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ホンジュラス×ダイレクトトレードのコーヒーロースター(愛媛県大洲市「カトラッチャ」)を営む今井英利さんのインタビュー

愛媛県大洲市にあるコーヒーロースター「カトラッチャ」
扱うコーヒー豆は中米の国ホンジュラスのものだけ。
オーナー今井英里(いまいえり)さんにお店を始めることになった経緯や思い、そして今後のことをお聞きしました。

私がカトラッチャのコーヒーに出会ったのは2020年3月。東京都文京区のRural coffeeで働き始めた時で、
カトラッチャの「はなやかブレンド」を扱っていたからでした。

「オーナーは青年海外協力隊としてホンジュラスで活動後、帰国後もホンジュラスのために、という思いでお店をされている」というくらいの話は聞いていたけど、実際に今井さんとお会いしお話する機会はないままでした。

2022年4月に札幌の新店舗wanna beでも「はなやかブレンド」を取り扱わせていただくことになり、昨年10月、店舗のお引っ越しをされたばかりの頃、今井さんとZoomでの初対面が叶いました。

「カトラッチャ」ってどういう意味?

そもそも「カトラッチャ」ってどういう意味なんだろう。
実はホンジュラスの歴史的な英雄の名前なんだそう。

『高知県で言う坂本龍馬みたいな感じです』と今井さん。なるほど、わかりやすい。

昔々、ホンジュラスのカトラッチャさん率いる小さな軍隊がアメリカに占領されていたニカラグアの地域を奪い返した歴史があるんだとか。

少ない兵士でアメリカを退けたカトラッチャさんのことをホンジュラスの人たちは崇拝し、自分たちのことを「カトラッチャの血を継ぐもの」という意味を込めて「カトラッチャ」と言うんだそう。
ホンジュラス人の代名詞になるほどの人物なのだ。

というお話もありつつ、
手を叩きながらリズムをとって「単純に音とリズムが好きですね、私は。」と今井さん。

たまたまホンジュラス、たまたまコーヒー

もともと今井さんは教員になるつもりでした。それがどうしてコーヒーロースターを開業することになったのか?

大学4年の時に「自分にはなにか足りていない、一度海外で経験を積んでから教員になろう」と考えたそうです。
そして青年海外協力隊に応募し、たまたま行き先がホンジュラスだったのでした。

もともとはコーヒーが苦手だったという今井さん。
どうしてコーヒーを扱うことになったのか。

ホンジュラスでであったコーヒー

「ホンジュラスでコーヒーを飲んだ時に初めて苦味じゃなくてフルーツ感やバナナみたいなミルキー感を感じて、そういうものが口の中に広がってめちゃくちゃ感動したんです。その感動を日本に届けることができたら、ホンジュラスの人のために日本でも市場を開拓できるかもしれない」と考えるようになりました。

教員ではなくコーヒーロースターとして支援する道

ホンジュラスでの2年間は、学校で先生や子供たちに算数を教えていました。
「えりのおかげで算数が楽しかった」と言われてすごく嬉しく感じる一方、学校にもいけない子供たちもたくさん目にし、その現実の方が心に引っかかっていたそうです。

ホンジュラスで活動中の今井さん

そういう方面からホンジュラスに関わりたいと思い、選んだのはホンジュラスで一番感動したという「コーヒー」。
青年海外協力隊の任期の2年が終わる頃、「コーヒーに携わりたい」と気持ちが固まっていました。

とはいえ、日本に帰った今井さん、コーヒーの知識はゼロの状態。
まずはコーヒーについて勉強するため、修行させてほしいとコーヒー屋さんを回りました。

断られることが続く中、
最後、たまたま目についたコーヒー屋さんで一杯飲んで帰ろうと思い「イエムラコーヒー」へ。

コーヒー をいただきながらご主人とおしゃべりしていると、なんとご主人から「ホンジュラスのコーヒー豆の輸入に興味がある」というお話が。

今井さんもちょうど行き詰まりを感じていたりホンジュラスシックになっていた時で1週間後にホンジュラスにいく予定だったというグッドタイミング。
その時に生豆を持って帰る約束を交わし、焙煎して美味しかったら一緒に輸入をしましょうというお話になりました。

そこが今井さんのホンジュラスのコーヒーを仕事にすることのスタート地点になりました。

コーヒー豆から伝わる農家さんの想い

今井さんはご自身が一番感動したコーヒー農家のナンシーさんのお豆を持って帰りました。
家村さんに焙煎してもらい、無事輸入することが決定。

コーヒー農園で作業中のナンシーさん

家村さんからは「資金は僕が、輸入の手続きや勉強は今井さんにお願いしたい」というお話があり、今井さんが家村さんとナンシーさんを繋ぎ、家村さんとナンシーさんが直接取引をするダイレクトトレードでの輸入が始まりました。

輸入を始めて3年目には、今井さんと家村さん一家3人の総勢4人でホンジュラスへ。
ナンシーさんの農園でチェリーを積むなどして10日間ほど過ごし、その間に家村さんはもっと輸入したい、ナンシーさんもこの人にもっとおいしいコーヒー豆を届けたいってなっていったのだそうです。

作業をする今井さん

3年目は1年目の倍以上1400キロを輸入しました。
それまで69キロ入る麻袋で送られて来ていたコーヒー豆が15キロずつの真空パックで届くようになり、お豆の状態もよりよく保たれてクオリティがぐっと良くなったそう。

欠けた豆や未熟な豆が少なくなり、粒も均一になってきて、年々品質が上がっているそうです。

「コーヒーを落とした時に今まで感じられなかったフレーバーとか味の深さも感じるようになりました。だから年々頑張ってくれてるんだなっていうのはコーヒーでわかりますね。」

そして今井さんはホンジュラスのコーヒー豆が日本でも受け入れられることを確信し、自分のお店を持つことを決心しました。

大地の力を感じるホンジュラスのコーヒー豆

ホンジュラスのコーヒー豆はもともとアメリカに買い叩かれ、質より量を求められていたという歴史があるそうです。

でも実はホンジュラスは国自体が山岳地帯で素晴らしい土壌があり、また、ホンジュラスの人たちの中には「農薬や化学肥料は使わない方がいい」という意識がみんなの中にあり、自然農法で生きている。
さらっとそんなお話をする今井さん。

手のひらいっぱいのコーヒー豆

カトラッチャでは特に「無農薬、オーガニック」ということは謳っていないので私自身今回初めて知りとても驚きました。

どうして謳わないのか聞いてみると、

「それが自然だからです。オーガニックだから買って欲しいとかじゃなく、伝えなくてもビビッと来る人もいるんですよ。大地のパワーが詰まってるというか、そういう感覚だけでいいかなって。必要以上に敏感にならなくていいし、自然と伝わっていけばいいな。」

今井さんは終始にこにこ、ほがらかでハッピー、なんだか無邪気でかわいらしい人。
そういうのが自然と伝わってくるのと同じようにナンシーさんのお豆から感じる大地の力強さも自然と伝わるものなのかもしれない。

フェアトレード 以上のダイレクトトレード

今井さんがこだわるダイレクトトレードという輸入のスタイル。フェアトレードとはどう違うのでしょうか?

今井さんは、きちんとフェアトレードとして機能している団体もあると前置きした上で、一方でフェアトレードと言いながら、実は生産者さんに正統なお金が入っていないというような現場をホンジュラスで見たこともあった、というお話をしてくれました。

言葉のクリアなイメージを企業や関わってる中間業者が利用していると感じることもある。だから今井さんはフェアトレードでなくダイレクトトレードにこだわっています。

生産者の顔が見える「カトラッチャ」のコーヒー豆

ナンシーさんをはじめ、生産者さんと直接つながって直接やりとりをする。顔もわかるしお金の流れもしっかり見える。

今井さんの考えは、生産者さんにお金を投資して、そのお金を生産者さんが農園の設備投資に使ったり生活を豊かにすることに使い、笑顔になることで翌年にはもっとおいしいコーヒーができる。
そして最終的においしいコーヒーがお客さんの元へ届く。お金の流れも生産者さんの顔も全部見えて、最終的にお客さんも幸せになれる幸せの循環のよう。

それが今井さんが行っているダイレクトトレードなのです。

コーヒー農家さんのためのクラウドファウンディング

今井さんはコロナ禍で困ってる生産者さんを応援しようというクラウドファウンディングも行ないました。

福岡の焼酎酒造の天盃さんと一緒にコーヒーの焼酎漬けリキュールを作りリターンにし、集まったお金はホンジュラスに送り農家さんの設備投資に使ってもらいました。

なぜ設備投資なのか。
それは、設備投資をすることで、より品質のいいコーヒー豆を生産できて、より高く売ることができる。
そうすることで生産者さんが自力でより多くの収入を生み出せるようにしたいと考えました。

新しいコーヒー豆を乾燥させるための設備

実際にクラウドファウンディングのお金で設備投資を行ったコーヒー農家のウィルフレッドさんはその年のホンジュラス国内のコーヒー品評会で2〜3,000の出品がある中で4位と5位を受賞し、販売額もかなり上がったということがあったのだそう。

設備投資の結果、コーヒー豆の品質が向上し、販売価格としてきちんと評価されている。農家さんが品質を向上させて、そのお豆を今井さんのようなコーヒーロースターさんが焙煎しお客さんのもとに届いて還元される。

この流れを生産者と焙煎士とお客さんの三者みんなで感動を共有できるのがダイレクトトレードの強みだと、今井さんはお話ししてくれました。

そしてこれから

ホンジュラスにはコーヒー農家さんだけで100万世帯あり、そのほとんどが家族経営の農家さん。星の数ほどのポテンシャルがある。その中で情熱あふれる生産者さんとの出会いをこれからも探しているといいます。さらに、詳細はまだ言えないということでしたが、ホンジュラスに関わる事業をコーヒー以外にも考えている段階だとか。

何をするにしても今井さんはきっとホンジュラスの人のためになることを展開していかれるだろうと思いました。

コーヒー農家のナンシーさんとアルトゥーロさんと一緒に

更なる自己実現を目指して

昨年の9月に間借りしていた酒屋さんから今井さんのおばあさんのお家へにお店を移転されました。
「秘密基地」と呼ぶその新しい拠点で、
日々、友人や知人が訪ねてきたり、ゆっくりおばあさんとの時間を過ごす様子などカトラッチャのinstagramから拝見し、今井さんの楽しんでる空気が伝わってきます。

「おばあちゃんちにいる時間が子供の時から一番好き。今はそこに帰った感じ。かわいいですよ、おばあちゃん。」
と、にこにこお話しする今井さん。

お店の移転もなんとも豪快。
焙煎機の入っていた小屋ごとリフトで持ち上げて移動したのだそう。

移転してできた「秘密基地」

今井さんは自分の幸せややりたいことの実現を考えた時に移転を決めました。
今までは時間の縛りなどもあり、コーヒーにつきっきりで自己実現というものが全然できていなかったと感じているそうです。自分が楽しく生活しながらまたお店ができたらいいな、と。

「だから今はおもしろいですよ。」と今井さん。

お話をお伺いした日は午前中に発送作業などのお仕事をされて、午後は勉強中のヨガをしにヨガスタジオへ、そして夜は私とzoomでお話。

直接お話するまでは、地元愛媛でコーヒーロースターを構え、大好きなホンジュラスのために活動されてる今井さんは自己実現の塊のような方なのかとイメージしていたので、このお話にはとてもびっくりしました。

そして今、今井さんの頭の中では新たな構想が広がっています。
今までの流れの中で出会った人たちで、あの人がこういう関わりをしてくれたらこんなことができるな、というイメージが湧いてる。今はその準備段階。
「めっちゃ楽しくなると思います。」と今井さん。

「萬年さん、是非大洲きてくださいね。その時は一緒にコーヒー飲んで、ヨガしましょう」

笑顔が似合う今井さん

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