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父と母と弟と私。 #2

病室、じゃなくて、し、しゅ、しゅじゅ、手術室


病院に着いて、案内されたのは病室、ではなくて手術室。しかも、あの上の電気?何?医龍でしか見たことないやつ。赤く光っている、ということは、絶賛(?)手術中やんか。

いやいやいやいや。ちゃうちゃうちゃう。おもてたんとちゃう。

あ、でも家出る前にお母さんが「いま意識なくて手術中やねん」って言うてたわ。忘れてた。

看護師さんは「手術が終わるまで、ここでお待ちください。」と言い、手術室の方へ向かった。


さすがに、察した。

こうであってくれ!って思ったことが、思い通りにならないなんて、よくあること。けど、その時はダメでも努力次第で、とか時間が経てば大体解決出来ることが多い。

けど、けど。こればかりはどうにもならん。どうもできん。
無事であってほしい、助かってほしいと願うしか出来ない。

母、弟、私、全員放心状態。待つしかない。


しばらくしてから、おばあちゃんが来た。父方のおばあちゃん。お父さんのお母さん。
そら飛んでくるよな。ちなみに私のお父さんは、小さい頃にお父さん(私からしたらおじいちゃん)を病気で亡くしている。だからおばあちゃんは1人で来た。


おばあちゃんは、大阪に住んでいた。お父さんの会社も大阪にあった。とにかく元気でチャキチャキしているおばあちゃん。土地をたんまり持ってる人やった。年金以外の収入が結構あったみたい。これを話し始めるとまた長いので、いつか。笑


4人でとにかくお父さんの手術が終わるのを待った。椅子に座って数分、数時間が過ぎていく。涙が出てくるよりも前に、体がぶるぶる震えた。ひたすら椅子に座って待っていた。

手術室の赤い電気が消えて扉が開く。時計を見たら4時半。看護師さんが出てきた。

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↑こういう服を着てる看護師さんが出てきた。今さっきまでお父さんの手術してくれてた人なんやろうなぁ。こちらへどうぞ、と手術室とは別の部屋に案内してくれた。


部屋に入ると、先生が座るであろう椅子の前に丸椅子が4つ用意されていた。普通は1〜2つしか置いてないはずの丸椅子が、4つある事にちょっと感動した。看護師さんの気遣いが嬉しかった。ありがとうございました。

言われるがままに全員座る。先生を待つ。先生のデスクの前?脳のレントゲン写真があった。お父さんの脳みそ。人の脳みそってこんな感じなんや、でも何が正常でどれが異常かなんて正味分からんよな(正直な感想)


スリッパの音かな?スタスタと誰かが近付いてくる足音がする。緑の服を着ていて(手術着みたいなやつやった)眼鏡をかけている背が高い、ちょっと無愛想そうなおじさん先生(以下、おじさん先生)が、私たち4人の前に置いてある、もう1つの椅子に座った。

どういう風に言われたか、詳しいことはもう忘れてしまった。けど、お父さんについて細かく教えてもらったことは断片的に覚えてる。

残業中。脳の血管が破裂して倒れた。会社にセコムのお兄さんが駆け付けてくれた後、すぐ救急車を呼んでくれてこの病院に緊急搬送。

緊急手術にすごく時間がかかったこと、一命は取りとめたけど、しばらくはICUに入ること、意識はいつ戻るか分からないこと、戻ったとしてもどんな状態か分からず、後遺症が残る可能性が極めて高いこと。

倒れてから2時間ほど経過してたみたい。
命あることが奇跡です。と言われた。

早朝。5時。

高校生の私には、というかこれは誰でもきついと思う。あまりにも情報量が多過ぎて、目の前で起こっていることは現実なんか?ほんまに私ら家族に起こってる出来事なんか?言葉が出てこないとは、まさにこういう時のことを言うんやな、と。

お父さん、私ら家族、そして会社。これからどうなっていくんやろう。

こっちがぶっ倒れそうやった。

昨日の朝、普通に喋ってたやんな?
倒れる前、最後に会ったのは、私。

あの時何か気付いてあげられたらよかった。顔が赤かったとか、呼吸が荒かったとか、前兆あったんかな。いや、思い出されへん。普通やった。いつものお父さんやった。


今日からICUで治療。入院生活不可避。


この日は金曜日やった。土日で今後の入院の準備をして下さい、とのこと。最後、私達が部屋を出る前に、おじさん先生が、


全力を尽くします。


こう言ってくれた。どう捉えればいいか分からなかった。

とりあえずお父さんは、今、生きている。それだけでも感謝せなあかん。
あんな夜中から何時間も大手術をしてくれた先生達と、それを乗り越えたお父さん。どちらもすごい。

けど、目の前の現実を受け止めきれなくて、言葉がうまく出てこなかった。

マルコメ君が「爆イケ坊主」になった瞬間。


説明を受けた部屋から出た。
「学校の先生に連絡しないとね。今日、休むやろ?どうする?」とお母さんに聞かれて、迷った。どうしよう。と思ってたら弟が、

俺は行く。お父さんも頑張ったんやから、俺らも今日は行かんと。金曜乗り越えたら土日。また、お父さんに会いに来れる。今日は行こう、お姉ちゃん。

と、私に言った。
それを聞いた時のお母さんの驚いた顔、すごいよく覚えてる。

もうマルコメ君ちゃうやん。爆イケ坊主になっとるでおい。

性格的に、というかキャラ的に?私が言うべき言葉やった。

私はお調子者でいつもテンションが高かった。弟はどちらか言うと私の逆。
しっかり現実を受け止め、いつも冷静。おもろいこという時はサラッと言う。そして何より顔が男前。

(でもふざける時は一緒にふざける、仲が良い天才姉弟です。)

そんなマルコメ君があんなこと言ったもんやからさ、お母さんはびっくりしてたんよ。
お母さんは「分かった、ほんなら帰ろうね。」と、優しく言った。

弟の言葉で、エンジンがようやくかかった。というか、弟の強さよ。すごい。それと同時に自分の精神の弱さ?にも驚いた。

俺がしっかりせんと、って思ったんかな。弟の言葉を聞いて、今日は行かないとあかん気がした。

朝帰りのタクシー


母、弟、私、の3人で帰るため、タクシーを呼んでもらった。おばあちゃんも、大阪の家に帰るとのことやった。

帰りのタクシーで大阪から兵庫に帰る。
いつも大阪に出かけた時は、この道を帰ってたなぁ。
運転はお父さんで、お母さんは助手席。後部座席に私たち姉弟。

それが今はタクシーに乗って、お母さん、弟、私の3人。お父さんがいない車で、お父さんがいない家に、お父さんを病院に置いて帰ってる。どんな状況やねん。

帰り道、またタクシーの窓から外の景色を見た。数時間前とはまた違う景色。すごい状況での朝帰り。この数時間で人生の経験値が爆上がりした気がして、なんだか強くなった気分でいた。謎の感情。笑

行きのタクシーでは寝たが、帰りは全然眠たくなかった。覚醒していた。


予想もしない、というか信じられへんことばっかりがこれから沢山起こることも知らず、ボーッとタクシーの中。
あんまり寝てないから肌荒れてるかなぁ。クマ出来てるかなぁ。とか色々思った。※なんってったって女子高生なのでね!
そんな事でも考えとかんと正気ではいられへんかったなぁ。

今もしあの瞬間に、BGMをつけるなら?
しんみりバラード?ちゃうちゃう。

間違いなく、試合開始のゴングです。
※世界王者決定戦クラスで鳴らされるやつ



家に着き、タクシーを降りる前。車内のデジタル時計を見たら、6:30。
普段ならまだ寝とるがな。(起きとけ!)

そしてこの日は、すーーーーーーーーーーーごく晴れていた。
タクシーを降りた時の太陽の光が、とても眩しかった。
これをどういう感情で見ればいい?受け止めればいい?

明けない夜はない。うん。確かにな、ちゃんと朝が来たよな。それにしても、いつもとだいぶ違う朝が来たわ。

試合開始!カンカンカンカンカンカンって永遠に鳴り続けてるゴング。


ここから色んな歯車が狂い始めた、というよりも猛スピードで歯車があっちこっちに飛び散っていくねん。

ゴング、鳴らされまくりです。はいはいはい。もう試合開始なのは分かったから、それ以上鳴らさんで大丈夫です。

ほうほう。神さんは私ら家族がどういう風にこれを乗り越えるんか見てるねんな。よっしゃ、やるしかない。

映画ならここから、ながーい見所。平凡な人生よりも少しばかり刺激があった方が楽しい、と今でも思える(こういう思考に至るのは父母の素晴らしき教育のおかげです。笑)。

それにしてもさ、刺激、多ない?笑

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