週中の詩14「悲しみも尊べ」【最終回】
登場人物
・上代尊…”ヒナギク”の同人誌に魅了された男。尊み求めて彷徨う上り野郎。アカウントネームは“SEM-01”(読み「せむいち」)。もっと目標持って生きなければいけなかったのかもしれませんね。人生の主役として。
・米沢聖…年末即売会で尊と出会った少女漫画大好きレディ。”ヒナギク”は最推し。アカウントネームは“ツバキ”。途中で自分で何を言っているのかわからなかったけど、まあ、伝わったならいいか。過去とかなかったけど、思い出したくないし、まあ、打ち切られてよかったのかもね。
・桜ケイ…尊と聖の推し絵師、同人作家”ヒナギク”そのひと。描いている作品はすべて全年齢作品。「村上キヨムネ先生の次回作にも乞うご期待!」とか言わなくても大丈夫そうですね。
・アイ …ケイの友人。「Daisybiscuit」では発足以来ずっと売り子。外ではケイのことを”ヒナ”と呼んでいる。ヒナ、お疲れ様。今回私の出番はないけど、あとは私たちが片づけておくから、温泉まで運転お願いね。
・匿名女上司…聖の職場の上司。聖からは「先輩」と呼ばれている。聖のヲタ活に多少の理解はあるものの、干渉はしないと決めている。王子レベルの顔つきの持ち主。名前は秘匿にしたいとのこと。あれ、今回出番ないはずなのになんでアイと一緒にいるんですkni……
~2月22日2時22分、尊の夢のなか~
上代尊〈部屋で目を見開き言葉を失う〉
ニュースアプリの見出し
『新病”ハヤリ”、終息の見通し立たず』
『日用品・食品の大量強奪、80代女性現行犯逮捕 転売目的か』
『買い占めた男性の自宅を特定し焼き討ちした少年が焼身自殺』
『イベント中止が続く中、見直される”籠城ライフ”』
『特集 ローガイと若者は相容れないのか』
上代尊(こんなアプリ入れたおぼえはない。夢だとしてもひどい見出しだ)
上代尊〈窓の外を覗くと、衛生用品を取り合う人々と撮る人々が視界に映る〉
上代尊「寝よう。ここで寝れば少しはマシな……眠れない」〈人々の叫びで眠れない〉
上代尊(ん、なんだこれは?)〈右手にナイフ、左手に銃を握っていて、放せない〉
上代尊「 。」〈瞬き一回で議事堂内の人間殲滅、瞬き二回で屍山の頂上で引き金をひき、人工衛星を自分の真上に落とす〉
~2月22日7時22分、尊の部屋~
上代尊〈絶叫とともに目を覚まし、飛び起きる〉
上代尊「刃物も、銃も、ない。夢か……」〈部屋を見回した後、胸を撫で下ろす〉
上代尊〈テレビの電源をONにする〉
ニュースキャスター「今年もインフルエンザと花粉症が猛威をふるい……」
上代尊「よかった、いつも通りだ。スマホはどうかな」〈テレビの電源をOFFにして、スマートフォンの通知を見る〉
上代尊「」〈”ヒナギク”の投稿(2月22日6時22分)に絶句する〉
”ヒナギク”「私、”ヒナギク”、並びに”Daisy biscuit”は次回の盆前即売会への参加を見送らせていただきます。それ以降のイベントの参加についても未定です。SNSには以前と同様、定期的に投稿します。同人誌はしばらく通販がメインになります。少しだけゆっくりしてきます」
上代尊〈膝をつき、横になる〉
~2月22日14時22分、尊の部屋~
上代尊(なにか悪い夢をみたような……)〈目を覚ましてスマートフォンの画面を見る〉
”ヒナギク”【2月22日6時22分の投稿】「私、”ヒナギク”、並びに”Daisy biscuit”は次回の盆前即売会への参加を見送らせていただきます。それ以降のイベントの参加についても未定です。SNSには以前と同様、定期的に投稿します。同人誌はしばらく通販がメインになります。少しだけゆっくりしてきます」
上代尊「やっぱり夢じゃないのか……夕飯買いに行こう」(うなだれる)
~2月22日15時22分、『きんじょスーパー』内~
店内 〈買い物客の愚痴で蔓延している〉
上代尊(よし、これでしばらく大丈夫かな。早く帰ろ……)
米沢聖「”SEM-01”さん」
上代尊(今日はまっすぐ帰りたかった)
~2月22日15時33分、『きんじょスーパー』からの帰路~
米沢聖「ちょっと元気なさそうに見えたから。たまには悩みとか聞かせて」
上代尊「大丈夫ですよ。”ヒナギク”先生がしばらく休むって聞いて少し落ち込んでただけ……」〈涙がひと筋〉
米沢聖「いやとても大丈夫そうに……いや、もう大丈夫だね」
上代尊「泣いている人間にかける言葉ではないかと」〈涙拭きながら〉
米沢聖「いいものだけを無条件に受け入れても何も変われないと思うんだ。”SEM-01”さんは愚痴とか言っても何も変わらない、無駄と思っているね?」
上代尊「もちろん」
米沢聖「そういう無駄と愛してもいいと思う。もし尊く思えたら楽しみも増える。悪いことがあっても学べたと思える。それじゃダメかな。ダメなら……」
上代尊「きっとそういう点で”ツバキ”さんとは平行線ですね。けれど、そういう相容れないところがあってもこうして仲良くなれることを”ツバキ”さんとの交流で知りました。ありがとうございます。今後とも同じ推しを応援する者として、よろしくお願いいたします」〈手を差し出す〉
米沢聖「よろしくね」〈握手〉
~2月22日21時22分、SNS内~
”ツバキ”「あとで報酬を出すから今日の出来事で一編書いてほしいです」
”SEM-01”「唐突すぎますね。ですが、”ツバキ”さんの頼みなら」
”ツバキ”「ありがとうございます」
~2月22日22時22分、SNS内~
”SEM-01”〈詩を投稿〉
”ツバキ”「いつも素晴らしい詩をありがとうございます」
【SNS通知、”ヒナギク”さんがあなたの投稿を拡散しました】
「週中の詩 おわり」
以下、あとがきです。
「週中の詩」を見て下さった皆様、ありがとうございました。そして、お許しください。
先日のツイートの通り、本作は第14回をもって、最終回となります。詳細は下記ツイートより。
物語を書き、そこから詩を生み出す。詩を生み出し、そこから物語を紡ぐ。
僕が数年前からやってみたかったことですが、やはり難しいものですね。もとより人間そのものより人間の営みに関心を向けつつある昨今の自分には自分の生み出した人間を特別視できなかったのかもしれません。
中学時代、物語を書いたことがありますが、似たような壁にぶつかった記憶があります。あの頃と変わってないのです。原因が分かっただけです。
スケジュール調整もダメダメで、昨年の個人詩詠「記念日poem366」もギリギリで終わり、人物設計もままならないまま、展開もオチも決めず、最終回まで毎週が見切り発車でした。
今年4月1日の投稿後から大晦日は個人詩詠はお休みして、すこし詠うペースを落とします。絵詩と所属している”re:words”の活動もありますので、退屈することはないでしょう。現に、Twitterの絵詩も少し滞っていますので(絵師の皆様、ごめんなさい。4月2日までには書き上げます)。あと、詠ってばかりはきついので、本を読んだり、数日前に買ったUNDERTALEもゆるりと実況しながらやりたいです。スクワットマジックのほこりも払わねばなりません(あれ、まだ忙しいな?)。
来年以降については今後検討する予定です。しばらくお待ちください。
最後に、本作に読んで下さった皆様に感謝と謝罪をこめて。
「ありがとうございました。そして、お許しください」
……僕から遺す言葉は以上です。匿名さん、楽に頼みます。
村上キヨムネ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?