家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像 読んだ

2018年6月9日、走行中の東海道新幹線の車内で男女3人が襲われ、2名が重軽傷、男性が死亡した新幹線無差別殺傷事件
犯人との面会での長期間にわたる取材をまとめたのがこの本。

事件概要を聞いた時、思い浮かべる犯人像はきっとこんな感じだろう
「孤独な男が、財産が尽きて将来を悲観し、衣食住のある刑務所に入りたくて殺人を犯した」
読み進めていくとそれはまったく違っていた。



犯人には友達も彼女もおり、3000万円持っている祖母にかわいがられており、たくさん本を読む賢さもある。
本の内容もほとんど暗記しているらしく、会話中に法律の条文や難解な古典のセンテンスをそらで引用してくる。

しかし犯人は白黒思考すぎるのだ。
字義どおりに物事を解釈し、記憶力が良いために、相手の言動が過去と矛盾すると、裏切られたと感じてしまう。


たとえば「あーお金ない。油田ほしい」と言ったとする
相手は当然冗談だと思い「油田、誕生日にあげよっか」などと返す
そして時は流れ、誕生日になったとき「約束したのに油田をくれなかった。油田を入手する努力すらしてくれなかった。私のこと大事じゃないんだ。裏切られた」と感じる。

これが言葉を字義どおり受け取るということだ。
大半の人は昨日言ったことを忘れて生きているというのに・・・



犯人の家庭は歪んでおり、子供に誠実に向き合っている大人がいない。
(犯人の求める誠実レベルの高さは異常に高いのだが、それを差し置いても自分勝手な家族 特に両親)

家族は子供を守ってくれるという社会通念がある。法律に定められてなくても、誰もがそうする、とされている。
しかし、この犯人の家庭は子供を守らなかった。

就職した会社は労働法を守らず、従業員を守らない。
入院した精神病院にも出て行けと言われ
ホームレスになったら警官にも理不尽な暴力を振るわれ、
社会通念上、守ってくれるとされるものたちに裏切られ続けた犯人は、刑務所に行くことを願う。
刑務所の囚人になれば、出て行けと言われず、あらゆる試し行動は受け入れられ、法律に沿った判断が行われる(明文化された約束が守られる)場所だからだ。

犯人の人生は、どこに行っても出て行けと言われ、庇護者への試し行動は裏切られ、法律も守られない事ばかりだった。
刑務所は、社会とは真逆の誠実な場所だと、犯人は思っているのかもしれない。



ルールが明文化され、白と黒がはっきりした世界を好み、言葉に執着するのはかなりASDだと思いましたが(私も当事者として)
検査ではASDではなかったのがかなり意外で、もしかしたら判決が軽くなるのを危惧してテストの手を抜いた?とか この犯人ならやりかねない・・・と思いました

古典や法律の条文への執着も、ASDなら言葉の細部への執着はあるあるですが、この犯人の場合、周囲に裏切られ続け、どの価値観が正しいかわからなくなったので、「世間的に、正しいとされている文章」で理論武装すれば、理不尽な目に遭うことを減らせると考えたんだと思う。
法律と常識は違う、というのが悲しいところなのですが・・・
人は法律を守るために生きているのではなく、人体にも法律を守るための機能がなく・・・

読み終わると、「刑務所こそ理想の家庭」という主張が、犯人にとっては論理的に筋の通った信念なのだとわかる。


個人的には、犯人は哲学や宗教の本をたくさん読んで勉強しているのに、渇愛からは逃れられなかったのがなんともいえなかった。

さみしさに狂った人は、極端な思考や行動をとりがち
さみしさ、恐ろしい。

さみしさについて個人的に思うのは、これは人生の不満足度みたいなもので、人に囲まれててもさみしい人はさみしい。

さみしさがうずくときは、たいていメンタル不調な時だから、さみしいからといって、積極的にいろんな人と接するのは個人的にはおすすめしません

最後関係ない話になっちゃったな