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浮いて沈んで迷い込んで


ものすごく爽やかに晴れた朝、あまりに気持ちが良くてご機嫌な一日になるだろうと思っていたのに、急降下した。頂いたフライパンを真っ黒焦げにしたのだ。まだ2回しか使っていない。しかも前日に使った時に若干失敗したのでリベンジしたかったのに、早速使えなくなった。

私の一日が始まって2時間くらいしか経っていない。起きた時から調子が悪いのでなくて、一旦ふわっと空に浮かび上がって、急降下して床に叩きつけられた鳥のようで、浮かんだ分のダメージが大きいような気がする。「対処法、ネットとかにあるだろうから調べたらいいよ」というアドバイスに、どよよんとしながら検索しようとした時に、イベントに誘ってくれた友人に連絡しなければならなかったことを思い出した。

子供向けのイベントのようだったし、やること溜まっているし、朝から地面に叩きつけられたし、イベントは遠慮しようかなと思って書き始めたのだけれど、まず「朝から真っ黒焦げ事件で撃沈」と書いたのちに、イベントのことを書きかけていたら、空気の気持ちよさが私をツンツンとしたのか、気持ちが「行こうかな」という方向に動き出した。出演者の一人も久しぶりに会いたかった友人だったことを思い出して、「行こう」になった。この間、おそらく数分。フライパンは真っ黒焦げのままだったけれど、地面に埋もれていた私の気持ちが少し動いたのだった。

すぐに帰って来た返事には、「私も何回もやったでー」という言葉と共に対処法が書かれてあった。持つべきものはおっちょこちょいの友。何回もやったでーの言葉にもぞっと立ち上がり、台所に戻ってフライパンに向き合い始めた。そして、光が見え始めた。真っ黒焦げで2度と使えないと思っていたけど、ピカピカとし始めた。金属すごい!

その後の動きはなかなかよく、結局イベントにも行った。こじんまりとした場所で絵本の読み聞かせだったので、力も入らず、ジュースを飲みながらポンやり聞いていたのだけれど、知らない絵本だったこともあって、いつの間にかすべての本をじっくり聞いていた。人に本を読んでもらうって、大人になると経験しないことがほとんどだけれど、「自分で本を読む」とは全然違う。読む人たちの声の質とか雰囲気とかも大きく影響するのだろうけれど、委ねる感じがとても心地よい。居心地の良いソファにぽわんと座っている気分だった。そのことを伝えると、「そうなんです、大人の人の方が必要だと思う」とおっしゃる。

読み聞かせって、文字が読めない子供に読み聞かせるんだと思っていたけれど、なんだか違うみたいだ。リズムや間合い、そして読み戻れないのもあって集中する。とはいえ、体に力が入る集中とは違って、ふわっと包まれながらの集中。これがとても気持ち良いのだった。

そういえば、本好きの友人が家に遊びに行った時に、よく詩を読んでくれた。詩集はどうも苦手だと思っていたのだけれど、詩は声に出して読むのが良い。そしてできれば上手な人に読んでもらうととても良い。

イベントが終わって話しているうちに、読んでくださっていたうちの一人が、以前仕事でご一緒したことがある人だったことが判明した。私はポンやり集中しながらその人の顔もジーッと見ていたにもかかわらず、インパクトの強い衣装のせいか、状況が違うせいか「なんとなく知っているような気がするけど、気のせいだな・・・」と思っていたのだけれど、彼女は「絶対知ってるけど、どこやったっけなー」と思って見ていたらしい。たった1ヶ月間だけれど大変な時期の濃ゆい経験を共にした人だったので、名前を確認しあった瞬間にパチンと音がして記憶が一気に蘇ってきたようだった。ぐちを言う暇もないくらいで、でも一生懸命だったから、お互い思うところがいっぱいあっただろうけれど、記憶がなんだか清々しい。

なぜかみんなでちくわを食べて、みんながリラックスしていて、なんだか不思議な光景だった。うさぎについて行ったアリスのように、全く予想していないところに引き込まれて、本当に絵本のような感じだ。今度、久しぶりにまた友人に詩を読んでもらおう。そして、絵本屋さんにも行ってみよう。

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