第1話 居なくて当たり前。

私はあなたのことは何も知らない。

ただ、

あなたという人間が、そこで生きていて
あなたという人間が、そこに存在している。

たったこれくらいの事しか、私の中にはない。

何がきっかけで、どんな巡り合わせで
私の体が動いたのか。

ただ、ふとした拍子に
あなたの声を聴いてみたくなってしまった。

どんな声をしているのか、
どんな話をしているのか、
どんな言葉を使っているのか、
訛りとかはあるのか、

指がその声に触れるまでの数秒間

色々な興味が頭を駆け巡る。

触れた指が発する声は、耳に触れた瞬間

私の体を落ち着かせ、
私の心を落ち着かせ、

時間を忘れる程の楽しさと
心身が安らぐ癒し、快感を与えた。

決まった場所、決まった時間に
発せらせるその声は、

私の中のルーティーンに組み込まれた。

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