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届いた花は・・・

夫とふたり夕げの鍋をつついていると、珍しく家の電話が鳴った。

「〇〇〇という花屋です。今から30分ほどでお届けしますが、ご在宅でしょうか」と。

はて…、今日は何の日?

息子の誕生日は先週だったし、2月って何も記念日がないよなぁ。懸賞に応募したっけ?それとも…、これって詐欺かも!

そうだ!普通なら「〇〇様からお花のお届けです」って言うでしょ。
怪しい。

夫に「花を受け取るのって、断れないよね?」と聞く。何が起きたかわからず、夫も答えに困っている。

恐る恐る電話の主に「送り主はどちら様でしょうか」と尋ねると、高校の同級生の名前だった。同じ部活だったけれど、今では年賀状程度の付き合い、それにしても彼女から花って…なぜ?


それから30分が過ぎて、また電話が鳴った。
先ほどの花屋さんから「今、お宅の前に来ています」と。

そういうのって、家の玄関まで来ないか?インターホンが鳴って、ドアを開けると手渡してくれるのが普通でしょ?門灯もポーチライトも点けてあるのに。

「いま出まーす」と門のところまで行くと、若い男性がワゴン車から花を取り出したところだった。

伝票にサインをし花を受け取ると、男性は深々と最敬礼のお辞儀をした。

「遠い所をありがとうございました」という私に、また直角のお辞儀をして、門扉を閉める私を見送ってまでくれた。


詐欺なんかじゃなかった。めちゃ丁寧なお花屋さんだった。


花は純白のアレンジだった。そうか、去年は母の喪中で、年賀欠礼の挨拶状を彼女にも出してたんだ。でも葉書きには「今年1月に母が他界し」と書いたはず。松が明け、さらに春が来るのを待って送ってくれたのだろうか。

母の仏前に供えるには車で1時間、今からはちょっとムリだ。
とりあえず玄関に置くことにした。

ふと、アレンジフラワーに挿してあるメッセージカードを読んだ。

「安らかにお眠りください」って。そのあとは動揺して読めなかった。
まさか彼女…、何?これってどういうこと?火曜サスペンス?

少し落ち着くと、さっきのお花屋さんの対応がわかる気がした。
今夜うちでは仮通夜でもやってると思われたのかもしれない。

夫が「育さんの服、全身黒ずくめだもん」と笑うので我に返った。
夕ご飯を食べながら、赤のダウンベストをぬいで、黒のタートルに黒のスカート、タイツだった。こちらもタイミングが良すぎた。

しかしなぜ?昨日今日亡くなったばかりのようなメッセージ、どこでどう間違ってしまったんだろう?
一瞬だけど、彼女のこと疑ってゴメン。よく見たら「お母様」と書いてあった。

母の一周忌は昨年の暮れに済ませ、私の中では
今ごろ雲の上でお父ちゃんに再会して、楽しくやってるんじゃないの~
という感覚だったから、とっくに安らかに眠ってると思ってた。

今日さっそく彼女にはお礼状を出した。
メッセージカードの話は、またいつか会ったときにしよう。

帰宅し玄関のドアを開けた。
白い花と「安らかにお眠りください」のカードが目に入る。
やはり妙な気分だ。


11日の休みには実家までひとっ走りしよう。
そして、この花を母の仏前にお供えすることにしよう。

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