「竜とそばかすの姫」を見た

すごい昔に、テレビで放送されていた奴を、母親が見始めたため。
僕は2時間も集中力が続かないのと、長い話を見聞きすることに精神的な体力を物凄く使うので、こういう機会が無いとドラマや映画を見ない。そのため、こういうサプライズ的な視聴が多くなる。

まずはいい所から言っていこう。
一番はやはり「圧倒的なグラフィックの綺麗さ」。
仮想世界は今だとVRチャットという形で普及してきているが、今作の世界観はそれを更に発展させた「生身の人間の情報をスキャンしてアバターを作っている」という点から、様々なキャラクターが作られている。
そいつらが四方八方に動いている様は、電脳世界の無機質さと合わさって非常に魅力的に見えた。
もう一つは「声優さんたちの演技」。
僕は別に声や演技の良し悪しがわかる人間じゃない。ただ、全員の声の感じがキャラクターに合っていて、それが聞いていて違和感が無い(キャラクター的な問題で、カヌー部の兄ちゃんだけは浮いていたが)。特にコーラス部の最年長を演じる森山良子さんは、切羽詰まっていてもどこか落ち着いて対応してくれている老人として良かったと思う。

さて、ここからは長くなるが、個人的に気になった点。
と言っても、僕が気になったのは一個だけ。
「グラフィックは綺麗だし声優さんの演技もいいけど、肝心の問題は投げっぱなしだしこの後の地獄を考えると主人公たちはオナニーしてただけだよなぁ」ってこと。
以下、そう思った原因。

・父親は何の刑罰も受けておらず、また「幸せな家族」という仮面も剥がれ虐待動画が全世界に出回ったため、今後の職や居住の保証はない。彼の扶養と母親の生命保険(死亡保険?)で衣食住が保証されていて、パソコンを通じて世界と繋がれていた兄弟たちは、父親の破滅によって「唯一の居場所だった」インターネットそのものから隔離される可能性がある。
息子たちも個人情報が全世界に出回ったため、謂れなき誹謗中傷は避けられない。ゴシップ記者につき纏われる人生になるだろうし、プライベートは無くなる。中身がばれたことで、「たかがイキッてるガキで、何をしたって生活が脅かされるような復讐はされない。せいぜいアバターを壊されるだけ」となればまともに相手をしてくれる相手も減る。先ほど仮想世界との隔絶に触れたが、居続けても居場所がなくなる可能性は高い。
・主人公は上手いこと歌で感動させてラストはその場で収まったが、今後は文字通り「世界中の」アジア人差別主義者から非道の限りを尽くされるだろう。死ぬまでずっと。それに耐えられるような精神構造で、周りのサポートがあればいいが、それも村社会で過疎化が進んでいるあの場所じゃ難しそう。

こんな感じ。
結果だけ見れば何も解決しておらず、当事者たちの心持が変わっただけ。だから「問題児に首突っ込んで、一時のテンションでインターネット上で個人情報を晒し、肝心の問題は何一つ解決しなかったけど、『俺たちいいことやったよな!』ってやり切った感出してる」風に見えてしまう訳だ。

以上のことから、「最高峰のグラフィックと安定した声優さんたちの演技があるのに、肝心のストーリーが微妙」という評価になる。
また、「暴力描写を極力省きつつ暴力を意識させる描き方」がめっちゃくちゃ上手いので、絵だけにつられて子供と見に行ったりしようもんなら傷を負う可能性あり。少なくとも万人にオススメできる映画では無いなぁ。








さて、つらつらと語ってきたが、正直自分の感想なんてものはどうでもいい。心底どうでもいい。さっきまで語ってきたのはこれから言いたいことをいうために監督や関わった方々に対する僕なりの誠意で、僕が言いたいのはもっとずっと別の所で、本筋にも何一つ関わらないカスレベルのこと。

クライマックスで主人公がアバターを消し、歌姫から田舎の女子高生に戻って歌唱するシーンがある。
ここで色んなアバターが感動して泣いているのだが、この中に「クチビルにドラクエのリップスみたいな目ん玉をくっつけただけ」という、奇異にもほどがあるアバターの奴がいるのだ。
感動的なシーンであまりにも衝撃的だったため、僕はこいつに「歯茎」と名付けて色々と想像してしまった。

今のVRチャットは、アバター(説明が遅れて申し訳ないが、アバターとは仮想世界で自分を表すグラフィックのことを指す)が自由に作れるうえに変更可能なため、そこまで一つの姿に執着している奴はいない。
Vtuberですら「新衣装」と称して定期的にアバターを変更している。

だがこの映画、「自分の生態システムからあなたのグラフィックを自動生成する」と言っている。
つまり、システム上アバターを変更することができない。
あいつは生まれた時から歯茎で、50億人が登録してコミュニケーションを取る世界で歯茎として生きることを強いられたのだ。

最初に自分のアバターを見た時、歯茎はどう思ったのだろうか。
人生が上手くいかなくて、「仮想世界くらいカッコつけたいなぁ」と思って思って思って、思い詰めて作られたアバターが歯茎という絶望だったのか。

スマホを初めて買い与えられて、以前から友人に誘われていたUに参加するため、放課後に皆で集まってドキドキしながら作られたアバターが歯茎という、凍てつきか爆笑かでクラスを包む博打だったのか。

「人と同じは嫌や!」と願って、妖精だの騎士だのと言ったカッコいいアバターなんぞクソくらえじゃと意気込んで作られたアバターが歯茎という「全俺の勝利」だったのか。

歯茎にはそんな考察の余地がある。
そして、やはり親子なのだろう。歯茎があまりに衝撃的過ぎて、一緒に見ていた母親に話したら大笑いしていた。
いまいちストーリーに共感できていない親子の感じを、歯茎がすべて解消してくれた。

残念ながら、歯茎の画像は探してもネット上にはなく、写真で撮ってアップしようと思ったらトイレに行ってる間に録画を消されていたためどうしようもなかった。
かなり昔の映画ではあるが、もし歯茎が気になる人がいたら、是非とも何らかの媒体で見てほしい。

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