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図書館の睡り

ある高校の図書室の話である。


あなたの通っていた高校の図書室に活気はあっただろうか?
勿論度を越えた大騒ぎ、飲食などはいくら公共の場ではないと言えども基本的には禁止されていたことだろう。
とはいえ、試験間近でもない限り多少は大目に見られていたはずである。
僕の通っていた高校も人は少なかったが、昼休みに寝に来る奴だの集団でクーラーを浴びに来る奴ら等で賑わっていた。
あまり頭の良い方の学校ではなかったので試験期間中の方が人が少なかったくらいである。
だから活気はあった方だと思う。
僕は霊感なんてないし幽霊なんて見たこともないので、全くそういうモノは感じ取れないのだが、それでも恐らくは何もない所であったと信じている。
この話をしてくれた彼(仮にAとする)も僕と同じように細かい所や微妙な違いにはこだわらない人物である。
彼の通っていた高校も僕と同じように教室にはクーラーがなく図書室にのみあったらしい。
彼の通っていた高校は進学校であったにもかかわらず利用者は少なかったという。
彼は塾に通う派だったので図書室の利用をすることはあまり無かったのだが、そうでもないクラスメイトや先輩たちも何故か使わないことに疑問を抱いていたという。
最近赴任してきた司書の先生がそれこそ常軌を逸した程度に厳しいだとかクーラーの温度を節約のため上げているだとかなんだろうか。
そんな事を考えながらもまぁ、自分には関係のない話だからと深く追求することはなかった。
中期試験も間近に控えたある日、部活の先輩に勉強を教えてもらえることになったA君は図書室を提案したところ難色を示されたという。
「ちょっとあそこはなぁ……近くのマックとかにしない?」
「え?いいですけど……でも駅から反対側ですよ?」
「今日は特に何もないから別にいいよ、お腹も空いてるからさ。塾に間に合わなかったりする?」
「いや、今日は入れてないので大丈夫ですけど……司書の先生が厳しかったりするんですか?薔薇には棘があるみたいな?」
「いやいやいや。何回か話したことあるけどいい人だよ?確かにパッと見眼鏡かけてて厳しそうだけどさ。そういうことじゃなくてね。」
「あそこで勉強してるとなんか眠くなっちゃうんだよ。寝やすい環境なのかもしれないね。クーラー利いてるしさ。」
「あぁ~なるほど。逆に環境が良すぎるんですかね~。」
その時はそんな会話をして終わったという。

学園祭も近くなったその年の秋の頃、教室の飾りつけに使う紙飾りを作ろう!ということで一人一人にノルマとして何個ずつというように課題を出されたという。
初めての学園祭に興奮が止まらなかったA君は仲が良かった数人と一緒に作ろうぜ!という話をつけたという。
彼としては誰かの家に泊まってそのまま遊びたかったらしいのだが、思ったよりノルマが少なくチャチャッとやってしまおうという話になった。
教室でやろうにも大掛かりな装飾を作る連中に厄介払いをされ仕方なく別の場所を探すことにしたという。
となるとやはり図書室かなあと思っていたA君をよそに一年生の教室でも使おうか、という話に進んでいった。
わざわざ年上の僕たちが使ってまだ残っている一年生を委縮させることもないだろうと、図書室へ行こうぜと話を振ると矢張り渋面になったという。
「あ~お前あそこ使ったこと無いんだっけ?先輩とかに聞いてたりしない?」
「え、いや、まぁ、確かにあんまり使ったことないけど……。」
「なら仕方ないか。あそこさ、女の子がいるんだぜ。」
「そりゃうち共学なんだしいるんじゃない?」
「違うって。生きてる奴じゃないんだよ。」
「何?幽霊とかそういう話?」
「そういう話。」
「高校生にもなって学校の怪談かよ。七不思議とかそういうヤツ?」
「でもな?あそこ昼間でもなんか暗いじゃん?闇があるって言うかさ。だからあっても不思議じゃないぜ?」
「まぁ確かになんか昼間でも薄暗いよなあそこ。」
「だろ?ワンチャン本当だぜきっと。」
「そんな話どうでもいいからさ、今日誰かの家に泊まって遊ばねぇ?学園祭準備って言えば親も許してくれると思うしさ。」
「いいね!そうしよそうしよ!じゃあうち来いよ今日親居ないからさ。」
ワイワイとまた活気を取り戻した仲間たちを眺めながらこれでまぁ一年には迷惑はかけないし楽しい思いも出来そうだとしめしめと思ったそうだ。

翌年の夏の定期試験間近になった頃。
イルフルエンザが流行りに流行った頃だったそうでいつも通っている塾もしばらく休みになり、どうしようかと考えていた時のこと。
どこで勉強をしようか……近くの図書館と言っても少し遠いし……あっそうだ!図書室を使おう!
今年でこの学校ともお別れだというのに図書室を結局ほとんど使わなかったなぁ。
最後まで使わないのもあれだしなと行ってみることにした。
ほとんど使ったことはなかったものの案外どんな場所だったかは覚えているものでそうそう、勝手な持ち出し予防にセンサーが二本立ってるんだよなだとか、司書の先生やっぱり美人だよなぁだとかさほど昔でもないのに勝手な愁嘆にかられたという。
勉強しに来たのはそうだけど少しでも目の保養を……と助平心を出して司書の先生の横顔を盗み見出来る位置を陣取った。
この日も相変わらず生徒はおらず司書の先生が座って何か仕事をしているだけだったという。
(二人っきりだな……)という緊張感に襲われながらもいつの間にか問題集に集中していた。
カリカリ、カチャカチャという音のみが響く図書室に突如電話のコール音が鳴ったという。
問題集とノートから目を離さずに意識だけをそちらにやっているとどうやら司書の先生が呼び出されたらしく、出て行ってしまったのが分かった。
残念だなぁと思いながらも緊張感から解放されたことでより集中できるかもしれないと意識を戻した瞬間、暴力的なまでの睡魔に襲われたという。
いかんいかんと頬を叩きながら抵抗を試みれどもいつの間にか眠ってしまった。
そんな風にして気持ちよく眠っていたA君は誰かに肩を強く叩かれて目を覚ましたという。
司書の先生が戻ってきたのかと急いで辺りを見渡すと誰もいない。
誰かが寝てた自分に悪戯をしたのかと思いドアの方に目をやると女の子がセンサーを両手で握りしめているのが見えた。
明らかに自分の方を見ながらも視線が自分ではないどこかを見ているようでそれを追ってみるとどうやらノートにくぎ付けになっているようだと分かったという。
こんな計算式しか書いてないようなもの見て何が楽しいんだと自分も見てみると寝ているうちに暴れたのかぐしゃぐしゃになったノートに明らかに自分のものではない筆跡で大きく「勉強だけできてもできてなくてもいじめられる」と書いてあったという。
他にも~年~組はそういうクラスでなんだかんだと悪口のようなものがあったはずだという。
書いた覚えのない文字や女子の筆跡のように見えるそれに恐怖を覚え、愕然としているA君の手を誰かが掴んだという。
顔を上げてみるとドアの付近にいた女の子がいつの間にかそこにいて「選択肢がない!選択肢がない!」と叫び出したという。
そこで気を失ったA君は戻ってきた司書の先生に起こされたという。
先生は正気を失ったように暴れるA君を介抱しながら語ってくれたという。
「前任者から聞いた話なんだけどね、ここの子じゃないんだけど近くに住んでいた子でいじめを受けていた子がいたんだって。」
「学校行ったらいじめられるからって理由で特別にここの図書室を使っていいよって話になったんだけどね。」
「多感な時期だからねぇ……まぁ、いじめてた子達と離れても学校に通うこと自体が辛くなっちゃったのか結局段々来なくなってきたらしいんだ。」
「そんなわけでずっと引きこもってたんだけどある時理由は分からないんだけど外出したらしいの。」
「弱り目に祟り目っていうのかな、可哀相にそのまま車の事故にあって死んじゃったのね。」
「だから死んだのはここじゃないんだけどね、何かその子の忘れ物とかあったら親御さんに渡してあげたいって思ったのか色々探したんだって。」
「そしたら誰も使わなそうな辞書の中にその子のノートが挟んであってね。中身はとても親御さんに見せられないものだったみたいで勝手に処分したって聞いてるわ。」

それからA君は本を読んでいて気付かぬうちに人が近くに来ていると一瞬ビクッとしてしまうようになったという。

◆この話は、二次利用フリーな怪談ツイキャスの「禍話」を書き起こし筆者の個人的見解の元再構成したものです。

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/543613967

禍ちゃんねる 突如、炎のワンオペスペシャル(1:33:00頃~)



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