見出し画像

13. ランダム再生しても面白い シュトックハウゼンのピアノ曲『Mantra』

さて、今回はまた今までとはちょっと毛色の違うアルバムをご紹介します。あのシュトックハウゼン作曲の「マントラ」を2009年にペストヴァ&メイゼンというピアノデュオの演奏で録音した『 SHOCKHAUSEN Mantra』です。

シュトックハウゼンと言えば、言わずと知れた現代音楽の巨人で、現代音楽と聞いただけで手が出ない人、拒否反応を示すも多いでしょう。しかしそこはちゃんとシュトックハウゼンは、古典を踏まえた上での現代音楽家であり、この曲もピアノ曲として高い完成度を持っており、一部電子音楽も使っていますが、クラシックの演奏会で演奏されても何の不思議もありません。

そもそもこの「マントラ」という曲、1970年の大阪万博で来日した時にインスピレーションを得て作曲されたそうで、確かに東洋的な響きがあります。1曲で63分というその長さもまさにクラシック的なのですが、特徴的なのは全部で13のユニット(「フォルメル」という言い方を本人はしているらしい)に分かれており、それぞれのユニットが部分であると同時に全体性を持っているという構造になっているということです。そしてこのアルバム(CD)も実際にそのユニット(フォルメル)ごとに分けられています。つまりもちろん最初から最後まで通して聴けることもできますし、シングル曲を聴くようにあるユニットだけを聞くこともできますし、ランダム再生して順番をバラバラにして聞くこともできる、という構造です。作曲時にはまだCDがなかったから、このような聞き方をすることはできなかったでしょうし、演奏会をするにしても順番の構成は前もって決められていたでしょう。現代だから聞ける聴き方だと言えます。もちろんまずは、通しで聞いていただきたいですが、その後はランダム再生で順序をバラバラにして聞くことをお勧めします。そしてそれでもそこにはやはり全体性があることを確認してみてください。

そしてこの事実、ランダム再生してもそこには全体性があるという事実から考えさせられるのはそもそも曲とは何なのか、ということです。我々が音楽について、ある特定の曲が好きというよりも、ある曲がそこに含まれているジャンルとでもいうようなものが好きな場合が多いという事実からも、我々は曲自体よりもその背後にある世界観を聞いているのかもしれません。あるいはその世界観に到達するためにそれらの曲を聴いているのかもしれません。それを意図していたのかどうかは定かではありませんが、「マントラ」とは仏教の言葉で「仏の教えなどを秘めているとする呪文的な語句」とされるものです。シュトックハウゼンマントラを作曲することで何らかの世界に近づこうとしていたのかもしません。そして我々はその曲を聴くことを通して、そこにある何かに近づくことが可能になるでしょう。

ということでお薦めです。是非お聴きください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?