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38. これぞ我々が求めていたフリージャズ:ファラオ・サンダーズの『Black Unity』(1972)

前回、山下洋輔トリオの1973年録音のアルバムを紹介したが、いわゆるフリージャズの歴史をさかのぼるとその直接的な創始者はオーネット・コールマンだとしても、精神面での影響はジョン・コルトレーンに遡ることができるだろう。いわゆる「スピリチュアル・ジャズ」と言われるものである。

そして、そのコルトレーン亡き後、その遺志をついだ者の一人は、実際にコルトレーンのバンドでも活動していたファラオ・サンダースである。当初はいわゆるスピリチュアル路線だったファラオであるが、次第に自らのルーツでもあるファンクやアフロと言った黒人音楽も積極的に取り入れるようになる。そして9人編成というフリージャズとしてもさらに言えば「ジャズ」としてもあり得ないような構成で挑んだのが今回紹介する『Black Unity』(1972)である。

このアルバム、収録されているのは37分に及ぶ「Black Unity」一曲である。
それだけでも斬新なのだが、とにかくすごい。後にクラブミュージックの隆盛においてもレジェンドとして取り上げられ復活した感のあるファラオ・サンダースであるが(そして残念ながら今年惜しまれつつ旅立たれました)、その原点はここにあると言えよう。踊れるフリージャズ、リズムやメロディーを崩してなんぼななのがフリージャズであり、その意味で本来は踊りにくい(ビートが取りにくい)ものなのだが、この曲は踊れる。しかも単に踊れるだけではなく、ちゃんと足元がつっかかることろはつっかかる(そしてもちろんそれも、それこそが魅力)。スピリチュアルジャズが目指した方向性が瞑想であるのならば、ここでファラオが目指した方向はトランス状態に持っていくことだったのかもしれない。この二つ、スタイルこそはまるで違うが、しかし、その行きつこうという先、その先にある精神世界は同じなのである。

と、とにかくかっこいいにつきる1枚です。フリージャズというイメージだけで食わず嫌いしている人もいるかもしれませんが、是非一度、だまされたと思って聞いてみてください。フリーとは決して形式のことだけではない、精神の開放なのだということが分かるはずです。

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