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【詩カフェ】石垣りんさんの詩が今も胸に迫るのは、なぜだろう。

西荻窪・今野書店さんでのシリーズイベント「詩をめぐる対話カフェ」(詩カフェ)。次回のテーマは石垣りんさん。ということで、石垣さんの詩集をあらためて読んでおこうかな…というタイミングで、こんな記事に出会いました。
翻訳家の斎藤真理子さんが筑摩書房のPR誌「ちくま」に連載しているエッセイ「読んで出会ったすごい人」。最新号(7月号)では『銀行員の詩集』をとりあげています。

銀行名がずらりと並んだ詩集

『銀行員の詩集』はその名の通り、全国の銀行員が書いた詩をまとめたもので、1951年から1960年まで年1回、計10回刊行されたもの。当時は労働組合の文化活動が盛んで、「職場サークル詩」が多く書かれたそうです。斎藤さん曰く「『銀行員の詩集』はその代表的存在ではないか」とのこと。

そしてこの『銀行員の詩集』こそ、詩人・石垣りんが世に出た最初の媒体。私も国会図書館で借りてみました。手にしたのはシリーズ7冊目の1957年版。この頃にはすでに石垣さんは編集委員にも加わっています。

目次を開くとそこにはタイトル、作者名に加えて銀行名が並んでいて、なんだか新鮮です。日本銀行、三井銀行、石垣さんが務めた日本勧業銀行といった大手から青森銀行や静岡銀行といった地方銀行、あるいは信用金庫まで。

京都銀行の有馬敲(ありまたかし)さんのお名前もありました。有馬さんといえば、京都の喫茶店「ほんやら洞」に集って朗読などの活動をした「オーラル派」詩人の中心メンバー。収録された作品を読めばなるほど、無駄のない文体がぐいぐい迫ってくるようで、ほかの作品よりグッと抜きん出て感じられます。

抜きん出ているといえばもちろん石垣さんも。『月給袋』という詩では、父母や弟たちの生活費をひとりで支え続けた石垣さんの現実が、紙袋ひとつに託して強烈なタッチで描かれています。

日々の暮らしから生まれる知られざる詩たち

でも読み応えあるのは石垣さん、有馬さんだけじゃない。斎藤真理子さんもエッセイに書かれていますが、読んでいくうちに他の人の詩もどんどん面白くなってくるんです。たとえば私があやうく感涙しかけたのが、日本勧業銀行・村崎美弥さんの「ある交換手のこと」という作品。主人公は電話交換係らしい。

「感じのいい交換手さんですよ」と誰かが褒めてくれた、それを伝え聞いた当の本人は、しかし違和感を感じてならない。

受話器を取った瞬間に
私の口は機械になるのだ
テープレコーダーのように
正確に同じ言葉が流れるのだ

(村崎美弥「交換手」より)

この感覚! 組織のなかで働くとき、マニュアルに沿って仕事をするとき、自分が機械になってしまった気がするのは、昭和30年代も令和も変わらない。やりきれなさのなかで「今日1日の生活の流れを/他人事のように眺めている」主人公に、思わずシンクロしてしまいます。

『銀行員の詩集』に寄せられた詩は職場の詩だけじゃありません。恋愛や人間関係の詩もあれば、戦争の記憶や水爆実験のニュースに関わる社会問題の詩も。働く人たちがこんなに自然に、普通に、詩を書いていた時代があったのか。
いや、今だって書けばいいんですよね。自分の周り半径数メートルの世界から始めれば。スマホやPCを叩いては肩が凝りまくり、止まらない円安にスーパーでは1円でも安い野菜を探す日々から、詩を生み出していけば。

そうやって小さな生活の中から詩を描き始め、大きな世界までを見据えた大先輩、石垣りんさん。次回の「詩をめぐる対話カフェ」では、石垣さんの詩についてぜひあなたのお話をお聞きしたいです。とはいえいつも通りのゆるい会。うまく語れなくても問題ないし、聞いているだけでもオッケーです。
7月28日(日)14時〜16時予定。ご予約は今野書店まで。


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