見出し画像

2021 立川談吉年末放談①

毎年恒例となりつつある
立川談吉さんの一年を振り返る年末放談。
コロナが今年ものさばり、思うように活動できなかった一年でしたが
昨年同様、zoomを利用したリモートでお話を聞くこととなりました。
色々なことに気を使わずにいられなかった2021年、
談吉さんにとってはどんな一年だったのでしょうか。
聞き手は±3落語会事務局の八百枝です。

スクリーンショット 2021-12-27 21.42.11

12月某日、今年も手ぬぐいを頭に巻いて登場してくれた談吉さん


立川談吉(以下談吉):今年はとにかくYouTubeを見てましたよ

—今年はYouTubeを見ていた!

談吉:今年は一番 YouTube を見た年でしたね。

—よく見たコンテンツはなんですか?

談吉:道場六三郎とか。

—今九十歳のユーチューバーとしてやってらっしゃる。

談吉:これはね結構面白いですよ。

鉄人の台所ってところですか?

談吉:道場六三郎は多分ね落語家で言うと新作派。しっかりした古典の基礎もあるけど、新作で新しいことをどんどんどんどんやっていく。なんでも新しいものを使ってやっていくっていうタイプの人ですね。
あんまりそういうのにこだわりがない、美味しければいいという人。それ面白かったですね。

—YouTube を楽しんでおられて…まぁそれはいいんですが。
では1月から振り返ってみましょうか。

談吉:ではスケジュール帳などを見て話しましょうか。

—コロナ禍ではありましたけど東京では初旬から頻繁に落語会が行われ始めてましたよね。地方は全部潰れてましたけど。

談吉:それでもね、来る人も来ない人もいるし、対策の方が大事っていう、やっていかなければならないからかなり対策を練りながらやっていたっていう印象ですかね。でもあんまり自分は働いてないからな。

—働いている人と働いていない人の差が見えてきて、談吉さんはそんな時Twitter の更新が滞ったりしていたので大丈夫なのかしらと思ってはいました。

談吉:どうやら今はどんどん一極集中になってるみたいですね。

—一極集中というのはどういうことですか?

談吉:仕事のある人はすごいあるけど、仕事がない人はどんどん仕事がなくなっている。どんどん差が開いている。私は元々そんなにないからあんまり変わんないんだよな。定期的にちょいちょいちょっとある感じなので前よりは多少減ってはいますけど。いや、だいぶ減ってはいますけど(笑)

ー他はありますか?

談吉:今年は独演会の会場を変えてよかったなあとは思ってます。ちゃんといい所に変えたいなあというのがあったので。一番最初の会場はトイレはあったけどちゃんとしたトイレではなくて。次の場所はトイレが別の階にある建物だったので。
今度は区民センターみたいなところなのですごい綺麗だし、やりやすいですね。お客さんもかなり安心したんじゃないかなあと思います。

—安心した場所で見れるか見れないかは、お客様からしても出向くハードルが下がりますもんね。

談吉:そうそう、ここの会場なら行っても大丈夫かなという感じになって。換気とか大きさとか含めて。あとホールではないんだけれどホールみたいなやり方を経験しやすい場所かなっていうのが今の会場ですかね。
高座も最初は低かったんですけれど、交渉して少し上げてもらったら良くなったし、音が回るのもあったんですけど幕を垂らしたり工夫をすることでやりやすくなりましたね。なんとなく会場の使い方がわかってきたかなってことと、ほんのりマイクを入れた方がいいなっていうこともわかってきましたね。 マイクって楽器みたいなものですからね。

あとは何やったかなぁ。何かあっという間でしたよね、1月2月3月とか。

野球を見に行ったぐらいしか(スケジュール帳に)書いてない。
ライオンズを見に行って負けたんですよねロッテに。他は何だろうな。

そう、今年は家系ラーメンにはまりました。 いやあ驚きましたね家系は。

—今までシンプルな中華そばを好んで食べていた談吉さんが家系にハマったのはやはりYouTubeの…?

談吉:そうですね、YouTube の影響ですね。
本当に今年は YouTube ばっかり見てましたからね、テレビをほとんど見てない。ラーメンの YouTube ね。
そこのお店に置いてあるニンニクに醤油がついたような…ラーメンのスープの元みたいなのあるじゃないですか。
あれにニンニクをつけたようなのがあるんですけどそれがバカウマで。
それをご飯にのせてマヨネーズをかけて食べるとすぐにご飯がなくなってしまう。 もうすごいの本当に。

それ一回いって、それをスープで流し込んで、ラーメン食べて、あまりにすごいものだなと思って。
それからもう一度 あれは本当にうまかったのか二日後に確認しに行って、あれおかしいぞ?そんなに大食らいではないのにご飯おかわりみたいなことまでしておかしいぞ?と思って行って、やっぱり美味しいぞ!と思って。

最近は行き過ぎちゃいけないと思って作り始めました。その醤油ニンニク。

—家で、醤油ニンニクをつくり始めた。

談吉:作り始めました。 うまいですよニンニク醤油。
作ったらいいですよ、本当に。何にでも合う。びっくりしますよね。
鶏肉焼いてやつにもでもいいし、カジキ焼いたやつにでも合うし、ニンニク醤油はね、おすすめです。

ーそろそろ落語の話も…。

談吉:あ、そうですね。去年から落語の作り方が本当に進化してる、自分でそう思うくらい枕も良くなってきてるし。やっと自分が面白いことをやっているなと確認できたかなというところですかね。

あとはそれを面白いですよっという風にアピールする自信を持つぐらいですかね。
もちろん失敗もありますよ、色々やるからね、実験もするから。

実験って、あんまり協会の方がやるもんじゃないのかなって思ったりはします。教わり方が違うから。
立川流は実験を繰り返さないとダメなんだろうなっていうところはありますね。

実験がうまくいった時はいいんだけれど失敗した時は、なんで俺はああいう風にできないんだろう、協会の人みたいに出来ないんだろうなんて思うわけですよ。
やはりそれは志ら乃兄さんもそんなことを言ってたからおんなじなんだなあと思ったりもしますよね。
少しずつ成長してるなぁっていうのをやっと実感出来てるっていうところですかね。


スクリーンショット 2021-12-27 22.47.10

ラーメンの話から一転、今回は落語の話をしてくれました


—今、二つ目になって何年目でしたっけ?

談吉:もう10年経ってるかな。

—10年で実感?

談吉:前座3年。二つ目10年。 だからそうね、どうやって早く成長できるのかなんてのはないことないんでしょうけど。まあ自分はこれだけ成長に時間がかかるタイプだなぁなんていうのは思いますね。
よく志ら乃兄さんと話すのは、どこか特化していかないといけないんだろうなということ。いきなり特化させるというのも大事なんだろうけど、いきなりというのは自分にはできないんだろうな、とは思ってます。

—少し連載の話もしますか?今年は連載50回を突破されて、おめでとうございます。

談吉:そうですよ。私はあの50回目に書いたことを今でも正しいと思ってる。やっぱり。

—え?何がですか?

談吉:自ら「50回ですよー!」と言う人もいますよ。でもそうじゃない「50回おめでとう!」と言われなきゃいけない、と思いました。

—我々も何かしたほうが良かったのか?とも思ったのですが、50回はまだ道半ばといいますか…、ですが以前書いておられたブログなんかはてんでバラバラでしたのでその談吉さんがやってこれたと言う気持ちは私共もありますよ。

談吉:私は何でも飽きる人だから、興味が失せやすいんですよね。

—Twitterで連載していた毎日ネジの時も、盛り上がり始めたにも関わらず100回目にスパッと辞められてましたよね。

談吉:そうそうスパッと、「ここで終わりだ!」と。
でも落語は全く飽きないんですよね不思議なことに。ただ落語は、本当に難しいなと思ってるんですよね。
だから「教科書作ってくれ!」ってずっと思ってる。

—教科書とはどういうことですか?

談吉:こうやったら正解だろっていう教科書をですね、例えば一番上の師匠たち10人ぐらいに集まってもらって、元老院みたいに。こういった時はこうやったらいいんですよというような教科書をね、そろそろ欲しいなとは思ってるんですよね。こういうね役をやる時はこういうのをやるといいとか書いてある。個人個人やり方があるだろうからその重なるところ、そこを協議してもらいたい。それをやったら間違えることがないじゃないですか。

—でも間違えることはないかもしれませんが、個性はつぶされますよね?

談吉:そう!個性が潰される。
だけど…知りたい!でもそれで潰される個性は駄目でしょうね。

ーでもですよ、師匠がその教科書通りにやれ!といった場合、弟子はいくら個があったとしてもそれに従わなくてはならないルールがあるから、それを体に染み込ませた上でそこから一歩踏み出す時に、グラデーションの領域が狭いことになりませんか?

談吉:いやいや、私が思う、私が言う教科書は、間違いなく成功体験を得られる教科書。

—それはハウツー本のような?

談吉:そう!ここを一拍開けたら笑いが多くなるよとか、ここをちょっと変えると良くなるよとか、元老院たちが協議をして重なったところだけが書かれた教科書。
絶対に意見が合わない人たちなんだけど、話をしていったら「確かにここはこうするといいね」ってところがあるはずだから、それをまとめてほしい。
でもその間をつかめるかどうかは別よ、だからその教科書はすごく難しいものになると思うんだけど。

ーそれは元老院の努力の結晶じゃないですか。そんな美味しいところの上澄みだけすすろうとするのはいかがなんですかね?

談吉:いやでもね、元老院の方々だって「あ!そんなやりかたがあるんだ!」って発見はあると思うんですよ。そのなかで作られてきたのが芸なんだから、いまこそそれをまとめていくのがいいんじゃないかと。

—でもそれは口外しないですよね。

談吉:そうね、それが商売の種だからね。それがあればAIで落語ができるんじゃないの?と思う。

—今、AIに落語させる必要性はあります?

談吉:いや、今後そういう事になった時、たった一人の成功体験だけでは落語はできないと思うんですよ。だから元老院に集まってもらって12人くらいに。まぁ、でもそれができないから、我々は教わりにいってお話を聞いて、自分でまとめていくっていうやり方をやってるんだけど。
名店の秘伝のタレを少しずつほしいなって。間違いを減らしたい。
その教科書は一生ありえないことなんだけど、師匠一人ひとりが教科書を出してくれればいいのになーって。そしたらこっちでなんとかしますからっていう。

—でもその教科書は弟子に引き継がれてるものですよね。

談吉:そうそう、そうなのよ。でも例えば全てのいいところが集まった総合力のあるものがみつかるとするでしょ、でもその先もまたあるはずだから。
不完全なところが面白いからいいんだけどね、人間とか芸人の不完全なところを見るのが楽しみなところでもあるんだけれどもね。
そこを理解していないわけではないんだけれど、間違いの確率は減らしたい。



この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com