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51. その名の通りのVSOP(熟成した、そして高品質のストック)としての「VSOPクインテット」のライブアルバム

ウェイン・ショーターがフュージョンバンドである「ウェザー・リポート」のメンバーとしてして活動中に、そして盟友のハービー・ハンコックがあの、今となってはヒップホップのはしりと言える「ロックイット」(1983)を発表する前の時代の1976-1979年、つまりは80年代に入る前に60年代にマイルス・デイヴィス・クインテットのメンバーを務めていたメンバーが結集したバンドがこの「VSOP」である。メンバーはサックスのウェインとピアノ・キーボードのハービーに加え、ロン・カーター(ベース)、トニー・ウィリアムス(ドラム)、フレディ・ハバード(トランペット・フリューゲルホルン)という鉄壁の布陣である。基本的にライブバンドとして活動していたこのバンドであり、マイルスが活動を休止していた間の「代理バンド」的に位置づけられることが多いが、しかし、その音楽性はマイルスが活動休止前に目指していたエレクトリック・ファンク路線ではない。むしろ、エレクトリック導入期前への回帰である。

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あの名盤(人によっては迷版)であるマイルスバンドの『アガルタ』『パンゲア』が録音されたのが1975年の大阪でのライブであったことからも明らかであるように(そしてその後、マイルスは活動停止に入った)、当時、時代はフュージョンであり、エレクトリックであり、ノイズの時代へと入っていた。もちろん、メンバーもそれは十分分かっており、前述のようにウェインは「ウェザー・リポート」に参加し、ハービーはエレクトリック路線も展開していくのだが、しかし、このメンバーが集まれば、やはり、あの時代、過度にエレクトリック化、フュージョン化する以前のジャズがジャズであるぎりぎりのところに戻ろう、というのがメンバー内での暗黙の了解ではなかったのだろうか。これがジャズだ!これが俺たちの原点だ!よって俺たちはジャズメンだ!という熱いものがこのバンドのライブアルバム(基本的にVSOPはライブバンドであった)からは感じられる。そしてそれは熱い思いを持っているが、演奏としては熱いとともにクールでもある。そしてそれがジャズなのであり、それこそがジャズなのである。熱い思いを熱く表現するのがロックでありそれを取り入れたフュージョンなのであれば、熱い思いを込めながらもそれでいてクールでもあるのが彼らのこだわるジャズなのである。

その意味でこのバンドが「VSOP」と名乗ったのは的を得ている。「VSOP」とはコニャックに対して用いられる用語であるが、コニャックは熱く濃い酒である。しかし、我々は基本的にそれをソーダというポップな飲み物で割ることはない(もちろん割ろうと思えば割れるし、このバンドのメンバーはそれをできる実力を十分に備えたメンバー達である)。これはコニャックだ、その意味で古い飲み方であり古い音楽かもしれない。でも俺たちは割っていない。割ろうと思えばいくらでも割れる技術を持っている俺たちだが、ここは割らない。なぜなら、俺たちはVSOP=成熟した者たちだから。そういった思いが感じ取れるのが、今回紹介する一連のライブアルバムである。

ということでお薦めです。是非ご視聴ください。

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