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6.今の日本の音楽シーンの原点:伝説のバンド「エイプリール・フール」による1969年のアルバム『THE APRYL FOOL』

前回のこのマガジンで、柳田ヒロさんが中心となって作られた1970年の名盤、フード・ブレインの『晩餐』を取り上げましたが、その後、柳田ヒロさんと伝説のバンド「エイプリール・フール」でご一緒だった、日本のR&Bの第一人者、小坂忠さんの訃報がありました。心よりご冥福をお祈りいたします。

そしてこの「エイプリール・フール」というバンド、メンバーは前述の2名に加え、細野晴臣、松本隆、菊池英二(敬称略)という錚々たるメンバーですが、そのバンドが残した唯一のアルバムがこの『THE APRYL FOOL』です。もともとライブバンドでセッション色が強かったバンドですので、あまりオリジナルアルバムにはこだわらなかったのかもしれません。だからこそ、いわゆるブルースロックを基本としながらも、後のそれぞれの方向性が垣間見える独特の構成となっています。

1曲目の「Tomorrows Child」はまさにジミヘンです。このアルバムには英語詞の曲が4曲収録されていますが、そこはやはり小坂忠さんの影響でしょう。いわゆるR&Bです。そしてそのうちの1曲がボブ・デュランのカバーというのも興味深いです。なお、このあと細野さんと松本さんが結成するのが「はっぴいえんど」でそこでは日本語によるロックが目指されましたが、それも、この時代のロック=英語へのある意味反発というか物言いからでしょう。つまりはこの『THE APRYL FOOL』があったからこその「はっぴいえんど」であり、今の日本の音楽シーンがあるのです。ということで6曲目の「暗い日曜日」は松本隆作詞、細野晴臣作曲ですが、そこに「はっぴいえんど」の萌芽(というかある意味既に完成形)が見えます。実はこの曲は「エイプリール・フール」結成前のGS(グループ・サウンズ)時代にすでに作られていたそうですが、その意味でGSがあったからこその今の音楽シーンだとも言えるでしょう。話はちょっとズレますが、GSというムーブメントは改めて再評価されてしかるべきです。

そして柳田ヒロこと柳田博義さんは独自のジャズファンクともいえるインストメンタルを短いですが、2曲披露しています。これが翌年の『晩餐』へとつながっているのは言うまでもないでしょう。さらに、ここで特筆しておきたいのは松本隆作詞、菊池英二作曲による「組曲:母なる大地Ⅰ」と「組曲:母なる大地Ⅱ」はまさに、ミュージック・コンクレートであり、それが後のYMOやテクノや今のDJカルチャー、クラブカルチャーともつながるという点です。こんなに幅の広い、しかしそれでもなお統一性のあるアルバムが1969年時点で発表されていたことに改めて驚かされます。

残念なことに「エイプリール・フール」自体はこのアルバムの発表後すぐにいわゆる「音楽性の違い」から解散しますが、恐らくメンバーの認識としてはバンドの解散というよりも、ユニットとしては一時停止、という感じだったのではないでしょうか。事実、細野さんは「はっぴいえんど」終了後(というか、「はっぴいえんど」自体も細野さんにとってはその時に必要だった「ユニット」だったのかもしれませんが)「キャラメル・ママ」を経て「ティン・パン・アレイ」を結成し、「歌」から「演奏」へと一時回帰しますが、その「ティン・パン・アレイ」がバックバンドとして演奏しているのが、小坂忠さんの名盤『HORO』です。そしてそれ故に『HORO』は日本のR&Bの名盤だと言えるのです。

と、このように小坂忠さんもその後にゴスペルのほうに行ったり、柳田ヒロさんも、なんと後にフォークのほうに行ったりしていますが、その点で、この人たちにとって、もはやジャンルなどは意味がないのでしょう。すべてのジャンルを超えて、そこに共通してあるのは結局は「音楽」です。強いて言えばそこに基本としてあるのはやはり「ブルース」であり「グルーブ」であり、それはジャンルとしての「ブルース」というよりも精神としての「ブルース」であり「グルーブ」です。そしてその「音楽」、その後に様々な形で展開する音楽の、種子に例えれば「胚」として「ブルース」が見事にパッケージングされているのがこのアルバムですし、この時代ですし、このバンドであるし、このメンバーとその遺伝子たちです。是非、ご体感ください!


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