめました。(詩カフェは話したい人が話したい順に話してOK、そして黙って聞いているだけでもOKというルールです)

「言葉だけなのにメロディーが乗っているような感じ」
「貘さん本人も自分のなかに生まれたリズムにのって書いているのでは」

なるほど。確かに高田渡さんなどフォークシンガーを中心に、貘さんの詩は歌としても愛されています。

「読むと顔が浮かぶし、身体性も感じられる。貘さんがいるなっていう感じ」
「戦争真っ只中の時期に書かれたものでも今の自分にスッと入ってくる」
「自分のスタイルを一貫してやっているんだと思う」
「貘さんにはずっと孤独でいてほしいと思ってしまう」

思い入れのある作品、その好きなところについて話が弾みます。貘さんの写真集(『アルバム・山之口貘』沖縄タイムス社刊)を持参された方がいて、回し読みしながら盛り上がる一幕も(上野公園で動物のバクと一緒に写っている写真もあるんです。チャーミング!)。

読む人、語る人を率直にさせる詩

次第に、参加者ご自身の経験や生活にからんだ感想も出てきました。特に盛り上がったのが「若しも女を掴んだら」と「座布団」をめぐって。

前者は、独身時代の貘さんの「結婚したい」という思いを滑稽なほど暴走させたような作品。「大声を張りあげたいのである」「街の横づらめがけて投げつけたいのである」という突拍子もない表現に、男性参加者から「欲を隠そうとしない」「社会的なことに囚われない」感じが「クレヨンしんちゃんっぽい」「魂そのものが現れている」という感想が出ます。それに対して女性の方からは「(女性をモノみたいに描いているのは)もちろん良くないと思います」と前置きしつつ、「○○(結婚、お金etc)さえあれば、という感覚には親近感を覚える」という話も。

「座布団」については
「自分が食べていくのにギリギリだった頃は読んでも特に感じなかったけど、いま普通に生活できてる状態で読むとすごく共感できる」
「たとえば外食したとき、美味しくて便利だけど何か足りていない感じもする。ダサくあり続けるかっこよさや、貧乏であることを隠さず誇るさまを見ると、自分はどうなんだと内省させられる」
今野書店の花本さんからは
「貘さんについて語ろうとすると人は率直になっていくのでは」という発言もありました。なるほど納得です。

話をしていくうちに「なぜ貘さんだけがそんなに率直で自由に、自然体でいられるのか?」と疑問が湧いてきます。けして貧乏に開き直ってる訳でもないし…というところで、前半は終了しました。

記録用のホワイトボード。速記は今回も今野書店・花本さん。

ひとりでは思い至らなかった考えが深まる場

5分休憩ののち再開。「なぜ貘さんは自由なのか」という問いに近づいたり離れたりしながら、後半も対話は続きます。

「詩によく使われる『食う』という言葉に、強烈な生きるエネルギーを感じる」という意見に対し、別の参加者から「『食う』には『自分の血肉にする』という意味があるのでは」というレスポンスが返ることもありました。ひとりでは思い至らなかった点に考えが広がっていくのも、詩カフェの面白いところ。

後半で注目された詩は「数学」。「アナキストですか?コミュニストですか?」と尋ねられた主人公が「僕なんだから僕なんです」と返すという作品で、肩書きや所属というものにこだわらない貘さんらしさに溢れています。

「私たちはSNSのプロフィール欄に、エンジニアですとか主婦やってますとか書くことで安心できるところがあるけど、貘さんは何もなくても元から僕じゃないかと言ってしまう」
「日本人であるとか山之口貘であるっていう以前に、地球人であるというような捉え方。僕たちが往々にして忘れてることを忘れずに生きてるんじゃないか」

そして「貘さんは開き直ってるわけではない」という話に対しては、「もとから開かれていて閉じられたことがないから、開き直りじゃなくて開きっぱなしだ!」という意見が飛び出しました。まるでとんち問答のような見事さです。

話をしていると2時間はあっという間。最後にアンケートを書いていただき終了しました。

*****

詩カフェは詩についてみんなでおしゃべりをするだけ、というシンプルな会。参考にしているのは「哲学カフェ」「対話カフェ」のやり方です。勉強会やディベートではないし、詩に詳しくなくても大丈夫。ふらっと立ち寄っていただくのも大歓迎です。たくさんの方に詩をひらく場所にしたいと考えています。

次回(第3回)は7月28日(日)14時〜を予定しています。テーマは石垣りんさん。詳しくは追って今野書店のサイトにて告知いたします。

次回はどんなふうに話が広がっていくのか楽しみです!


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