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『ギーターンジャリ(歌の捧げもの)』タゴールの詩(2)

インドの詩人、タゴールの詩を紹介します。

敬虔な心で、インドの神に深い敬愛の念を示す詩集『ギーターンジャリ(歌の捧げもの)』より、一篇の一部を引用します。

織るや 真薦(まこも)の玉蓆(たまむしろ)
 編むや しうりの花かづら
新草(にいくさ)の 初穂をとりて
 籠(こ)を作り来ぬ
来ませ 秋の女神(めのかみ)
 白雲の車 召し
来ませ 浄き蒼天(あおぞら)より

「来ませ」の呼びかけがくり返されます。

 散る まあらてぃの花を
蓆に敷きつ 隠らふ庵(いほ)に
 潮満つ 恒河(がうが)のほとり
帰り来(く) 鷗(かもめ) 翼を広げ
 君を慕ひて

「真薦(まこも)」「しうりの花」「まあらてぃの花」などの言葉は、土着の植物を示しています。

「恒河(がうが)」はインドの大河、ガンジスです。

高響(たかな)るや 君が 黄金(こがね)の
 琴の 調べの
 優にやさしき
笑声(ゑみごえ)の 溶けて 束の間
 流るる涙
黄金咲く石 閃くや
 巻雲の縁(へり)に
忽(たちま)ちに 恵み 垂れ
 心を 愛(め)でます──
思念(おもひ)みな 黄金とならむ
 闇は 光と
知らず 世の始(はじめ)より 幾度か
生命の河に われを浮かべし
君よ はた 幾何(いくばく)の家に 道に
歓喜(よろこび)を 生命に 授けし
人知らず 幾何の代に
生命を 満たせし
苦と楽を 愛と歌を
 幾何の甘露の雨に

「君」は姿も名も知れない、ヴィシュヌ(神)ともシヴァ(神)ともわからない不可思議な神を表すようです。

すべてベンガル語(インドの言語)からの翻訳です。日本語の言葉遣いも美しく、訳者のタゴールへの敬愛を感じます。


『タゴール詩集 ギーターンジャリ』渡辺照宏訳 岩波文庫


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