「生物と無生物のあいだ」科学はエレガントな学問だった
あの時こうしていればもしかして…なんて、何の意味もないことはわかっているのに、食わず嫌いの理系アレルギーで通した若い頃に、こういう本に出会っていれば、進路の選択が変わったかもしれないと思った一冊
生命とは何か?
日ごろ曖昧にしたままやり過ごし、わかっているようで、真正面から問われると言葉に詰まる質問というのはあって、これもその一つではないかと思います。
地球上に存在するすべての生物は細胞からできていて、遺伝物質としてDNAを持っている。DNAは二重らせん構造で、細胞が分裂する時にはDNAも複製される。
教科書に書けばたった数行で済んでしまう生物の仕組みも、解き明かされるまでには、長年にわたる多くの人々の研究の積み重ねがあり、そこには実に人間臭い、悲喜こもごものドラマがあったことが『生物と無生物のあいだ』には書かれています。
限りある人間の生の中で繰り広げられる、孤独や嫉妬や焦燥の中から生まれた発見が次の世代に引き継がれ、命をつないで洗練されていく様は、緊張感と躍動感に満ちています。
無味乾燥で退屈だと思っていた生物や物理の授業よごめんなさい…。
生命とは動的平衡にある流れである。
一見すると変わりない人間の体の中で、絶えず代謝によって細胞が入れ替わっていることは知られています。体は3か月前に食べたものでできているなんて言いますよね。
物理学でエントロピーの法則(ものごとが秩序から無秩序に進んでいく)というのがあって、生命現象はこれに対抗するために、自ら分解して作り変えることによって、秩序を保って生命を維持しているというのです。分解して作り変える動きが上手くいかなくなっていくことが老化であり、その先に死があるのでしょう。
著者の福岡伸一さんは、生命は機械ではなく「動的な平衡がもつ、やわらかな適応力となめらかな復元力の大きさにこそ感嘆すべきなのだ。」と述べています。
窮屈で融通の利かない面白味のない学問。そんな先入観にとらわれて身が入らなかった生物の時間。実は、とても柔軟で変幻自在に姿を変え、つかみどころがないけれど芯の通った世界だったのかもしれない。
文系まっしぐらに進んできた今、その魅力を知ることができてよかったと思います。
破壊と再生を繰り返して生命を維持するこの体を思うと、その健気さに自分を大切に労わろうと思うようになるのではないでしょうか。
福岡さんは『生命と食』(岩波ブックレット)で、食を通じて環境や生命を考えることを示唆されています。食べ方が生き方につながることを考えさせられる、こちらもおすすめの一冊です。
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