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デジタル大臣秘書官に聞く、デジタル改革【PMI ThinkTank】


小山里沙さん

平井デジタル改革担当大臣秘書官
2007年 総務省入省。兵庫県や総務省で地方税財政を企画立案、横浜市や内閣官房でマイナンバー制度導入に奔走。
シンガポール赴任ではデジタル政策を肌で感じ、2020年9月より現職。
サッカーファン

お話を聞いたメンバー

・田中 佑典  PMI 理事 総務省
・日比谷 尚武 PMI 理事 一般社団法人 at Will Work 理事
・木下 覚人  PMI ポリシーオーナー 国土交通省
・窪西 駿介  PMI ポリシーオーナー 総務省
・村松 優里英 PMI インターン Pomona College

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自己紹介

大臣秘書官の仕事というのは、大きくは大臣の想いやミッションを実現するための業務を円滑にすることです。要人との面会セットやスケジュール調整、国会答弁のチェック、定例会見の草稿のチェックから現場でのサポートもします。

私の転機は、総務省に入った7年目に横浜市役所に赴任した2013年の夏です。日本がマイナンバー制度を始めるに当たり、自治体として住民にマイナンバーの仕組みを説明して回りました。同時に、今までのやり方を変えることに大きな抵抗があった方々にも、国のビジョンとマイナンバーの必要性を伝えました。それが今の私の始まりとなりました。

社会人10年目に内閣官房、まさにマイナンバー制度を企画立案する部署に戻って2年間、横浜市役所の現場で感じた「制度のここを変えたい」を実現することに全力を尽くしました。その後シンガポールに赴任して、スマホで何でもできる最先端デジタル国の仕組みを肌で感じました。

国の役所のキャリアパスは、ゼネラリストとして本当にいろんな部署に移っていろんな仕事をするのですが、私のようにデジタル 政策に偏った分野にずっといた人は多くないかもしれません。
そんな中、去年9月、デジタル改革担当大臣の秘書官を拝命し、いま9ヶ月が経ったところです。


さて本題に入ります。2016年に始まったマイナンバー制度で、一気に市町村のバックオフィスで情報の連携が出来るようになりました。

今、国民の32.5%までマイナンバーカードが普及していますが、まだまだ日本のデジタル化は道半ばです。

デジタル化のキーワードはこの3つです。

1.  全体の制度設計(全体アーキテクト)
2.  ID基盤
3.  データ基盤

まずシステムを含めた全体の制度設計です。ID基盤は、オンラインで本人確認するためなどの基盤。データ基盤は、データをどう最新の状態で管理するか、です。
これまでの国のデジタル化は、これらが出来ていなかったと言えます。

なぜ今デジタル庁か

コロナ時の政府の対応が、諸外国に比べて遅れていると言われていました。10万円の特別給付の時も、口座情報を自分で書いて出さなきゃいけなかったり、世帯人数を多く申告して悪用する人がいたりなど、市役所の確認がアナログ手作業で非常に時間がかかってしまった。

「目指すべきデジタル社会」は、ずばり「一人ひとりのニーズに合ったサービスを、自分で選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」です。

また省庁のテレワーク環境をきちんと整える必要もありました。とある省では、なかなかテレワークができない部分があり大変だったと聞いています。

日本は5G、もうすぐ6Gが来るなど、世界的にもトップクラスの通信環境があるのに、これを活かし切れなかった。デジタル化を通じて最適なサービスを提供するための基盤が必要であり、それに特化できる役所を作る必要があり、デジタル庁を創ることになりました。

まず全体の制度設計

どういう社会を目指すのか、そのためにデジタル庁に必要な機能は何か。有識者会議でもいろんな意見を頂いて進めてきました。政府のデジタル施策に不足していたものは「全体の制度設計」をすることでした。

これまでも各省庁ではデジタル化を進めていましたが、バラバラにやっていました。

<主に担っている省庁の例>

● 各省庁の調整:内閣官房IT総合戦略室
● 政府システムセキュリティ:内閣官房サイバーセキュリティセンター
● マイナンバー制度:内閣官房番号制度推進室
● インフラ(5Gなど):総務省(情報通信)
● 政府システム調達、政府システムの個人情報保護:総務省(行政管理)
● 自治体システム(個人情報含む):総務省(自治)
● 企業DX:経済産業省
● 各省システム調達:各省(国税、年金、国民健康保険など)


デジタル庁の役割は、これまで省庁がバラバラに行っていたデジタル施策を一元化することです。省庁間の調整と、既存のルールを見直すという機能を担っていきます。

システムの調達ルールも、単年度主義の予算の見直しや、クラウドを利用する上での会計基準の見直しもやっていきます。クラウドは、国のセキュリティ基準をクリアしているものがまだ少ない中、高度なセキュリティを確保しつつも競争性も高める必要があります。また、クラウド利用費は(システム調達費でなく)光熱費のようなインフラ経費として計上することも実態に即して有効だと考えます。

それから、ガバメントクラウドを創ります。国も自治体もハイレベルの環境を用意し、自治体システムも、ガバメントクラウド上で標準化されたシステムを利用する形式に移行することで、ベンダロックインから解除される世界をこれから創ろうとしています。

ID基盤がデジタル化を支える

ゼロイチのデジタルで情報やサービスを届けるには、その人がその人であることの特定が必須です。また、人だけに限らず情報の特定もセキュリティの確保の観点からは欠かせません。

デジタル化が進む社会だからこそ必要なID基盤は、人に関してはマイナンバー(番号)やマイナンバーカード(電子証明機能)が基盤となるものですが、実は今はまだ日本では完成されていません。

各省庁の人や企業への支援策はたくさんあり、それらのサービスメニューごとにIDがあると、複数のサービスを横並びで見た時に同じ人や企業をターゲットにしているという突合ができません。それらに横串を指すことができるのがデジタル庁です。


データ基盤に基づくデータ活用

人に関する情報も、土地や建物・会社といった物に関する情報も、オリジナルデータ(紙でいう原本)があって、それに基づいてサービスが提供されています。これまでは、各省庁や自治体、民間企業が、各自サービス等に必要な情報を取得していました。要は同じ私の住所情報を、市町村も都道府県も国の省庁も銀行やカード会社やネットショッピング会社も「私が手書きや入力することで」持っているという状態です。

でもオリジナルを常に最新の状態で管理し、必要な官民の主体がそこに見に行けるようにすれば、更新忘れも生じないし、ワンスオンリーは達成されます。もちろん本人の意思に基づいて、が基本です。

データをしっかりと整理し、どう持つかのルールを作れば、新しいサービスに活用できます。オープンデータやビッグデータの活用のイメージです。

人材募集

デジタル化を進めるに欠かせないのは人材です。今、民間経験がある方の採用が進んでいます。第1弾は4月に35人入ってもらって、第2弾はエンジニアなどを選考中です。第3弾は幹部クラスを今募集しています。

応募傾向として面白いのは、昔の役所の募集はベンダさんからの手が挙がりやすかったのが、今は例えばメルカリや楽天でアプリ開発をやっている、という方などが応募してくれています。

デジタル庁はエンジニアに来てもらいたいので、ジョブ・ディスクリプションをきっちり示していかなきゃということで「アプリ設計ができるUI/UXのエンジニア」など 職種区分を設けてやっています。新しい採用上の試験区分来年度の試験から始まる予定です。

サービス向上

デジタル化でいったい何が便利になったのか、皆に感じてもらえるようにしないといけません。その一例を紹介します。

公金受取口座登録法」という法律が5月に成立しました。これで、給付金などを国民が受け取る際、口座を登録していれば、従来のように申請書を出したり、所得証明書や銀行口座情報を提出する必要がなくなります

たとえば厚生労働省がコロナ禍で低所得の子育て世帯に5万円の給付金を行う際、今までは紙の申請書と、自分が低所得者だと証明する書類を提出する必要がありました。

それが今回の新しい法律で不要になりました。児童手当等を給付している家庭が対象者なので、元々児童手当等を届けている口座の情報はもう市役所にはあり、その口座に対し「振り込みますね、いやな場合だけ言ってくださいね。」という通知をお送りしたという、ほぼプッシュ型で出来るようになりました。

口座情報は、いつも最新の情報に更新されていることが一番重要なのですが、10万円給付の時も、国民の最新の口座情報の確認を金融機関に投げたりもして時間がかかっていました。今後この新しい法律に基づいて登録される口座情報は最新の状態か確認がなされるようになります。

海外事例

今後どこを目指していくか。私がイメージしてるのはシンガポールとかエストニアです。

シンガポールは相当進んでいます。Singpass(シンパス)というのが日本のマイナンバーカードの認証の仕組みに相当します。様々な国のサービスをオンラインで受けられます。「My info」という自分のポータル上で、自分の銀行口座や課税情報を、行政がどこまで使っていいかを自分で選ぶことが出来ます。行政サービスにチェックを入れると、行政が必要な時にその情報を使います。

これは民間企業、たとえば証券会社で口座を開くときにも、自分がOKをすれば、自分の課税情報を証券会社が見に行けるようにすることができます。

エストニアもかなり先を行っています。日本でいうマイナンバーカードを国民の99%が持っていて、ほとんどの行政サービスがオンラインで受けられるようになっています。X-Rroadというデジタル基盤があり、その上で個人のデータがやりとりされ、オンラインサービスが円滑に提供されています。そのデジタル基盤のサービスを受けるには、オンライン上で自分を証明する必要があり、それが日本でいうマイナンバーカードです。もはやこれなしでは生活できないという世界になっています。

マイナポータル使ってね

シンガポールやエストニアを目指して日本が創ったのが「マイナポータル」です。みなさんマイナポータル使ったことありますか‥‥?

マイナンバーカードとスマホで、いろんな行政のサービスが受けられます。いま、サービスの拡大を進めています。

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国民の医療情報も紙の「お薬手帳」だけでは限界があると思っていて、例えば検診情報など、安心して確認できる基盤がマイナポータルになります。来年からは自分のワクチン接種情報もマイナポータルで確認できるようになります。

一人一人のニーズに合ったサービスの提供のために、制度、社会保障制度を変えなきゃいけないと思っています。

たとえば今って住民票のあるところで住民税が課税されますが、2拠点生活をしている人や、登録している住所には実際あまり住んでいない人がコロナ禍での生活の変化で今後も増えていく中で、課税の在り方などニーズに見合った制度に直していく必要があるのではと、個人的には思っています。

私からのプレゼンは以上です!

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デジタルへの不安は国民も役所も同じ

田中(PMI 理事 総務省):
「一人ひとりのニーズに合ったサービスを自分で選べる社会」、とても共感します。やはりマイナンバーの普及が要になると思いますが、普及を阻むハードルがあるとすれば、何だと思われますか。

国民の中には、デジタルに対し見えない不安を感じる人が少なくありません。僕がPMIのnoteにCOCOAの記事を書いた時も、取材で感じました。国民の約7割が「個人情報が国に漏れるのが怖い」と回答したという、どこかのアンケート調査も見ました。COCOAは位置情報など個人情報を提供する仕組みじゃないにも関わらず、です。

小山さん:
COCOAは個人情報を取得せずに行うコンタクト・トレースなのですが、普及しなかった背景の一つに、個人情報の取り扱いについて政府が上手く説明できなかったことは、確かにあると思います。

COCOAに限らず、これからのデジタル化においては「個人情報を提供することで、こんなに良いサービスが受けられる」ことこそ、上手く発信する必要があると思います。Gmailも、 Facebook、Twitter、Amazonなど、みんな使いながら結構な個人情報を企業に提供していますよね。でも日本は行政に対して情報を提供するのは嫌だと思っている人がとても多い。正直、私もこれをどうやったら乗り越えられるか、まだ解は得られていません。

窪西(PMI ポリシーオーナー 総務省):
Googleなどは一応「個人情報を使っていいか」って聞いてくるけど、実はどこまで自分が許可したのか曖昧なまま使われてると思うんです。「でもまあ便利だから同意してもいいか」と。行政も、いっそ曖昧に始めちゃうって出来ないんですかね(笑)。明確にオプトインの同意って、やはり取らないといけないものでしょうか。

小山さん :
「個人保護法」があるので「この目的にしか個人情報は使いません」が基本ルールなんです。個人情報を行政が、たとえば国民健康保険とか住宅ローンのサービスなどに使う場合は、その手続ごとにしか使えず、他のサービスで使う場合は、事前に本人の同意を得る必要があります。

そのルールが変えられるか、かつそれが国民に受け入れてもられるか、ですが‥‥。感覚的にはあと100年ぐらい‥‥かかってしまうかもしれません。

デジタル庁、一極集中?

木下(PMI ポリシーオーナー 国土交通省):
僕はデジタル庁に予算やリソースを集中させている、縦割りの現状が気になっているんです。各省で「自分たちがサービスを作りたい」という反発があるなど、実際の現場はどんな感じでしょうか。

小山さん:
今システムの類型を3類型で考えています。

1.   デジタル庁が直轄して調達から改修までやる
2.   担当省庁とデジタル庁で一緒にシステムを担う
3.   各省庁でシステムを担う

将来的には各省庁が調達するのが一番理想かもしれません。でもアメリカですら「連邦調達庁」があって、やはり「調達のプロ」は必要です。そこをデジタル庁が担うのが一番いいのではないかと。ただ、たとえば年金のシステムを作る時、年金の業務を一番熟知しているのは厚生労働省なわけで、どういう役割分担をすると上手くいくかの議論は、これからだと思っています。

ガバメントクラウドでベンダロックインを解決

木下:
ベンダロックインの問題についてお聞きします。たとえばアマゾンのクラウドなどがある一方で、ベンダロックインで競争性が担保されない問題があります。

小山さん:
非常に大事なポイントで、確かに今までの調達は一社応札が多かった。国や自治体のシステムはかなりカスタマイズして作るので、更新時の引き継ぎが本当に大変なんです。

先ほどガバメントクラウドを創ると話しましたが、これでベンダロックインを解除できると思っています。例えば自治体のシステムでいうと、標準的な仕様書を作るので、どのベンダが作っても同じになる。そして、ベンダロックインの最たるものって、データの移行なんです。なんといっても違うベンダに変更する時のデータ移行がとても大変なんですよね‥‥。でもデータ形式を統一することで、ベンダが変わっても移行時に苦労しないようになります。ぜひ国交省さんもガバメントクラウドのシステムを利用してください。

木下:
僕は発注系の取りまとめをやっているんですが「一社応札」がとにかく多くて‥‥。ロックインで悩んでいるところです。なるほど、少し道筋が見えました。

法人とマイナンバー

日比谷(PMI理事 一般社団法人 at Will Work 理事):
電子インボイスはじめ、法人のデジタル化も進んでいると思いますが、たとえば法人マイナンバーなど、個人とは別に法人経由でもマイナンバーを促進する施策にはどのような課題感があるのでしょうか。

小山さん:
G ビズ ID」という法人向けのログインサービスがあります。
法人が1つのIDで複数の行政サービスにアクセスできるものです。

IDに紐づく法人情報の真正性の管理等が課題です。

電子インボイスは、個別の政策としては非常に進んでいます。
Peppol(ペポル)という国際標準を、デジタル庁が日本国のオーソリティとして推進していく予定です。

領収書のデジタル化も、Sansanさんの名刺のように「まず写真を撮る」というのが利用者として使いやすいと思います。Sansanさんやマネーフォワードさんなど、既に国民に使われている良いアプリケーションがあります。そういう民間企業さんに、国際標準のフォーマットのデータで取り込む部分を担っていただくなど、デジタル庁と連携が出来たらいいなと思います。

住所と本人確認を切り離せないか?

村松(PMIインターン Pomona College):
私はアメリカの大学に留学中で、家族も外国に住んでいます。そのため日本に住民票がなく、今コロナで休学し一時的に日本に住んでいるのですが、
銀行の口座も開けられず、電話番号も取得できず不便だと感じています。
一方アメリカでは、住民登録がなくても銀行口座もその場で開けられたし、携帯電話の契約もすぐできました。海外に住む国民へのマイナンバーの施策はどうでしょうか。

小山さん:
既に法令の改正は終わっていて、海外居住の日本人も2024年からがマイナンバーカードが使えるようになります。あ、皆さんの学生生活もう終わっていますかね‥‥(笑)。ローマ字も入るので、パスポート以外の身分証明証として使うことも出来るようになります。

冒頭のプレゼンでも話しましたが、超個人的な私のビジョンとしては、住所に基づく行政サービスは変えていく必要があるのでは、と思っています。

その人が本人であることを証明できればいいわけで、本人確認と住所は切り分ける方がこれからの実態に即しているかもしれません。行政からのお知らせもオンライン、マイナポータルに届くようにすればいいですしね。

その代わり住所と切り離した納税の仕組みを作らなければいけないし、なかなか難しいところではあります。ただ準備は出来ました。その上にどういうサービスを作っていくか、あるいはどうやるか。今スタート地点に立ったところです。

田中:
住所に基づいた行政サービスってやはり無理が出てきてると僕も感じます。本人のアイデンティティと住所を紐づけるのが基本という今のしくみは、選挙や税のことを考えると簡単には変えられないのかもしれませんが、流動化する社会の中で、オンライン上での個人認証をどのように行うかは確実に重要なテーマになります。

また、PMIでは今年4月に「家族イノベーション」というタイトルの政策ペーパーを出しましたが、同ペーパーの切り口の一つが、

●「家族・世帯単位から個人単位のサービス給付へ

でした。ひと昔前であれば技術的な問題から、世帯など何かしら社会共通の単位でくくらざるを得なかった事情があったかもしれません。しかし今やそうではありません。

冒頭に小山さんがおっしゃったように、多様な幸せを実現していくためには、一人ひとりのニーズに合ったサービスをタイムリーに届ける仕組みづくりが必要であり、そのためにデジタル庁が存在しているということを、改めて再確認できました。今後のご活躍に期待しています!

小山さん:

ありがとうございました!


(※これは2021年6月13日に、PMIのメンバーと小山デジタル大臣秘書官で行われたオンライン・トークセッションをまとめたものです。)


記:村松優里英(PMIインターン)

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