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SF名作を読もう!(9) 『月は無慈悲な夜の女王』

今回お勧めするのはこちら、ロバート・A・ハインラインの大著『月は無慈悲な夜の女王』です。

ハインラインは日本では依然紹介した『夏への扉』が人気ですが、本国アメリカ及び海外ではハインラインの代表作と言って真っ先に名前が挙がるのがこの作品です。1966年の小説ですが、今読んでも全く古くありません。むしろ今だからこそネット社会とスーパーコンピューター(AI)の問題はより身近になったと言えます。この小説で使われるのはインターネットハイウェイではなく(当時はそのような概念はもちろんなかった)電話回線ですが、間違いなく今のネット社会を予言しているものです。ハインライン恐るべしです。

アーサー・C・クラークのSFが科学者のSFであり、エリートのSFであるとすれば、ハインラインのSFは技術者(エンジニア)のSFであり、その意味で労働者(ブルーカラー)のSFである、と言えるでしょう。『夏への扉』も然りです。主人公は酒とギャンブルと女好きな連中でその意味で庶民を代表している人物です。本作の主人公マヌエルもそんな人物なのですが、あることがきっかけである大きな運動、戦争ともいっていい(事実、戦争です)大きな流れにその中心人物として巻き込まれていきます。彼はいわゆる思想家でもありませんし、活動家でもありません。しかし、彼にはある種の責任感、倫理観、正義感というものがあります。『夏への扉』の主人公もそんな人物でした。それがハインラインの小説の魅力でしょう。エンターテイメントとして、読者の側に立った人物を常に描いています。

しかし、この小説、当然SFでもう一つの、というよりもう一人の主人公としてスーパーコンピューターが登場します。彼(敢えてここで「彼」といいます)はもはや人間です。人間とは何か、というのがSFのテーマの一つでもありますが、「人格」を持っていること、というのがその条件になるでしょう。「個性」という言い方をしてもいいし「自分で自分のことを決めることができる」という言い方をしてもいいでしょう。恐らくこのスーパーコンピューターにとってこの戦争は最初は遊び、というかゲームだったのでしょう。しかし、彼も(繰り返しますが敢えてコンピューターを「彼」と呼びます)、あるいは彼の方が、この戦いを通して人として成長していきます。そして最後は、、、、なのですが、そこは読んでのお楽しみとします。

長い小説ではありますが、エンターテイメントとSFの魅力ががっちり詰まった作品です。もはや「古典」ですが、まさに今を描いているとも言えます。是非お読みください!お薦めです!

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