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規制に直面するスタートアップこそ活用したい2つの制度ー国がサポートしてくれる画期的な仕組みー

【Public Notes】とはミレニアル世代のシンクタンクPublicMeetsInnovationがイノベーターに知ってもらいたいイノベーションとルールメイキングに纏わる情報をお届けする記事です。

こんにちは。PMIテックチームです。

突然ですが、先日このような記事がテクノロジー界隈を騒がせていました。

 渋谷区と提携して「LINE」による住民票の写しの交付請求を行っていたサービス事業者が、規制当局である総務省を訴えたというのです。

 係争中の案件でもあり複数の報道等を参照する限りですが、当該事業者は顔認証技術の活用によって、住民票の写しの際に必要な請求者の本人確認を実施していましたが、このやり方だと、住民票の写しの交付の際に総務省が要件としている「電子署名」の要件を満たしていないため、総務省から全国の地方自治体に対して、「住民票の写しの交付に際しては、あくまで電子署名が必要である」と念押しする通知(技術的助言)が発出されたようです。

【総務省からの通知(抜粋)】
〇電子情報処理組織を使用した住民票の写しの交付請求については、(中略)法が求める厳格な本人確認が必要であることから、請求を行う者は、入力する事項についての情報に電子署名を行い、当該電子署名を行った者を確認するために必要な事項を証する電子証明書と併せてこれを送信しなければならないこととされています。https://www.soumu.go.jp/main_content/000681028.pdf

1.問題の背景

 ごく簡単にですが、この事件の背景を説明しておきたいと思います。

 そもそも、平成14年に制定された情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(いわゆる「デジタル手続法」)では、書面などにより行われることとされている手続きでも、各省庁が省令を定めることで、オンラインでも申請ができるとされています(第6条第1項)。

デジタル手続法
(電子情報処理組織による申請等)
第六条 申請等のうち当該申請等に関する他の法令の規定において書面等により行うことその他のその方法が規定されているものについては、当該法令の規定にかかわらず、主務省令で定めるところにより、主務省令で定める電子情報処理組織(行政機関等の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ。)とその手続等の相手方の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。次章を除き、以下同じ。)を使用する方法により行うことができる。

 では、今回話題となった住民票について「主務省庁」となる総務省は、こうしたオンラインでの申請をどのように認めているのでしょうか。

 デジタル手続法を受けて策定された「総務省関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律施行規則(デジタル手続法総務省令)にはこのように記載されています。
 ちょっと長いですが、そのまま引用してみましょう。

デジタル手続法総務省令(電子情報処理組織による申請等)
第四条 情報通信技術活用法第六条第一項の規定により電子情報処理組織を使用する方法により申請等を行う者は、行政機関等の定めるところにより、当該行政機関等の指定する電子計算機に備えられたファイルに記録すべき事項又は当該申請等を書面等により行うときに記載すべきこととされている事項を、申請等をする者の使用に係る電子計算機から入力して、申請等を行わなければならない。
2 前項の規定により申請等を行う者は、入力する事項についての情報に電子署名を行い、当該電子署名を行った者を確認するために必要な事項を証する電子証明書と併せてこれを送信しなければならない。ただし、行政機関等の指定する方法により当該申請等を行った者を確認するための措置を講ずる場合は、この限りでない。

 実はこの通り、オンライン申請を行う場合は「電子証明書」が必要だと明記されています(なお、ここでいう「電子証明書」とは、基本的にはマイナンバーカードに記録された電子証明書が想定されています)。

 一方、実は今回の争点はその続きにあります。「行政機関等の指定する方法により当該申請等を行った者を確認するための措置を講ずる場合は、この限りでない。」として、例外規定が設けられているのです。

 渋谷区はどうやらこのただし書きを根拠に、「行政機関(ここでは渋谷区)が申請手段の一つとして顔認証技術による本人確認を指定しているのだから、電子署名は必要ない」という主張をしているようですが、それに対して総務省は、「原則として本人確認は電子署名が必要」という立場を固持しており、こうした立場の違いから、両者の食い違いが発生したようでした。

2.本人確認をめぐる世界の潮流

 今回の提訴は、デジタル手続法総務省令をめぐる解釈、技術的助言の性質など、法的な観点からも非常に興味深い案件です。

 一方、コロナの影響もあり今後オンライン上での行政サービスが急速に進むことが想定される中、本人確認をめぐるテクノロジーの活用という観点からも、本件は様々な論点を私たちに提示していると考えられます。

 実際テクノロジーによる本人確認は、世界的にも大きな潮流となっています。
 例えば、インドのマイナンバー制度と呼ばれる「アドハー(Aadhaar)」では、指紋、顔、および虹彩を組み合わせた生体認証によって本人確認を実現しています。国土が大きく人口が分散している一方、金融機関や行政サービスへのアクセスが問題となっていたインドでは、一人ひとりがその場で本人確認ができるよう、世界にも先んじてオンライン上の個人認証の実現に踏み切りました(実際の指紋認証、虹彩認証の様子が分かるアドハーの公式動画です)。

 また、精度の高すぎる顔認証技術は、近年別の議論も巻き起こしています。例えば、米国のシンクタンクCSISがまとめたレポートによると、被験者を明確な参照画像(パスポートの写真や顔写真など)と照合するために使用される検証アルゴリズムは、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)の顔認証ベンダーテスト(FRVT)などの標準的な評価で99.97%という高い精度を達成しているとのことです。この結果、例えば監視カメラによる犯罪者の追跡やプライバシーの侵害などへの懸念が高まり、自主的に顔認証技術の活用を抑制すべきといった議論も発生しています。

 いずれにせよ、テクノロジーの進展と規制の絶妙なバランス関係が今後の重要なイシューになる中、先端テクノロジーを活用するテック系スタートアップは、規制を遵守することはもちろんながら、どのように規制当局と付き合っていくかという視点が欠かせなくなっています。

 以下では、特にテック系スタートアップが、実際に規制当局との関係で疑義が生じた場合に取りえる選択肢について解説したいと思います。

3.政府の規制改革制度の活用のススメ

 企業が新しいビジネスを開始する際に問題となる規制法令があり、かつ規制所管省庁との交渉が難航するような場合に取りえる手段は必ずしも訴訟だけではありません。

 例えば、有力な選択肢として、政府が提供している各種規制改革制度が挙げられます。

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この政府が提供している規制改革制度は使用形態・目的ごとに大きく記3つに分けられます。

①企業単位で個別に利用できる規制改革制度
 まずは企業単位で活用できる制度のご案内です。
 後ほど詳しくご説明しますが、グレーゾーン解消制度規制のサンドボックス制度に加え、企業の要望に基づき法令の特例措置(法令の見直し)を講じたうえで、事業計画の認定を受けた企業に限って、当該特例措置の使用により、新事業を開始できる新事業特例制度等がここでは選択肢として挙げられます。

②地域単位の規制改革制度
 また、地域単位で活用できる制度としては、企業等の提案に基づき、地方自治体等の意見も踏まえ、特定の地域においてのみ適用される規制の特例措置を講じて(法令を改正して)事業化を図る国家戦略特区制度があります。

⓷全国単位の規制改革制度
 最後に、より大規模な規制改革のための制度として、政府の委員の意見の下に議論を行ったうえで、全ての企業に適用される全国的な規制改革(一般的な法令見直し)を行う政府の会議体である規制改革推進会議があります。

 この中でも、スタートアップなどの交渉体力があまりない企業が利用することを想定し、かつ今回の訴訟の事例のように、規制の解釈・適用の有無を確認する必要がある場合に使える制度が、①の「グレーゾーン解消制度」及び「規制のサンドボックス制度」です。以下ではこれらの制度を詳しくご紹介したいと思います。

4.「グレーゾーン解消制度」及び「規制のサンドボックス制度」の概要

 この制度は、政府が新事業を創出しようとする企業向けに用意している制度であり、一般的な訴訟に比べると以下のようなメリットがあります。

・国(当該事業を発展させることを司る省庁等)が企業の新事業創出を支援するために積極的に規制解釈の明確化や規制の改正についてサポートしてくれる。(企業対省庁から、省庁対省庁の関係に持ち込める)
・無料で利用できる。
・結論を得るまでの期間は一般的な訴訟に比べて短い。
・訴訟を起こす場合に比べて国と健全な関係を維持できる。

 では、これら二つの制度の概要を見てみましょう。

①  「グレーゾーン解消制度」
 「グレーゾーン解消制度」とは、企業が新しいビジネスを開始するうえで、問題となる規制法令がある場合に、その規制の解釈や適用の有無を国に確認できる制度です。しかもこちらの制度、事業を所管する省庁(事業を発展させることを司る省庁。多くの場合経済産業省のことを指します)が企業と規制所管省庁の間に立って、事業を実現するべく規制所管省庁と前向きに交渉してくれるという画期的な仕組みになっています。

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 具体的なフローを見てみましょう。
 規制法令がある分野でビジネスを始めようとする企業は、開始したいビジネスの内容と問題になる法令を記載した申請書の案を作成し、事業所管官庁に提出します。それを基に、事業所管省庁が規制所管省庁と交渉し、法的に問題ないという感触が得られれば、企業は正式に申請書を提出することとなります。そして、その申請に対して、問題ない場合はその旨が文書によって規制所管省庁から申請企業に回答されるという流れです。

 文書で回答されるので、法的解釈が明らかになり、お墨付きを得て、安心してビジネスを開始することができるというメリットもあります。

 企業が自ら単独で規制所管省庁と交渉するのがなかなか難しいなか、このグレーゾーン解消制度を使うことで、国が法令に抵触するか否かの確認を前向きにサポートしてくれるメリットがあります。
 この制度では、分野の限定等はなく、フィンテック、ヘルスケア、モビリティを始めとした幅広い分野で、「原動機付自転車を使用した自動車運転サービスの提供」「顔認証技術を活用した無人チェックインサービスの提供」など、制度開始後6年間で170件の事例(法令に抵触しない旨の回答)が出ており、新事業の創出に繋がっています。具体的な事例はこちらからご覧いただけます。

 この制度の利用にあたっては、経済産業省の新規事業創造推進室に相談窓口があるので、そちらに連絡すれば利用を開始することができます。なお、正式な申請書を提出する前の交渉段階では、規制省庁との関係で企業名を匿名とすることも可能であり、柔軟な利用が可能なようです。

「グレーゾーン解消制度」制度概要及び窓口(経済産業省HP)
https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/download/200715_overview.pdf

②  「規制のサンドボックス制度」
 続いて、「規制のサンドボックス制度」についても解説しましょう。

 ご存じの通り、近年、AI、IoT、ブロックチェーンなどの新しい技術や、それらを用いた新たなビジネスモデルが登場し、私たちの暮らしを変え始めています。一方、このような技術やビジネスモデルは革新的であるがゆえに、既存の規制法令に触れてしまい、世の中に実装できないということが時折起こります。
 このような状況を打破するため、政府は2018年夏より、規制のサンドボックス制度という新たな規制改革制度をスタートさせています。

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 「サンドボックス」ー聞きなれない言葉ですが、これは「砂場」、すなわち安全な環境で自由に試行錯誤できる場所といった意味があります。

 規制のサンドボックス制度は、「まずやってみる」という制度コンセプトの下、新しいビジネス等について規制に抵触するなどの懸念がある場合に、既存の規制の適用を受けない環境下で、事業ではなく「実証」としてまず実験を行ってみて、その実証で得られたデータを基に安全性などを証明し、規制の改革(規制の解釈の明確化や法令の見直し)に繋げる制度です。

 この規制のサンドボックス制度は、上記のグレーゾーン解消制度と同様に、事業所管省庁や窓口の内閣官房が規制所管省庁との間に立って、実証の実施までサポートしてくれます。イノベーションを生み出す企業、特にスタートアップにとってこちらも追い風となる制度と言えるでしょう。

 サンドボックスも事業分野に限定はなく、フィンテック、ヘルスケア、モビリティなどあらゆる分野の規制改革で活用実績が出てきています。制度利用の相談は随時、内閣官房の窓口にて受け付けているので、こちらもいつでも相談可能です。

〇「規制のサンドボックス」相談窓口・実証認定案件一覧(内閣官房日本経済再生総合事務局HP)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/regulatorysandbox.html#how
〇「規制のサンドボックス」制度概要
https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/download/sandbox_overview.pdf

 サンドボックスについては、こちらにも詳細を記載しておりますので、併せてご覧ください。また、英語版ながら政府作成のこちらの動画でも、概要が分かりやすく説明されています。

5.おわりに

 今回は、特に規制に直面するスタートアップこそ活用したい2つの制度として、「グレーゾーン解消制度」及び「規制のサンドボックス制度」に焦点を当ててご説明させていただきました。

もちろん企業はこれらの制度を活用するだけではなく、
・規制当局と直接個社でやりとりする
・業界団体でポジションを確立し、業界団体を通して当局に意見を伝える
・広く社会的ムーブメント(啓発・啓蒙活動含む)を起こす
・政治家に相談する

といった方法も考えられます。一方、実際に規制の壁に直面したスタートアップがすぐさまこれらの選択肢を取れる状況はなかなか想定しがたく、そういった意味でも「グレーゾーン解消制度」や「規制のサンドボックス制度」の果たす役割は大きいのではないでしょうか。

今後も引き続きテック系スタートアップに有用な制度や取組についてご紹介していければと思います。以上、最後までお付き合いいただきありがとうございました!




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ミレニアル世代を中心とした国家公務員、政治家、弁護士などのパブリックセクターとスタートアップや研究・教育機関のイノベーターらが協働し、日本が抱える社会課題に 対してイノベーションがどのように社会に機能・実装しうるかを考えるコミュニティ。HP: https://pmi.or.jp/
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