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閃華裂肛拳 (91)

この頃如実に肉体の衰えを感じている。運動やストレッチをする習慣もないのだから、衰えていくのは当然ではある。以前は何故に皆ジョギングなどするのか、仕事終わりの疲れた身体をスポーツジムでいじめるのかがまるで理解ができなかったが、今なら何となくわかる。おそらく皆、老いに抗っているのだ。衰えた自身の現実の運動能力と、想像の中の自身の運動能力の差を埋めようとしているのではないだろうか。きっと老いてから筋トレを始めたりする人が多いのも、若い肉体を取り戻そうとしているに違いない。

現在筆者もその仲間入りをし、運動をするべきか否か検討している。検討などしている場合ではないのは重々承知だが、運動が苦手なのだからしょうがない。さらに言うと運動だけではなく、自然治癒力まで落ちている。それが証拠に現在なんと、切れ痔である。

切れ痔、またの名を裂肛(れっこう)。肛門の出口付近が切れた状態のこと。驚くなかれ、裂肛とは付き合いが長く、幼馴染みといっても良い。子供の頃から便秘気味なので、まとめてするタイプなのだ。したがって年に何度か裂肛気味になるのは珍しくはない。しかし今までは2、3日経てば元通り治っていたはずなのだが、この頃は治りが遅いように感じる。現在、なんと、裂肛期間が一週間を越えているのだ。由々しき事態であり、遺憾の意を表する。あってはならないことなのだ。どうしたものか途方に暮れていると、頭の中に歌が流れてきた。

『痔にはボラギノール♫』

薬局へ走り皮膚の薬の棚を探すと、割とすぐ見つかった。やはり皆、痔に苦しんでいるのだ。他にプリザエースなるものもあったが、やはりあのCMの印象が強いのでボラギノールが良いだろうと手に取ろうとしたところ、ボラギノールはボラギノールだけではなかった。ボラギノールMとボラギノールSがあったのだ。どちらでも良いかと思ったが、間違えたものを肛門に塗りたくはないと、薬剤師さんに相談をしたところ、Mで効かないならSで、さらに治らないなら病院行ってくださいとのことであった。症状は軽いはずなのでMを購入した。塗るなら風呂上がりの清潔な肛門にしようと心に決めていた。

さて、いざ塗る段となったものの肛門が見えない。四つん這いになり鏡に尻を向けて首を振り返ったりしたが、一向に見える気配がない。一休さんのようにこめかみに唾をつけて考え抜いた結果、床に手鏡を置いてその上に跨るという妙案が浮かんだ。結果、見事に綿棒でボラギノールMを塗ることに成功したのだ。屏風の虎と戦った一休さんもこんな気持ちだったかもしれない。

現在まだ裂肛は治っていない。というのも虎との戦い、否、ボラギノールMを塗ったのはまだ一回だけなのだ。今日も風呂上がりにまた一戦交える。人にはそれぞれの戦いがある。それがどんな小さなものでも、その人にとっては大事な戦いである。様々な場所で行われる沢山の小さな戦いが、毎日を支えているのだ。立川談吉はWBC日本代表を応援しています。


この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com