9mmが吸血鬼に変身したアルバムを聞いて思ったこと
皆さんは、邦楽ロックバンド9mm Parabellum Bullet(以下9mm)のアルバムで、最も多く聞いたアルバムは何ですか。9mmのシングル曲のみを集めたベストアルバムか、9mmの代表曲が収録されたアルバムを聞いた人が多いと思います。
今回は、9mmが大きくヒットしたアルバムです。2008年10月15日に発売された2枚目のアルバム『VAMPIRE』(バンパイア)です。英語で「吸血鬼」を意味する題名です。2023年に発売15周年を迎えました。2008年当時はCD1枚で発売され、2019年のバンドのデビュー15周年記念にSHM-CDリマスター盤(特殊高品質CD)として、999枚限定で再販売されました。2023年7月26日にはなんと、アナログレコードとして再販売されました。
収録シングル曲は、9mmの代表曲である『Supernova』(スーパーノヴァ)と、『Wanderland』(ワンダーランド)の2曲です。白黒で、ビル群、ゴシック様式の橋や建物、月、森、ピアノなど、テーマに統一感がない物が置かれたジャケットが描かれています。画像では白黒に見えますが、実物の紙では銀色のような色が反射して、見えます。
このアルバムについて、以下の通り、9mmファンからの反応が高いです。
9mmをこのアルバムから知ったファンが多いです。9mmは2004年に結成、2007年にメジャーデビューして、多くのロックフェスに出演して、邦楽ロックファンの間で広まり、楽曲がすぐ売れてきました。2007年から2009年は彼らの知名度が大きく広まった時期でした。この時期から9mmのファンになった人々が多いです。ブリはこの頃、高校生でいろんなバンドを聞いていました。
デビュー1年目の9mmが作り出した、大ヒットアルバムです。ボーカリストの菅原卓郎、ギタリストの滝善充、ベーシストの中村和彦、ドラムのかみじょうちひろによる、雑多なジャンルをこめた邦楽ロック作風が知れ渡った作品です。以下メンバーは、卓郎、滝、和彦、ちひろと書きます。
この記事では、ブリが『VAMPIRE』を99周も聞いて思ったこと、このアルバムが9mmファンにとって重要な存在である理由、9mmが売れてきた背景をまとめました。楽曲の歌詞や分析はあくまでも、ブリの独自解釈なので、一例として受け取ってください。
★マスでカオスな邦楽ロック
2008年、アイドルグループが盛り上がり始めた邦楽界でした。一方、邦楽ロック界では、ギターロック中心の作風が占めている様子でした。ラップロック、パンク、マスロック、オルタナティブロックなど、さまざまな音楽ジャンルが増えて、新たなバンドたちが増えていました。
そんななか、邦楽ロック界ではあるジャンルが注目されていました。「残響レコード」なるインディーズ系レーベルに所属するバンドたちが奏でるロックが、世界観が暗く、変わったリズムがあって、独特なロック作風が注目されていました。雑多な音を鳴らすマスロック、従来のロックのリズムとは違うポストロックのバンドが集まっていました。
そのレーベルに所属するロックバンド、People In The Box、ハイスイノナサ、te'などが、「残響系」と呼ばれていました。9mmは当時、残響レコードに所属しながら、EMIミュージック(現ユニバーサルミュージック)からデビューしました。
ちなみにこの頃、9mmと同世代のバンド、凛として時雨(りんとしてしぐれ)、UNISON SQUARE GARDEN(ユニゾン)がメジャーデビューしました。後に有名になるロックバンド、Fear, and Loathing in Las Vegas(ベガス)が結成されました。
音楽CDはミリオンセラーが減り、音楽のデジタル化を進めようとする動きがありました。しかし、今のように音楽配信はまだ充実していませんでした。アップル社が発売した、「iPod」なる音楽プレイヤーのヒットで、CDではなく、音楽がデジタル化された、小さな音楽プレイヤーが増えていました。動画サイトは作られたばかりで、YouTubeはまだ邦楽界で広く使われていませんでした。DVDでミュージックビデオやライブ映像を発売していました。ちまたでは、ニコニコ動画なる動画サイトで、合成音声ソフトの「ボーカロイド」が注目され始めました。
後に、ブリたちが使うスマートフォンの先駆けになった、アップル社のスマートフォン「iPhone」が日本で初めて発売されました。じょじょに音楽のデジタル化と、インターネットを通した発信方法がゆっくり広がってきました。
さまざまな音楽が増えていくなかで、9mmは結成4年目、デビュー1年目の新人バンドでした。荒削りながらも激しいパフォーマンスと演奏は、彼らの個性として、ロックフェスを通して、邦楽ロックファンの間で知られていきました。デビュー当時のプロデューサーであった、いしわたり淳治は、楽曲のサウンド面、制作の助言を9mmにしました。いしわたりはかつて、SUPER CARなるバンドのギタリストで、バンドの解散後、作詞家と音楽プロデューサーとして活動しています。プロデューサーの下、9mmが作る楽曲は、聞きやすい曲調で、雑多なジャンルがつめこまれたオルタナティブロックの個性です。9mmは、「残響系」のバンドとして、ROCKIN'ON JAPANなるロック雑誌に登場することから「ロキノン系」としても、注目されていきました。
★飛躍の変身
このアルバムを初めて聞く人に伝えますが、今の9mmより荒い音と歌声ですが、見守りください。音の情報量が多い楽曲があって、非常に疲れるかもしれません。歌詞が終始暗く、落ちこむかもしれません。でも、希望があると解釈できる、良い歌詞があります。一部の楽曲の途中で演奏ミスの部分がありますが、メンバーはあえてミスを残した状態を選びました。
『VAMPIRE』なるアルバム名は、和彦が考えました。ジャケット、アルバムの歌詞には怪物はほとんど出てきませんが、吸血鬼は、普段は人間の姿をしていますが、夜になると牙を出し、人間の血を吸う怪物になります。十字架とニンニクと銀の弾丸が苦手です。「ドラキュラ」という名前で映画や小説で知られました。吸血鬼の変身を、メジャーシーンで新たな世界観を奏でる9mmに例えた意味がこめられています。
収録シングル曲『Supernova』はマスロックとシャウトが混じったなかで、壮大な自然で生きる、人間の小ささを歌う楽曲です。一方の『Wanderland』は、混沌とした歴史が動く地球を人間の体にたとえて描く、ワルツのリズムとマスロックが絡む楽曲です。
表題曲『Vampiregirl』(バンパイアガール)は、恋愛に苦しむ主人公を描いた楽曲です。美女を吸血鬼にたとえ、愛を求める主人公の叫びを見せています。牙、十字架、暗闇といった、吸血鬼の特徴を出しています。サビの「Vampiregirl」で叫んで、観客が盛り上がります。幻想的な世界で、比喩表現があふれた楽曲です。
このアルバムは、全体的に暗く、戦いと孤独を描いた歌詞が多いです。特定の国と状況を示す言葉が一切ありません。
ちひろの落ち着いたシンバルと重なる、和彦のベース。卓郎と滝のギターで始まって、戦場で追いやられた兵士から、人間の非情を描いた『Trigger』。叩きつけるようにドラムとギターとベースで、16ビートで響かせる『Hide & Seek』。戦いで壊された街で、逃げまどう人間の焦りを見せています。語るように冷静な歌い方で世界を描く卓郎。9mmは架空の世界で起きる「戦い」によって、人間関係がすれ違い、孤独になる描写を書いています。ここでいう「戦い」とは、国家同士の戦争に見えますが、人間に起きる困難や逆境をたとえているように思えます。後の9mmの楽曲にも、そのような描写が見られます。
滝の早弾きギターのイントロが印象に残る『Keyword』。ありのままの心を見せる言葉を「鍵」にたとえ、素直になれない人間関係のもどかしさを描いています。これは個人的に好きな楽曲です。
9mmにとって初めてのインスト曲、『The Revenge of Surf Queen』(リベンジ・オブ・サーフ・クイーン)は、テケテケと鳴るギターリフが楽しいものです。サーフと夏を思わせる曲名ですが、このアルバムは秋に出ました。バンドの演奏の一体感を楽しめるインストです。
このアルバムで最も長い収録時間である楽曲『Faust』(ファウスト)は、9mm史上最も長いアルバム楽曲です。ドイツの戯曲を元にしたテーマで、人間の本能と生きる意味を問う主人公を描いた、ロックバラードです。5分21秒もある楽曲で、現在もこれより長い楽曲は作られていません。9mmはだらだら長い時間の楽曲を作りたがらない姿勢です。「4分超えたら解散だ」とメンバーは冗談を言っていました。
和彦のベースから始まるジャズロック『悪いクスリ』は、失恋の思い出を苦いコーヒーに合わせた歌詞で、卓郎の気だるい歌い方が染みる楽曲です。
ネコとネズミの追いかけっこをドラムとギターの掛け合いで奏でる『We are Innocent』。音がアナログのように、意図的にこもった響きにしています。都会の人ごみにくたびれて、恋人がすれ違うストーリーを電車内で描いた『次の駅まで』。ギターのざらざらした響きで、次の駅で恋人と離れる情景を奏でています。不特定多数の街で、ふれあいや思いやりのない冷たさを感じる都会の様子が見えます。
最後に収録された『Living Dying Message』(リビング・ダイイング・メッセージ)は、爽やかさと暗さと疾走感がある楽曲で、9mmのライブで人気曲の一つです。大切な人との死別で、孤独を抱えた主人公が、相手の死が残した意味を考えた歌詞になっています。残された人間にできることは、ただ悲しみを乗り越えて、悔いなく生きることだけです。多くの人々の死を聞くたび、ブリに残された時間を、無駄にはできないと思いました。
★次のライブで
このアルバムが発売された3日後、2008年10月18日に、9mmはバンド史上初の野外ライブを日比谷野外大音楽堂で行いました。野外ライブでは、アルバムの楽曲と、人気のシングル曲を披露しました。さらに、同年11月6日にはアルバムを引っさげた全国ツアーを開催しました。2009年2月1日まで34公演で演奏して、9mm史上最も公演数が多いツアーとなりました。
実はこのアルバムは、9mmにとって、いしわたりプロデューサーと共作した最後の作品です。次回から9mmのセルフプロデュースで、楽曲が発表されます。
メンバーが想像しなかった早さで、9mmはじょじょにライブ動員数を増やし、自身の楽曲を作り出す技術を積み上げていきます。彼らが放った弾丸は、多くの邦楽ロックファンに広がってきました。
★まとめると聞きやすい邦楽ロックの名盤
以上、9mmのアルバム『VAMPIRE』についての背景、アルバムを聞いて思ったことをまとめました。簡単にすすめると、「ごちゃごちゃしたロックな感じだけど、聞きやすい楽曲にした若き9mmのアルバム」だと受け止めてください。初めて9mmを聞く人にすすめたい作品です。
2000年代後半の邦楽ロックは、アイドルグループの盛り上がりが始まったなかで、若いバンドたちが新たな邦楽ロックを作り上げていきました。9mmもその1組で、新しいロックの作風をアピールしました。このアルバムの後、9mmはさらなる名曲を作ります。
このアルバムから感じたのは、限りある人生のなかで感じる、「死」や「戦い」の世界にいる、人間の孤独な心境をうつした切ない雰囲気です。人間が見せたくない恐怖心を9mmが表現しているようで、音楽で「孤独ではない」と気づきます。9mm自身も限りある人生をバンド活動で生きています。孤独じゃない意味に分かる日が来るか、分かりません。人間は死ぬまで答えを求める生き物です。
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