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37. まさに幻の名盤『山下洋輔トリオ』(1973)

これをでたらめと言う人はもはや今では誰もいないであろう。しかしだからと言って決して計算されているわけではない。それが即興である。しかもこれはトリオによる即興の集成である。

ということで今回紹介するのは1973年にスタジオ録音されてはいたけれども、オープンデッキ(懐かしい!)のテープ音源としてのみ流通していた音源がCD化された『山下洋輔トリオ』(1973年録音、CDは2012年発売)である。

山下洋輔トリオは1966年に結成されており、69年にはあの田原総一朗のディレクションの下、当時バリケード封鎖されていた早稲田大学の大隈講堂からピアノを持ち出してそのバリケード内で演奏するなど、既に一部好事家だけではなく社会的にも認知されていた山下洋輔トリオだが、入れ替わりがあったそのメンバーでも最強と言えるのはピアノの山下に加え、サックスに坂田明、そしてドラムスに森山威男がいた時期であろう。そしてこの音源はまさにそのメンバーでの録音である。

もちろんフリージャズとしてはライブが売りのわけで、観客のいない録音では、勢いが出ないのではないかという意見もあろう。それはそうかもしれない。しかし、その代わりに「音」はしっかりしている。それ故にオープンテープでの発売と言う形になったのかは定かではないが、とにかくそれぞれの楽器が立っている。山下のピアノはもちろんだが、坂田のサックスはとにかくかっこいい!そして森山威男。フリージャズが音楽として成立するかどうかはドラムがそのカギを握っていると言っていいであろう。音階楽器であるピアノはたたけばそれなりの音のつながりになるし、サックスも言ってみれば小学校で習うリコーダーの拡大版のようなものである。たまに変な音が出ても、フリージャズの場合むしろそれが味になる。しかし、ドラムスはそうはいかない。たたけば音は出るが、その音をどう組み立てるかには多大なセンスが必要である。でたらめにたたいているようででたらめではない。しかし計算しているわけでもない、次の展開が見えることはない、というフリージャズの魅力はドラムスが生み出していると言っても過言ではないであろう。

ということでこのアルバム、フリージャズが好きな人はもちろんそうではない人にもおすすめです。是非お聴きください!


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