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【不動産で遊ぶ大人たち vol.2】野島商店~ 下町スタイルで地域に居場所をつくる

今年10月に東向島にオープンした「野島商店」。ランチとディナーでビリヤニを提供していますが、お店のカテゴリーは「商店」で、グーグルマップの登録上はなんとスーパーマーケット!開店日時も不定期で、インスタでお知らせしてくれるという、なんだか不思議な営業スタイルです。いったいどんなお店なのか、店主の野島二郎さんが出迎えてくれました!

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お店を構えたきっかけは?

もともと僕は、飲食店のメニューを提案する仕事をやっていたんですね、この5年ぐらい。2020年の春先にコロナ禍が始まった時はまだ仕事はあったのですが、夏ぐらいには仕事が減ってきて...。そんな時に自分の好きなことができる、少なくともキッチンが付いている場所がほしいなと思うようになりました。もともと店をやりたい思いもあり、今動かないとまずい、という危機感もあって決めました。

ただ飲食店はどうしても大変なイメージがあったので、他のこともやりつつ、店のこともやりたいなと。店の2階に住んでいるので、「今日はやろう」という日に店を開ける。ある意味下町スタイルですよね。

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曳舟駅から徒歩5分。緑のタイルが目印です。

なぜビリヤニなんですか?

僕はあまりひとつの物事を深く掘り下げないタイプ。自分はあくまで素人で、必要な時にその分野に詳しい友人に相談する。友人がいわゆる外付けハードディスクみたいなスタンスなんです。

以前カフェのメニューをプロデュースしたときに、スパイス屋と陶芸家の友人を絡ませたいと思っていました。ビリヤニが流行り始めていたので調べたら、インド人の裸足のおじさんが壺でビリヤニを炊いている動画を見て「これだ!」と、ピンと来て。それで陶芸家の友人に「この壺を作ってくれ!」と頼んだんです。

それで、この壺を自分でも売りたいと思っていたんですね。お店を始めるにあたって、友人の展示もタイミング良く重なっていたので、ビリヤニから始めようかなと。つまり、ビリヤニ壺を売るために、ビリヤニを出しているんです。

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ビリヤニ壺は陶芸家の西山光太さんによるもの。野島さんの中学時代の友人で、今は、空き家で管理が大変になっていたお祖父さんの家を工房兼自宅として使ってもらっているのだそう。

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ビリヤニとは、インドやその周辺国で食べられている炊き込みご飯。炊きたてのサバと三陸産ムール貝のビリヤニに、半熟卵のピクルスをトッピング。お米、サバ、そして付け合わせを少しずつ混ぜて食べる。絶品です!

物件について教えてください

物件はアットホームで見つけました。最初は別の物件を見ていたのですが、先に申込みが入ってしまって。その後担当の方からここを紹介されました。

ここはもともと理容室だったんです。壁の大きな鏡はその当時のもの。僕が引き継いだ時は椅子が2脚だけ残っていたんですが、ご近所の方に聞くと昔はもう少しあったみたいですね。けっこう賑わってる理容室だったと聞きました。

この建物は1960年代ぐらいものですかね。近所の人が貸してくれた『赤線跡を歩く』という本に載っている「カフェー建築」と似ているんですよね。当時の遊郭の流行りのスタイルだったみたいで、タイルや、斜めに引き込まれている入り口や、1階の庇の出ている感じなど。この店がそうだったかは置いておいても、似ていて面白いなと思ってます。

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お店の内観。左手の壁にある大きな鏡は、理容店時代の名残だ。

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外観。タイルや模様の入ったガラスがレトロで可愛らしい。

お店は大工さんと二人三脚で作ったとか

自分の手でお店を作っていく気持ちはなかったんですが...DIYは勢いでしたね。

改修は2020年の秋頃、バールで2階の壁を壊すところから始めました。大工さんは、友人に紹介してもらった下町の大工一家。親方から「壊したいところは先に壊しておけ」と言われたので、まず自分で壊していたんです。時々親方が見に来て「まだだめだ」と言って帰っていく。

あるとき親方が息子さんを連れてきて「こいつが後やるから」とバトンタッチ。僕は店の改修も、大工さんとのやりとりも初めてで、分からないことだらけでした。1階の店舗設計はデザイナーに入ってもらったのですが、大工の息子さんもデザインされたものを作ったことない方だったので、かなりぶつかりましたね。1回手を入れた部分も、壁が出っ張っていたので「ここ直してよ」「いや、もうやったのに」と。対立も多かったので、あるとき提案したんです。「僕たちの目的はお店を完成させること。なので『できない』ではなく『これならできる』という代案を出しましょう。そういうルールです!」って。そうやって、少しずつ関係を作りながら進めていきました。

1階の天井も抜いたのですが、これが本当に大変でした。ネズミのフンや2階の工事のゴミも落としてたので....でも覚悟を決めて、いろいろ着込み、頭も覆ってマスクもして、一気に落としましたね。2人で7時間。汗はかくし、顔も鼻の穴も真っ黒で、終わったときはゲリラ部隊のような顔になっていました。あの日が一番辛かったですね...。

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写真は解体中の1階。DIY期間は1年にも渡ったそう。大工さんと二人三脚の店づくりは壮絶ですね..。

下町スタイルは「現代版の新しい村」

ここに来る前は4年ぐらい蔵前に住んでいたので、台東区で物件探しをしていた時期もあるんです。でも、Green thanks supply(墨田区京島の観葉植物店)の店主である小川さんと知り合って、そこのイベントで料理を出しているうちに、知り合いが30人ぐらいできたんですよね。これなら墨田区でお店をやる方が、おもしろいかなと思ったんです。

また、墨田区ならではの小さな経済圏がすごくいいなとも思って。外の人が来て地域の中にお金が落ちたり、周りの店で飲み食いすると地域内でお金が循環したり、リアルの小さなコミュニティ。都会なので常に外とは繋がっているけど、村みたいでもある。まさにこのコミュニティが「現代版の新しい村」という印象です。

僕自身は人とつるむのがあまり好きじゃないんですが、こういう場所なら、自分のペースで好きにしてていいかなって思えます。輪の中に入りこむというより、なんとなくここにいるというスタンス。けれど距離は近くて密な繋がりがあるのが居場所としていいなと。

あとは、遠いエリアの人がわざわざ来るのではなく、近所の人に来てもらえるお店にしたいですね。オープン日が不定期なのも、「来たけどやっていなかった」というのを許してくれる人に来て欲しいから。逆にいえば、遠いエリアの人は、あなたの家の近くのそういうお店に行ってあげてほしいですね。

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ビリヤニを待つ間から食べ終わった後も、野島さんと会話が弾みます。

今後の展望は?

ここは「商店」で、何を売ってもいいので、ずっとビリヤニ屋ではないかもしれません。実は隣が「岡本商店」といって、不動産屋さんなんですよ。引っ越しの時に挨拶にいったら、応接間にたくさんの所有物件のイラストがかけられていて。すごい規模の商店に来てしまった、と思いました。ただ、将来的にそこまでいったら商店としては最高だなと思ってます(笑)
日本マクドナルド創業者の藤田田さんも、最初は「藤田商店」ですしね。少しずつ扱っているものを変えていけたら面白いと思っています。

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一番最初に作ってもらった壺もお店のカウンターに飾られています。

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「店を開いた」というより、「地域の中に自分の居場所をつくった」という野島さんのスタンス。ビリヤニをフックに、地域の人がふらりと訪れつながれる場所ができています。こんな風に、自分の好きなことができる拠点を、住居と一緒に持つのも不動産で遊ぶおもしろい選択肢ですね!今後の野島商店さんの変化からも目が離せません!

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野島商店
住所:墨田区東向島2丁目34−4
営業日:不定期(インスタグラムでお知らせ)
instagram:@nojimastore
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取材・執筆・写真:村上静香
バナーデザイン:おおのあやか・田川貢

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