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化粧品と肌質と遺伝

化粧水と保湿クリームが残り少なくなってきたことに気づき、そしてついでに日焼け止めも買うことにしていつもの化粧品カウンターへ赴いた。
オンラインショップで買うことも最近は多くなったが、時々こうして、あえて実店舗に出向き、BAさんから買うことにしている。

普段は家と職場の往復で、会話をする相手は仕事関係もしくは家族のみの日々。それが時折無性に寂しく、自分を取り巻く人間関係の幅の狭さと貧相さを突きつけられるようで、悶え死にそうになる。
職場とも家庭とも一線を画した、その他のカテゴリーに属する人とのその場限りの空間に身を置きたくなるとき、理由をつけては化粧品を買いに行き、肩が凝ったといってはマッサージに行き、店主がひとりで切り盛りしている美容院に行く。
そうして、自分が生きていることを確認し、とりあえずまだ生きていてもいいかもしれないとぼんやり思うのだ。

化粧品カウンターには、ちょうど顔馴染みのBAさんがいた。私は彼女の名前をいまだに覚えていないが、彼女は顧客である私の名前を覚えており、ああ!お久しぶりですね、お肌の調子はいかがですかと想定内の会話が始まる。
新製品の説明を聞きつつ肌質のチェックをされつつ、話の流れで子どもの話題になり、我が家の長女のことに話が及ぶ。
最近の女の子は以前よりお化粧デビューが早くなりましたね、クレンジングもしっかりお母さんが教えてあげてくださいね、肌質は遺伝するので、きっとお嬢さんもお母さんと同じでデリケートな肌質だと思いますよとBAさんはにこやかに微笑んだ。
そうなんですね、それは気をつけてあげなくちゃねと私も微笑み返した。

遺伝というワードに、久方ぶりに胸の奥底が少しだけ疼く。いやほんとに久しぶりだなと内心おもしろくさえあった。
娘たちの顔が頭をよぎるがそれを一瞬で消し去ることにも、もうとっくに慣れた。
こうして不意に、血縁によらない家族として生きていることを他者によって実感させられる。それは、血縁関係のない子を家族として迎え入れると決めたあの日から分かっていたことだ。それも含めて私たちは私たちなりの家族を作ろうと決めたのだから。

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