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2021.3.2. 吉野弘さんの詩より

吉野弘さんは「祝婚歌」がとりわけ有名です。
ほかの詩でも、自然や街のなかのひとに向ける目は、遠めで優しいものです。

彼には娘がいましたが、ちょうどその詩も、ひとや自然を見守る穏やかなお父さんの目線で詠まれたのかもしれません。

つくし

つくし
土筆
土から生えた筆
つくし 土筆
光をたっぷりふくませて
光を春になすっています

* 全文を引用していません。次も同じです。

雪の日に

雪がはげしく ふりつづける
雪の白さを こらえながら
どこに 純白な心など あろう
どこに 汚れぬ雪など あろう
雪は 汚れぬものとして
いつまでも白いものとして
空の高みに生まれたのだ
その悲しみを どうふらそう
雪の上に 雪が
その上から 雪が
たとえようのない 重さで
音もなく かさなってゆく
かさねられてゆく
かさなってゆく かさねられてゆく

そして、「祝婚歌」です。全文を歌のように続けて読むことに味わいがありますが、一部分ずつ抜粋します。

祝婚歌
二人が仲睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい

最後の方は引用しませんでした。
どこかで読んでみてください。

『吉野弘 詩集』ハルキ文庫



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