見出し画像

001:君が傍にいてくれる、それだけで

この言葉は届いている?
私の姿は、君の瞳に映っている?
 
いつかこんな日が来るとわかっていた。
君がいなくなる。
君の前から、私が消える。
 
私の声を聞いていた。
私の姿を見ていた。
 
だんだん減っていく君との接点。
 
まだ私の温もりを感じることはできる?
私が触れているところがわかる?
 
見えない。
聞こえない。
感じない。
 
君は今、どこにいる?
私は今、どこに向かう?
 
君の声が聞きたい。
でも、君は答えない。
 
あんなに感情を表していた瞳はガラス玉。
ぴくりとも動かない。
見ることそのものを忘れたように。
 
触れれば暖かい君の唇。
まだ君はここにいる。
もう君はここにはいない。
 
君が君自身のことを表現する術。
それが全部失われたとするなら。
 
君は今、どこにいるのだろう。
 
冷たい指先。
人が人たる体温を忘れたように。
この冷たさが全身を覆ったら。
 
私は君の前から消える。
君は私の前から消える。
 
そのどちらが正しいのだろう。
 
君が今いる世界はどんな姿をしている?
美しいものに溢れているの?
君が恐れた苦しみは消えた?
 
それでも。
私は君を諦めきれない。
 
ある日。
 
君はまぶたを開くことをやめた。
 
静かに呼吸に合わせて上下する胸。
時々開く唇からの吐息。
 
暖かい。
 
そのことに安堵する。
君はまだここにいる。
私はまだここに来られる。
 
静かに、静かに。
ひっそりと呼吸する君。
 
酸素を吸って、二酸化炭素を吐く。
 
この営みは、いつまで続くだろう。
続くことに、君が絶望しないでほしい。
 
でももし。
絶望することさえ許されなくなったら。
君の想いは、どこへ行くのだろう。
 
安らかであれ。
 
そう願う。
それが君にしてあげられる最後のこと。
この願いが君に届くか、わからないけれど。
 
聞こえなくても。
感じなくても。
 
願いは届くと信じたい。
信じていたい。
これは私の想い。
 
君には迷惑になるだろうか。
君の心にこの想いは余計だろうか。
 
知らず知らず、私がわがままになっていく。
君を想うことを諦められない。
 
馬鹿だ、私は。
 
君が安らかにと願う。
それなのに、君に無理を強いる。
 
君が傍にいてくれる、それだけで。
私は幸せを感じてしまうから。
 
この想いをどうしたらいい?
狂いそうになるこの気持ちを。
 
震えるほど君の存在に感動する。
君からもらったすべてのもの。
私の心の中、愛情という名の蜘蛛の巣。
そこにひっかかった君のくれたもの。
 
同じだけのものを返せていただろうか。
 
小さく開かれた君の暖かな唇。
そっと私の唇を重ねる。
 
暖かさを感じ、離れたその時。
 
心電図の心音が消えた。



「恋唄100題 その一」
お題配布元
site name : 追憶の苑
master : 牧石華月さま
url : http://farfalle.x0.to/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?