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チェーン店はなつかしい旧友に似て。

くやしいけれど、蔦屋書店とスタバの組み合わせが好きだ。

すでに大多数のひとに支持されているものをいいねというときは、んー、結局わたしもいちマイノリティとしてまんまと乗せられてるぜちきしょうめ、という妙なくやしさをともなう。まあそれでもいいんだ、好きなんだ。

1年ほど前、福岡の六本松というところにも、再開発で蔦屋書店とスタバの入った建物ができた。同じビルの上層にある科学館には家族で何度か足を運んでいたのだけれど、先日初めて、ひとりで蔦屋書店へ足を運んでみて、思った。

“ああ、やっぱりこの空間、好きだなあ”。

たくさんの本や雑貨をゆったりと並べることのできる、余白のある空間。

たとえば料理というジャンルなら、料理にまつわる本が並べられているその近くに、おしゃれな調理器具や、マグカップや、調味料なんかがこれまた何の違和感もなくディスプレイされていたりする。書店という名前だけれど雑貨店のようでもあり、歩いているだけでも楽しい。

店内にはいたるところにソファや椅子があり、ひとびとはちょっと気になった本を、手にとり腰かけてゆっくりと眺めることができる。

はたまたそんな空間に、スッと溶け込むように配置されたスターバックス。注文したフラペチーノやコーヒーを片手に、じっくりとお気に入りの雑誌や小説なんかを楽しむ、なんてこともできるのだ。

そうして大人がゆっくりと贅沢な時間を過ごしているかと思えば、絵本コーナーではこどもたちが触って遊べるおもちゃなんかもあり、親子連れでにぎわう。訪れたひとびとは、思い思いの時間を過ごす。

* * *

そしてわたしの場合、“好きだなあ”と同時にドドドと心に押し寄せてきた、もうひとつの思いがあった。それは、

“な、な、なつかしい……!!”。

である。

フリーランスとして働き始めたころ、わたしは神奈川県の湘南界隈に住んでいた。ちょうどその途中、湘南T-SITEという、蔦屋書店を軸とした複合施設が、その界隈にもオープンしたのだ。

自宅での作業に行き詰まったりすると、けっこうな頻度でお邪魔していた。スタバのカウンターで作業をしつつ、そこでも疲れたら店内を徘徊して本や雑貨を手にとり、刺激をもらいつつ気分転換させてもらっていたなあ。

そのときの気持ちを、期せずしてありありと思い出した。

この日は子連れではなく、ひとりで訪れていたということも大きかったのだろう。

仕事に明け暮れていた独身時代の自分と、見知らぬ土地で新しい家族と暮らすいまの自分。4年ほどの年月と、900km近い距離を飛び越えて、そんなふたりの自分がつながった。

何もかもが変わった自分にとって、そのなつかしさは胸にしみた。

* * *

チェーン店でふるさとを感じる、というと滑稽だけれど、近い経験があなたにもないだろうか。

たとえば海外の初めて訪れる土地で、マクドナルドを見つけたときのような。もしくは、上京して一人暮らしをする中で、地元にもあったファストフード店に入り、なじみのメニューを頼むときのような。

新しい経験を求めてきた。冒険にきた。ローカルを知りたくて、ローカルに触れたくて来た。そしてそういう刺激にも確かに触れて、どきどきわくわくしている。しているのだけれど。

そんなときにふと、心の拠り所になってしまうような、かつての旧友のような気恥ずかしさとなつかしさと、ときに泣きたくなるような安心感が、チェーン店にはある。わたしは勝手にそう思っている。

時をこえて、場所をこえて、圧倒的に「違うけれど同じ」「昔の延長線上にある自分」を感じさせてくれる旧友。会えて嬉しかった。

ああ、またがんばろう、と思うよね。なつかしい友達に会うとさ。

(おわり)

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info

■『六本松421』
福岡県福岡市中央区六本松4丁目2-1
http://www.jrkbm.co.jp/ropponmatsu421/

4フロアにわたる福岡市科学館(プラネタリウムもあるよ)や、蔦屋書店、スターバックス、マルシェなどが入った大型ビル。かつて学生街として賑わった、九州大学の六本松キャンパス跡地に建つ。2017年9月オープン。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。