見出し画像

家系ラーメン (47)

 今回の題目は家系ラーメンについてである。おや、珍しいではないか。いつも本題に入る前にああだこうだとどうでもいいようなことを書いてるのに、いきなり題目に取りかかるのか、ついに前置きが面倒になったのかと、そう思われるかもしれないが、今回だけなのでご了承願いたい。では何故今回は前置きがないのか。それはひとえに題目が家系ラーメンだからであり、家系ラーメンに小細工が不要であると考えたからなのだ。では早速家系ラーメンについて煮込んでいくとしよう。

家系ラーメンとは神奈川県横浜市の「吉村家」を源流とするラーメン、もしくはそれに類似する豚骨醤油のラーメンである。創始者の吉村実さんは元トラック運転手であったが、ある日″九州のとんこつと東京の醤油ラーメンを合わせたら美味いラーメンが出来るのではないか″と思い立ち開業した。研究を重ねたそのラーメン、具は海苔、ほうれん草、チャーシューとシンプルながらも、パンチの強い味でトラック運転手や工場労働者達の疲れた心と胃袋を鷲掴みにした。そして数々の弟子が吉村家で育ち巣立って行き、その味を現在も広め続けているのである。

はっきり言って筆者は家系ラーメンにあまり良い印象を持っていなかった。何だか店の前を通ると臭いし、どうせ油ギトギトでクドいのだろうと、勝手な偏見を持っていたのだ。さらに以前試しにと近場でそこそこ人気の家系ラーメンを食べてみたところ、隣に体臭の強めの方が座ったため、とんこつと体臭の濃厚ダブルスメルにやられてしまい、ラーメンを味わうどころではなかったという嫌な思い出もある。そんなものだから自分には合わないと決めてかかっていた。しかし、最近観たYouTube(王道家公式チャンネル)で考え方がガラリと変わった。家系ラーメンにも色々あるのだと。調べた結果本流は先ほど述べた「吉村家」ではあるが、そう単純なものではないそうで、現在では大きく三つに分類される。

・吉村家とその弟子の直系店
・破門された弟子のグループ
・流行りに乗ったフランチャイズのお店

こう見ると家系ラーメンだと名乗っていても直系ではないものの方が多いのかもしれない。因みに落語ファンにわかりやすく説明すると

・柳家一門
・立川流
・アマチュア(※落語家ではないという意味で良し悪しではない。風間杜夫さんとかも含まれる)

とこうなる。なるかな??柳家一門は別にとんこつっぽくないけれど、そうなることにしておく。

それにしても偶然観た家系のYouTubeが破門されたグループのものであったのは何らかの因果であろうか。奇しくも破門された理由が、自分の育てた弟子を守るためだったというのも立川流っぽい。うん、ぽいことにしておく。

破門されたグループ、王道家の清水社長はとても魅力的である。家系ラーメンに命をかけて、本物の家系ラーメンを広めることに心血を注いでいる。家系に欠かせない特製の麺(酒井製麺)が、破門されたことで使わせてもらえなくなったので、独自で麺造りをすることになった。何年もかけて試行錯誤し作り上げた自家製麺は我が子のような宝物で、普通の人ならきっと自分の弟子以外には使わせないと思うが、清水社長は違う。家系ラーメンを広めてくれるだろうと認めたお店は同志として扱う。チャーシューや秘伝の醤油のノウハウを惜しげもなく提供する。

『俺は何でも教えるよ、バンバン教える家系のためだから。それでうちの店がダメになったら俺の努力が足りないってことだから』

清水社長の言葉である。こんなことをYouTubeで言って実際に教えてる動画もある。観た結果もう一度ちゃんとした家系ラーメンを食べなくてはと思わされるのは当然である。

動画を観てほどなくして食べに行った店は池袋の『皇綱家(きづなや)』さんだ。ここは吉村家の直系の本牧家の弟子の六角家の弟子のたかさご家の弟子の武蔵家の弟子の武道家の弟子の輝道家の弟子のお店だ(間違ってるかもしれない)。因みに皇綱家さん自体は輝道家直系と名乗っている。この店が気になった理由は、池袋だから近いことと、王道家の清水社長の″同志″だからである。

ふぅ、、、文章がかなり長くなってしまった。さて、ここからは実際に行ったレポートにでもしよう。

画像1

輝綱家さんに行ったのは平日の14時くらいだった。店頭で消毒してもらい、食券を先に買ってから列に並んだ。前に二人いたが思ったより空いているなという印象。しかし、それも束の間、すぐに後ろに5人ほど並んだ。このご時世だから入り口も開けっ放しだが、とんこつの臭い匂いはしなかったのには驚いた。本物の家系スープはフレッシュな豚骨を使うと清水社長が言っていたのを思い出した。ほどなくして店に案内され

『いらっしゃいませ!』

力強い声が店に響く。ラーメン並、ライスの食券を渡す。壁を見渡すと店主が元力士だからか、角界の方からのお祝いの紙みたいなのが所狭しと貼ってあった。

『どうしましょう』

何がどうするのかと思ったが、細かい味の注文が出来るらしい。せっかくなので麺かためにした。

画像2

『どうぞ』

まず先にライスが届く。卓上にある″無限にんにく(王道家特製)″

画像7

これがご飯に合う。画像3

さらに、マヨネーズをかけると悪魔の美味さだ。無限にんにくだけでご飯が半分なくなる。画像4

『ラーメン並です!』

画像5

待ちに待った家系ラーメン。スープの色が力強い。具はシンプルに海苔、チャーシュー、ほうれん草。海苔は三枚入っている。

スープをれんげに掬い一口飲む。美味い。豚骨の旨味がしっかり詰まったスープだ。すかさずもう一口飲んだ。海苔をスープに浸してご飯に乗せると、ご飯にスープが沁みていく。これを口の中に入れて味わい、さらにスープで流し込む。麺は太く短めでよくスープに合う。スープに浸した二枚目の海苔で麺を包んで口の中に入れる。美味すぎる。チャーシューが勢いよく入っているので勢いよく頬張り、ご飯をかき込む。途中にんにくや胡椒で味変を楽しみ、最後の一口は残しておいた海苔でフィニッシュ。
卓上には他にも濃厚なスープに合う刻み生姜(王道家特製)や後味をサッパリさせるお酢が置いてある。どう食べるかは自由で、どう食べるかを考えている時間も美味しい大満足の一杯であった。

画像6

どうだろう。皆さんが少しでも家系に興味が湧いたなら嬉しい。今回思ったことは″食わず嫌いは良くない″ということだ。なんでもわかったふりして食わず嫌いをしていると、貴重な体験を見逃してしまう気がする。モノにもよるが何かを否定する場合まず知って、体験してそれからにした方が良いのではないだろうか。

始めて家系ラーメンを体験した後はその余韻が凄まじい。また食べたくて我慢出来ず2日後にお店に行ってしまった。そのことをかみさんに話したら

『大麻と一緒』

と言われたが、そうかもしれない。
家系ラーメンにはそれほどの中毒性と魅力(大麻はやらないが)があるのだ。あぁ、また食べたくなってきた、、、。


この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com