見出し画像

『何もしない人が担う役割』 てくてく通信+🎈 #49

こんにちは、英会話Oneのただともこです。読む瞑想マガジンへようこそ。
今月のテーマはこちら。
あなたの毎日の底に静かで気持ちのいい音楽が流れますように。


何もしない

台風が過ぎて、すっかり秋風が吹く仙台になりました。長袖でちょうどいいです。皆さん、お月見をしましたか?

今日は何もしない人たちの話。

吉本ばななさんの小説に「田所さん」という小説があります。「体は全部知っている」という短編集に入っています。

田所さんは会社に来ているのだけど、まったく仕事はなくて、ただいることが仕事なのです。朝10時きっちり来て、午後6時きっちりに帰ります。仕事はいることだけで、その会社の社長が若いときとてもお世話になったからそういう形で、お礼をしているのだという設定になっています。

日本の犯罪率は、あの素敵刑務所を持つノルウェーより低いです。2017年のデータで10万人の殺人率が、ノルウェーで0.53%、日本で0.24%になっています。これはどうしてだか考えてみたことがありますか?

一時期、今は亡き河合隼雄先生がばななさんや村上春樹さんと対談しておられました。そのときに、「何もしていない人がなしていることはとても大きいのだよ」ということを二人に向かって話していました。おそらくその経験からできたのが、村上さんだと「海辺のカフカ」です。中田さんという、何もしていない大人が神社の石を持ち上げて、物語を大転回させます。ばななさんだと「田所さん」になると思います。

何もしていない人とは、簡単に説明すると生活保護を受けている人たちがそれにあたります。あるいは、年金生活をしていたり、社会的に役割がなくなった人たちもそれにあたります。その人たちが、社会を支えているパートは実はとても大きなものなのですよと河合隼雄さんはおっしゃっていました。

*河合隼雄さんはユング派の心理学を日本に紹介して活躍された臨床心理士で、元文化庁長官です。

私は実際に働けない状態になったことがあるから、その社会的に何もしていない人の状態を少しわかることがあります。いいなぁと思うかもしれませんが、実際に人のお金で暮らすのは、大変です。人からの誹謗中傷の対象になることがとても簡単だからです。結構肩身の狭い身分です。

物語の中でも、田所さんはちょっと八つ当たりされたり、コピーを取るときの失敗責められたり、一人だけ仲間外れにされたりします。でも、あとからその人が謝ってきたり、何かお礼を持ってきたりしてくれることで、場は上手に収まるのです。田所さんはお礼言うだけで、あとは何もしないと書いてあります。

ちょっとした、ネガティブな気持ちを表す対象がいるだけで、人はさらにとても追い詰められて、誰かを殺してしまったり、絶叫して、誰かを責め続けるような場にはならないようになっています。何にもしない人はその緩衝材の役割を果たしています。

何もしないことには、それだけたくさんの役割が眠っているのです。仕事を持つよりも、ある意味大変です。

病気の人も、犯罪を防ぐという意味では大きな役割を果たしています。とても不幸な子供時代を送った人が全員復讐に目覚めてしまったら、世の中は犯罪だらけになります。でも、犯罪にはしないけど、その重みを身体で受け止めて理解しようとするというプロセスを取ると、病気になります。そのことで、本人も周りの人も守ります。病気というハンディキャップを持ちながらも、それと共存する術を探していきます。そして、よりよくなりたいから、病気を理解しようとします。それは、誰かから与えられたネガティブな感情をポジティブにあるいはゼロに戻そうとする作業です。こういう人たちも病院に通っているだけで、だいぶ大きな仕事をしていることになります。社会の掃除をしているようなものです。これも本に書いてあります。

想像してみてください。世の中が子供以外全員年収800万稼ぐ人たちだったとしたら。それは、すごく能率的な、合理的な、余白のない世界に見えませんか?一人でも稼ぐことができなくなってしまったら、おちこぼれみたいに見えます。そして、その分犯罪もまた大きくなるのではないでしょうか。横領やわいろやお金に関する犯罪が多くなるように思います。(これはちなみにとても年収が高い設定ですが、共産主義の設定はこの設定に近いです)

何もしていない人たちが受け止めている、世の中の小さな意地悪や悪意。そして、イライラや憤りや嫉妬。人間が誰でも持つ感情です。そういう小さなネガティブな感情をどこかで受け止めていかないと社会の中では、大きな犯罪が起こりやすくなります。それが、例えば、アメリカなどの例です。でも、逆にそういう社会では個性が尊重されます。創造性が豊かになります。

これは、自分自身にも適応できます。あるいは自分の家族にも適応できます。自分で何もしていない時間を持っていますか?予定がぎゅうぎゅうですか?何もしない時間があって、始めて、物事が整うことがあります。家族の予定がぎゅうぎゅうなのに、なぜか一人だけ、ぽかんと暇にしている人がいる場合もあります。おばあちゃんとか、大叔母とか、ひいじいちゃんとかがそれにあたります。その人たちが受け止めてくれる優しい時間の在り方が、家族全体に影響しているのを見ていますか?

ちなみに、絵を描くためには、たくさんの何もしない時間が必要です。90%くらいは何もしない時間です。考えているのです。その間に進む物事はとっても多いです。

何もかも予定でいっぱいにしてしまうことも、誰もが自立して働いて健康で稼いでる社会も、ちょっと想像するとよさそうですが、真剣に想像するととても窮屈です。なるようにして、私たちは「何もしない人たち」を上手に作り出しています。そして、その人たちを保護しています。その人たちが仕事の代わりに生み出している多くの緩衝材を考えてみて下さい。

自分の周りにいる人で、引きこもりの人、仕事をしていない人、いないでしょうか。彼らは、社会から切り離されたように見えたとしても、やっぱり「何もしない人」として、ある役割を彼らは社会の中に担っています。そのことを知りながら、彼らと接することができるといいなと私は思います。

仕事はその人の要です。だからあったほうがいいに違いはないのですが、どういう理由でか、ない人もいます。単純にその人を排除するだけではない社会を私は、私の周りに作っていきたいと思っています。もちろん、その人たちの言動は、無責任に聞こえたり、非常識だったりする場合もあります。だから、イライラします。(実際に私はイライラしました。)でも、それを乗り越えて、彼らにも居場所があるという世界を作れたらどんなにいいだろうな、私にとって、どんなにいい世界だろうなと思います。

よかったら、あなたの何にもしない話もしくは、何にもしない人の発見の話を教室でしてみて下さい。


ちょっとしたおすすめ

なるほどの対話
河合隼雄×吉本ばなな

今日のちょっとした話には、まだ続きがあって、日本の文化は、人々の能力のなさをしがらみでカバーして補い合う社会で、同時にそれは独創性を奪う社会だという議論がこの本の中ではされます。

発刊から20年。
ちょっとは変わったこともあったと思いますが、大筋はここに、日本で生きていくときの良さと怖さが書かれています。何もしない人たちの意義も。

みなさんの常日頃の疑問に答えられるものもあるかもしれません。
良かったら読んでみてください。


編集後記

大きな決断をしていて、頭がいっぱいになってのたうち回っているこの頃です。そんななか、八幡に「曲線」という本屋さんができました。今度行ったらレポート書きます。八幡町が豊かになっていくことはとても嬉しいです。

https://www.instagram.com/kyokusen_8/?hl=ja

(初出:2019.9.14)



宇宙料金

宇宙料金とはこの記事が大事だなぁと思った分だけ、プラスに払ってもらうことができる仕組みです。誰でも気軽に受け取れるように基本価格を低く設定しています。この宇宙料金をいただき皆さんにより大事に記事を扱ってもらうことで、私はさらに大事に記事を作ることができるようになります。どうぞ応援してください。さらに詳しい説明はこちら。


Twitterやってます
英会話サイトはこちら
さらにオススメはRoom に!

#豊かさの形 #社会の仕組み #何もしない

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?