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58. 「ハマる」「沼る」「推す」ことの快感!フィロソフィーのダンスの新アルバム&ライブDVD『New Berry』

音楽というものは音だと思っていたが、そこにビジュアルが入ることで数倍になるジャンルもあるということを知ってしまった。そう、それがアイドルソングと呼ばれるジャンルである。そして、まさか自分が初回特定版という類のCD(というよりもむしろDVDが主役)を買うと思ってはいなかったが、買ってしまった。5人体制となったフィロソフィーのダンス(以下「フィロのス」)の新アルバム『New Berry』である。

この「フィロのス」、アイドルと言えばアイドルなのだが、もはやミュージシャン、アーティストというくくりで捉えてももいいであろう。その音楽性は高く、今回のアルバムもどこぞのおしゃれ系DJがかけても全く問題のない、というかむしろ絶賛されるレベルとなっている。しかし、「フィロのス」の魅力は音楽だけではなく、そのビジュアル面にもある。だからこそのアイドルなのだが、アイドル性の高いアーティストが(ちなみにここで言うアイドル性とは決して容姿端麗という意味ではない、輝きや人を引き付ける何かを持っているという意味である)、高度な音楽とダンスをする。これはK-POPにおいてはもはやある意味常識であるが、日本でそれをそのままやるのは難しい。なぜなら、アイドルも一人の人間であることを、けっしてアイドルであってもその語源である「偶像」ではないことを、我々はもはや十分に知っているからである。つまり、アイドルをやらされているアイドルではなく、アイドルとしてやりたいことをやっているアイドルが今の時代は応援される。「フィロのス」はまさにそのような存在である。「ももクロ」などにも通じることであるが、例え周りの大人たちからやらされているとしても、それを自分たちなりに消化(昇華)し、完成度の高いものを我々ファンに提供しているアイドルこそが今の時代のアイドルなのである。そして、ここまで来ると、我々ファンはアイドルをアイドルとして応援しているのか、アーティストとして応援しているのか分からなくなる。

特に今回DVDに収録されているライブは4人体制のバックバンドが演奏していることにもよるが、アイドルのコンサートというよりは、ボーカルが5人いるファンクロックバンドのライブ、という印象である。そう、彼女たちは声とダンスで演奏するのである。日向ハル氏の超絶的な歌のうまさがやはり目を引くが、他の4人も決して負けてはいない。皆、実力派である。新加入の二人がやはりオリジナルメンバーの3名と比べると、まだ、自信不足(決して実力不足ではない)の感は否めないが、その成長を見ていくのも、またファンとしての醍醐味であろう。我々は、もう完成した人やものではなく、今現在勢いのある成長途中の人や物に魅力を感じるのである。かつてプロレスラーの武藤敬司氏は「プロレスとは終わりのないマラソンのようなもの」といったが、アイドルについても同じことが言えるだろう。昔は、ある時期で「もう、アイドルは卒業」ということがあったが、今はそんな時代ではない。女性アイドルであっても、結婚しても出産しても、離婚しても、スキャンダルがあってもアイドルを続けられる時代であるし、そういうアイドルが応援される時代である。そういう意味では「アイドル」という言葉の意味合いが昔とは若干変わったと言えよう。アイドルとは人を引き付けるなんらかの魅力のある人々のことを指すことには変わりはないが、もはやそこに年齢が若い、という条件はないし、容姿端麗という条件もない。そこにあるのは「輝いている」「輝き続けている」という条件だけである。そして決して表舞台にでること、出続けることだけがその「輝き続ける」ということではない。なぜなら今や我々は過去の作品もいつでもどこでも見ることができるのだから。そういう意味ではアイドルとは人のことを指すのではなく、作品のことを指す、ということもできるだろう。

今回のアルバム『New Berry』やライブDVDは、例え10年後にそれを初めて聞くひと、観る人が出てきたとしても、その人を引き付けるものである。そしてその意味でそのアルバムこそが「アイドル」である。ライブ版にはライブ盤の生演奏の魅力があるが、オリジナルアルバムにはスタジオで作り上げられた音の厚みというまた別の魅力がある。そしてその人は(10年後に初めてこのアルバムを聴いた人は)その時で「フィロのス」という沼にはまり、沼を掘っていくことだろう。「会いに行けるアイドル」「握手会のできるアイドル」も確かに魅力的である。しかし相手がたとえ映像や音源の中にしかいないとしても(実際に会いに行ったり握手をすることはできないとはしても)、それはその人にとってのアイドルなのだから。その意味でアイドルとは永遠の存在である。

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