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晴旅雨筆(エッセイ)

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これまでの人生で書き散らしてきたノートの切れ端をちぎれ絵のように張り付けたエッセイ。本を読み、山に登り、酒を呑み、街を歩く。
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2022年7月の記事一覧

父を語れば [2/3] (エッセイ)

かなり「間」が空いてしまいましたが……。 分量も長めになってしまったことをお許しください。 [1/3]では、父が13歳で家を離れ、陸軍幼年学校から予科士官学校、そして航空士官学校と進み、旧満州で飛行訓練中に敗戦を迎え、全焼した実家に戻って来たまでを書きました。 数年前に新聞のコラムで読み、なるほど、と思ったことがありました。 昭和10年代前半に日本を訪れた米国の外交官が、 「日本の軍人と話す機会があったが、彼らがあまりにも素朴に、『自分たちが正しい』とのみ信じ、微塵も疑

詠み人知らず(エッセイ)

大学入学の年、GW明けぐらいから徐々に講義に出なくなり、泥酔して物理の試験を受けそこなったことをきっかけに、体育を含め全科目サボるようになり、「留年」を決めました。 当初は少林寺拳法部の練習に出るためのみキャンパスに顔を出していましたが、やがて道場にも行かなくなり、夏休み前には完全な《引き籠り》状態になりました。 といっても、自室に引き籠っていたわけではなく、旅をしたり、バイトしたり、隣のアパートに住む女の子を呼んでギター弾きながら宴会したり、麻雀したり、── きままに暮ら

【濡れ手にアワ】(新釈ことわざ辞典)記事版

ソープランドのサービスの一種(らしい)。 ご存じのように、 《ソープランド》はかつて、《トルコ風呂》と呼ばれていました。そこで働く女性たちは《トルコ嬢》と。 《……風呂》まで続けて言うのならまだしも、通常の会話はこんな具合でした。 この人はもちろん、毎月「トルコ共和国」に出張していたわけではありません。 思えばひどい話です。トルコ人留学生が横で聞いていたら、怒り出すことでしょう。 実際、この会話が行われたのとほぼ同時期に東大地震研に留学していたトルコ人学生、ヌスレッ

銃の問題 ── 日常と非日常、そして(エッセイ)

とんでもない事件が起きた。 「日本では考えられない」 昼のワイドショーで、私があまり好きではないコメンテイターが連呼していた。 事件についての悲嘆・悲憤は、もう既に多くの報道でなされているので書きません。 改めての《銃》という、危険な道具についての思いです。 **** 私は、アメリカの田舎に住む知人の家の庭で《銃》を撃ったことがあります。 庭といっても、林を含む広大な空き地のようなところです。 木箱の上に空き缶を立て、離れたところから小さなピストルで撃った。 手に反

おそらくは高価なのだろうけどお金さえ出せば誰でも手に入れることができるものを見せられた時に《オトナの反応》ができない体質 (エッセイ)

会社勤めをしていた頃、食堂でたまたま隣に座ったエライ人が、何の脈絡もなく、 「これ、ずっと欲しかったんだけど、ついに買っちゃった」 と言って、ジャケットの右腕をめくったことがありました。 ── そこには、銀色に輝く腕時計が。 「はあ……」 ── たぶん、高価なブランド品だろう。 「……それは……」 エライ人は、少し照れたように言った。 「***の###。……ついに買っちゃった」 高級ブランド名《***》ぐらいは私も知っていた。 でも、おそらくその中でも上位に位置するのだ