週中の詩08「推しのためにできることは果たして金だけか」

登場人物
・上代尊…”ヒナギク”の同人誌に魅了された男。尊み求めて彷徨う上り野郎。アカウントネームは“SEM-01”(読み「せむいち」)。与えるだけでいいのか。
・米沢聖…年末即売会で尊と出会った少女漫画大好きレディ。”ヒナギク”は最推し。アカウントネームは“ツバキ”。経済を回すだけがヲタ活ではないよね。
・桜ケイ…尊と聖の推し絵師、同人作家”ヒナギク”そのひと。描いている作品はすべて全年齢作品。差し入れは手紙がいいな。

~2月9日11時00分、尊の部屋~

上代尊〈通知音と陽射しで目を覚まし、スマートフォンの通知リストを見る〉

“ヒナギク”「設営完了しました! 今日はよろしくお願いします」〈1時間前の投稿〉

上代尊「今日はイベント当日だったか。“ツバキ”さんも投稿している」

”ツバキ”「会場到着。やっぱり年末じゃないから落ち着く」〈2時間前の投稿〉

上代尊(楽しいそうだし行きたいが)〈SNSの話題タグリストから今日開催の即売会『オリジン』というワードを見つける〉

上代尊「今月は、いや、今月もゆとりがない」(会場からそんなに遠くないところにいるのに)〈財布、家計簿、通帳を机上に広げてため息をつく〉

~2月9日12時03分、尊の部屋~

上代尊「ん? どうしたんだろう」〈昼食をとりながらゲーム配信を視聴中、”ツバキ”から”SEM-01”宛にメッセージが入る〉

”ツバキ”「会場限定新刊、無事に手に入りました。今日は行けない感じですか?」

”SEM-01”「今月厳しいので。”ヒナギク”先生に申し訳ない」

”ツバキ”「なぜ?」

上代尊(なぜって、そりゃ……)

”SEM-01”「手の届くところにあるのに行けないなんてどう考えても金の管理ができていない僕の落ち度だからです」

”ツバキ”「考えすぎか(笑) 別に買いに行くばかりが推しへの貢献というわけじゃないからね。そこを間違えちゃいけない」

”SEM-01”「ありがとう。無理のない程度に推していくよ」

~2月9日15時00分、尊の部屋~

上代尊(眠くなってきた)〈課題を終え、詩を書き始めてから30分、微睡みはじめる〉

上代尊「”ヒナギク”先生の通知か」〈通知音で目を開く〉

”ヒナギク”「”Daisy biscuit”撤収します! お疲れ様でした!」

”ヒナギク”ファン「本日はお疲れ様でした。もうすぐ誕生日ですね」

上代尊「ん? 誕生日?」〈”ヒナギク”のプロフィールを見る〉

上代尊「2月15日……確かにもうすぐだ。やっぱり今日行っておけば、いや」(『直接買いに行くばかりが推しへの貢献じゃない』だったな)

上代尊(さて、なにかできることないかな)〈数十分俯き考えてできかけの詩が視界に入る〉

上代尊「詩、いや、散文を贈るのか?」(週に2,3編SNSに投稿してるとはいえ、知名度なんてないし)

上代尊「けど、これしかない!」

”SEM-01”「”ヒナギク”先生、こんにちは。『オリジン』お疲れ様でした。もうすぐ誕生日と聞きました。詩でお祝いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

上代尊(我ながら少しどうかしてるかな)

~2月9日17時00分、尊の部屋~

上代尊「やっぱりどうかしてたかな」〈通知音に反応し、スマートフォンに手を伸ばす〉

上代尊「!?」〈”ヒナギク”からの返信に目を丸くする〉

”ヒナギク”「こんばんは、詩ですか!? いいですよ。よろしくお願いします」

上代尊「慈悲深い……よし、いい詩を書く」〈涙目〉

~2月15日00時00分、尊の部屋~

上代尊「よし、送信!」〈即寝落ち〉

~2月15日07時00分、尊の部屋~

”ヒナギク”「とても優しさを感じます! ありがとうございます!」〈尊の詩も拡散済〉

上代尊〈胸をなでおろす〉


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