死人に口なし

百合の花の香りに含まれる毒に窒息して
美しい死体になりたいと思ったものの、

現実的ではなくって、

優しく弱い心が邪魔をして、

結局今まで生きながらえてきました。


人は死んでからも
好き勝手に言われて、

想いだって決めつけられて、

別人のような自分が実体を伴わずに生きていくことがあります。


それならば誰もが美しい物語を紡いでしまうような
そんな死体になれば

死んでからの鬱陶しい他人の気持ちをコントロールできるのではないでしょうか。


部屋はわたしの棺桶。

棺に思い出の品を入れて火葬するのならば
いつだって部屋にはとびきり気に入ったものばかり置いて、

いつ死んだっていいように
いつでも美しいものを身に纏って
永遠の眠りについたときの睫毛のことを考えて

地の肌を美しくして
花の香りを漂わせて

そうやって死体を美しくすることがかえって生きる理由となることがあるのです。

今のままでは死ねない

納得のいく死体になるまでは
死ぬことができないのです。



死んでからは美しい物語の始まりとなれますように。

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