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鉄カブト (83)

 芸術の秋、ザ・クロマニヨンズの名曲『鉄カブト』を聴きながら過ごす昼下がり、ふと”赤カブト”のことを思い出した。いや思い出したというほどはっきりと思い出したわけではなく、ふと言葉が頭に浮かんだ程度である。赤カブトは高橋よしひろ先生の漫画「銀河-流れ星銀」に登場する殺人熊だ。マタギの竹田五兵衛に右眼を撃ち抜かれ脳が損傷したことによる変異で、生き物の常識を超え冬眠しなくなり巨大化した熊である。羆でも月輪熊でもなくそのハイブリッドで、体長は10m体重は5tにも及ぶ。そんな化け物熊だが、最後は主人公であるところの犬に倒される。え?何で犬??と疑問に思うかもしれないが、理由はちゃんとある。主人公である犬が『絶天狼抜刀牙』を使ったからだ。『絶天狼抜刀牙』を出されては仕方ない、納得するしかない。因みに『絶天狼抜刀牙』はゼツテンロウバットウガと読む。

『絶天狼抜刀牙』 筆者作 

 食欲の秋、赤カブトは冬眠しないが、現実の熊たちは冬眠の準備をする。鮭やドングリなどを食べ沢山のエネルギーを体に溜め込み、寒い冬を寝て過ごす。寝るといっても浅い眠りで、ちょっとの刺激で目を覚ますそうだ。穴の中に引きこもり、摂食、飲水、排泄、排尿などの生理的行動を一切しない。しかし何故か出産、授乳はする。穴の中にいる間にある程度の子育てを行うことにより、天敵から身を守っているのかもしれない。

 我々人間の世界も現在、実りの秋を迎えている。秋刀魚、さつまいも、栗、柿、鮭、ぶどう、銀杏、松茸などなど、涎がジュルリとなるもので溢れている。そして多くの日本人にとって一番の実りは、なんといっても新米だろう。新米の美味しさは異常である。いかに美味しく炊くか、改めてネット検索したほどである。しかし食べ過ぎにも気をつけなくてはいけない。美味しいからとばくばくと食べていると、あっという間に肥えてしまうのだ。先日楽屋で前座さんの一人が、物凄く肥えているのを目撃した。彼は元々肥えていたのだが、目に見えて激肥えしていたので、恐る恐る何を食べたのかを聞いたところ、満面の笑顔で「新米です」と答えた。腹に米俵が一俵入ってるかのごとくの肥えっぷりに、軽い恐怖を覚えた。と同時に、肥えることを気にしてないような満面の笑顔に、羨ましさすら感じた。彼は冬眠しても春まで保つだろうと一瞬思ったが、人間なので水がなきゃ三日ともたないだろう。あんなに肥えてるのに水がないと死んでしまうのかと思うと、人間はなかなかに欠陥品なのかもしれない。

 実は筆者も少し肥えてきた。割と顔に肉がつきやすいので、肥えるとすぐ顔が丸くなる。持論だが肥えてるのが似合ってて素敵な人となんか似合わない人がいる。筆者のようなタイプは恐らく後者なので気をつけることにしている。私の師匠三人も恐らく後者であろう。11月、もうすぐ最初の師匠立川談志の祥月命日である。毎年少しずつ記憶が遠くなるが、なんとか忘れないようにしていきたい。

命はいい 記憶だけは守ってくれ 鉄カブト

名曲だなぁ。あ、命も大事。

この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com