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【PublicNotes】 「公共政策学」ってなんだ?〜後編

 PMIでは「イノベーションと公共」をテーマに、定期的な勉強会やイベントを開催しています。本記事では、前編に引き続き、秋吉貴雄先生による公共政策学の勉強会についてまとめます。「いかに時代を反映させた公共政策を実現できるか」、イノベーティブな視点を交差させながら考えていきます。

 それでは、前編でご紹介した内容の中で特に議論が盛り上がった3つのトピックについて、PMIメンバーと秋吉先生によるQ&A形式で、早速ご紹介していきます。

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1.SNSとネットメディアによる変化

 前編でご紹介した通り、政策問題とは「私的ではなく、社会で解決すべき社会的問題と認識された問題」のことを言います。社会に、「これは社会的に解決すべき問題だ」と認識・定義されてはじめて政策問題になります。  

Q.では、社会課題化された問題とそうでない問題とを、専門家はどのように分析しているのでしょうか?(石山)

個人が発信できるツールが豊富にある現代では、新聞記事にならなくても、多様な問題がリアルタイムで共有されます。その中で、何が「社会課題」となっているのでしょう。

A. 問題の状態というのは流動的なものです。だから、「個人の問題か社会の問題か」の区分は、極めて難しい。従来は、伝統的に、特定の問題・用語が新聞記事で掲載された回数などを専門家が分析し、社会課題化された問題とその社会課題化のプロセスを捉えてきました。しかし、近年ではSNSの発達により、個人の発信で問題が可視化されるケースが増え、問題発見の数にも変化が起きています。新聞が世論形成していた以前に比べ、今はメディアの形が変わり、ツイッター等で注目させる方が社会課題化されやすい現状にあるとも言えます。(秋吉先生)

 「バズる」という現象により注目された話題・問題は、社会問題たりうるのか。「個人の問題」と「社会の問題」の境目が揺らぐ中で、今は研究媒体が新聞からSNSに見直されている段階に来ていると、秋吉先生は言います。従来では拾えなかった声の集合体を「問題」として縁取ることができる一方で、取材などを介さないで発信されることも多い個人の意見が、どのように政策過程へ影響を与えていくか。公共政策学のみならず、社会心理学、ソーシャルメディアの研究など、分野横断的な観点から分析していくことが、これからの公共政策を創る鍵になりそうです。

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2.問題に関心が集まることは、本当に必要なのか

Q.行政では、パブリック・コメント制度をはじめ、市民の声が政策形成過程に直結する窓口が用意されています。そんな『パブコメ』でも、意見が集まりやすい問題と、集まりにくい問題との差が激しい現状がありますね。どうしたら多くの人の関心が集まるのでしょうか?(石山)

A. 「市営バスの老人無料券をやめる」という案について高齢者からの意見が取り分け多く集まるように、特定の課題に利害関係のある層とそうでない層の分断は、やはり激しい。では、自分の利益に直結する・しないに関わらず、多くの関心を集め、多様な意見を政策づくりに反映させていくには、やはり「フレーミング」(以下で詳しく紹介)がポイントになります。(秋吉先生)

 この点について、PMI Legal Communityのメンバーであり、ルールメイキングイベントにも登壇された野本遼平弁護士が、別の視点から質問します。

Q.実務では、問題意識を共有するところから政策へと昇華させていくのではなく、理想に向けて社会を変化させたいという動機があるからこそ、多くの人が関心をもつファクトを集めるという順序で動いているのではないのでしょうか?(野本弁護士)

A. 実際に、野本弁護士がおっしゃられたような順序立てで動くことがあるのも確かです。ただ、「特定の問題に関心が集まっている」という状態は、それ自体を一種の取っ掛かりとして発信することで、意図的に社会関心を高め、政策作りをしやすい状況をつくることができるという役割があります。だからこそ、やはり問題への関心は必要かと思います。関心を高める方法の中には、当初は「自分ごと」として捉えにくい課題であっても、発信することで問題意識を浸透させていき、盛り上がる機を待つという方法もあると言います。「郵政民営化」の実現に向けて、発信を続けた小泉元総理の姿勢がその一例です。(秋吉先生)

 社会の様々な要因によって自然に関心が集まるケースもあれば、こちらから引き金を用意して意図的に演出し、みんなを騒がせるというケースもあると言います。「鳴かぬなら、鳴くまで待とう・鳴かせてみよう」。国づくりが、多くの人の心の動きから始まるということは、いつの時代も同じなのかもしれません。

3.「総論賛成」を得るフレーミング 

 前編では、政策形成の要であるフレーミングの重要性について触れました。社会課題や政策に関心を寄せてもらうには、フレーミングの中でも「言葉選び」が重要です。

Q.コピーライティングスキルは、センスや経験値などに基づく属人的な部分も多いと思うのですが、どのようにそのスキルを向上させることができますか?(石山)

A.スキルを問わずに、「言葉選び」の中で意識できることとして、「問題を抽象的に捉えた言葉を提示すること」が挙げられます。言葉選びによって「総論賛成」の空気をまず獲得することが、政策を実現させるために必要な戦略です。みんなが賛成しやすい「協調」、「共同」、「サステイナブル」などの言葉を使用することでビジョンを打ち出して一旦合意し、各論について意見を集中させる流れへ持ち込むいうことも、一つの策ですね。課題そのものや課題解決の方針を、どのような言葉で示すかによって、人々の関心も大きく変化します。例えば、「働き方改革」について見ると、「改革」という言葉はフレッシュさがあり、現状を打破できそうな勢いを感じる言葉であることから関心を得やすく、政策を名づける際に人気があると言います。(秋吉先生)

 「抽象的に捉えた言葉」という点について、PMI理事である日比谷からの質問が挙がり、より議論が深まります。

Q.「抽象的」というと、その抽象度の幅は広く、塩梅を取ることが難しいですよね。抽象度が高すぎても、「それはみんな賛成して当たり前だよね」という空気が出来上がり、かえって「総論賛成」というコンセンサスを取ることが困難になるのではないでしょうか?(日比谷)

A.その点については、塩梅を知るために、過去の事例を分析することが必要です。社会心理学等、学問領域を横断しながら分析することで、どのような言葉がより多く関心を寄せたのかという事実や、言葉選びとその影響との因果関係を研究していきたいですね。「クールビズ」という言葉は広く浸透したけれど、対する「ウォームビズ」は「クールビズ」ほど広まらなかったのはなぜか。PRの違い、語感から来る心理的な要因の差異から考えるなど、多角的な研究が、今後より重要になってくると思います。(秋吉先生)

 広告代理店の行うPRとは違った力学で動く『公共PR』という観点、また、選挙や政策形成におけるナレッジ化を進めることが必要だとの話題で、大きく盛り上がったトピックとなりました。

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4.「これからの公共」に向けて

 冒頭で触れたように、SNSやネットメディアの台頭によって、問題認識のプロセスや関心の集まり方、また政策の実現過程にも変化が訪れています。この変化は、自分たちの身の回りの問題が、日本のみならず、世界と接続するという意味も同様に持ち合わせています。

Q.日本で抱える問題は、他国でも抱えうる。世界がボーダレスになるにつれ、日本人のネーミングセンスに偏った限定的なフレーミングでは、政策課題に関する情報や関心を送受信する機会を逃しかねないという点に、危機感を覚えます。先生はどうお考えになりますか?(石山)

A.こうした観点についても、今後まだまだ議論や研究を深める必要がありますね。以前、「リーンガバメント」というアメリカ政府の行政改革が注目されました。日本もこれに倣って、「筋肉質の政府」と表して、輸入的に使用したということがありました。単純に直訳してみたということだと思います。ただ、果たして日本ではアメリカ同様の関心を得られたのかについては、疑問を感じる部分があります。(秋吉先生)

 さらに、勉強会全体では、

課題として話題になりやすい問題は「現状の利害」についてであることに対し、いかに未来志向の課題を設定することができるか? 
利害の異なる組織、団体、業界の間で、いかに同じビジョンを浸透させることができるか? 

 といった問いについても共有しました。こうした問いに対しては、「継続的に、公共政策学やメディア論、社会学問、心理学等の幅広い学問領域をクロスオーバーさせながら研究し、それをさらに行動に繋げていくことが重要である」との認識を持つことができました。この意識こそ、「イノベーションを、社会と接続する。」を掲げ、官民を超えた協働を生み出すPMIの理念と重なる「これからの公共」を表す、ひとつの姿なのではないでしょうか。

 今後もPMIは、ミレ二アルペーパーの提案や各種イベントを通して、今回浮かび上がってきた重要な観点をルールメイカーやイノベーターと議論することで、新しいルールメイキングの一歩を実現していきます。

講師:秋吉貴雄 (あきよし・たかお)
1971年大分県生まれ。00年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得満期退学。00年熊本大学法学部助教授。02年同大学院社会文化科学研究科助教授。07年同准教授。11年同教授。13年より現職。博士(商学・一橋大)。主な著作に『入門 公共政策学』(中公新書)、『公共政策の変容と政策科学:日米航空輸送産業における2つの規制改革』『公共政策学の基礎』(共著・前著ともに有斐閣)などがある。

記: 八村美璃
 現在法科大学院に通うPMIインターン生。

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ミレニアル世代を中心とした国家公務員、政治家、弁護士などのパブリックセクターとスタートアップや研究・教育機関のイノベーターらが協働し、日本が抱える社会課題に 対してイノベーションがどのように社会に機能・実装しうるかを考えるコミュニティ。HP: https://pmi.or.jp/
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