チームで勝つ喜びをもう一度。早稲田大学女子ラクロス部トレーナーとして100%やりきった先に見えた景色とは
高校ソフトテニス部最後の試合は全然スッキリしない引退試合だった。チームで勝つ喜びが忘れられない、何かしらの形でスポーツに関わりたい。そんな想いを持って、高校を卒業した。
橋本実侑さんは、昨年度まで早稲田大学女子ラクロス部のトレーナーとして大学スポーツの第一線に身を置いていました。高校生にはなじみの薄いラクロスというスポーツ、そしてトレーナーという役割。現在も社会人ラクロスチーム「Stealers」の広報として活躍する橋本さんのお話の中には、高校までの経験を卒業後のスポーツ人生に生かしていくためのヒントが隠れていました。
元早稲田大学女子ラクロス部トレーナー 橋本実侑さん
今回はインターン生ではなくPlayer!スタッフが、今年5月に行ったインタビューをもとにnote記事を書き上げています。
思い切り打ち込んだソフトテニス。けれど高校最後の試合、スッキリ引退することができなかった
「小さい時からスポーツが大好き!小学生の時は水泳とバドミントンをしていて、親の影響で巨人ファンでした。でも夏の夜の神宮球場の雰囲気と、みんなで一緒になって歌う「東京音頭」のとりこになってしまい、今はヤクルトファンに転身しました(笑)好きな選手は川端慎吾選手です!」
そう明るく話す橋本さんは、中学ではソフトテニス部に入部、高校でも3年間ソフトテニスに打ち込んだ。テニスは個人スポーツというイメージが強いが、基本的にダブルスの試合が多く団体戦形式もあり、常に誰かと一緒に勝利を目指すという意味ではチーム戦だ。
"ガチ"な雰囲気の部活ではレギュラー争いもし烈。だからこそ、チームで勝利した時の喜びは格別だ。しかし、橋本さんは高校の引退試合を振り返って「スッキリしなかった」と話す。
「引退試合では大泣きしましたね。団体戦でレギュラーとして試合に出ることはできなかったんですけど、チームが負けたことが本当に悔しくて...。全然スッキリした引退ではありませんでした。」
早稲田大学女子ラクロス部なら、自分の理想像に近づけると感じた
「テニスをプレーヤーとして続けることは自分の実力で言えば現実的ではありませんでした。ただ試合に勝利する喜びはやっぱり忘れられなくて、何かしらの形でスポーツに関わりたいと思っていた時にラクロスと出会いました。」
早稲田大学女子ラクロス部に高校の先輩が所属していた縁で、入学前の春休みに行った部活見学で、ラクロスという競技の魅力に、そしてそれ以上にラクロス部のメンバーのキラキラした姿に心奪われた。
「ラクロスを最初に見た感想は、フィールドで何が起きてるのか正直全然わかんなかったですね(笑)めっちゃボールがビュンビュン飛んでるし、よくわからないファールがあるし...でもそれを面白いと思いました。そして、『高校生の自分から見て恥ずかしくない大学生になる』ことが私の大学生活の目標だったので、ラクロス部でならその理想像に近づけると直感的に思いました。」
男女でルールが違ったり特徴的なラクロスは、日本ではほとんどの選手は大学から始めることが多い。橋本さんが在学した早稲田大学の体育会部活動の中でも挑戦するハードルが低く、これまで取り組んできた競技のスキルを生かせることもラクロスの大きな魅力だと言う。
チームで勝つ喜びを知っていたからこそ、選手ではなくトレーナーの道へ
「ラクロス部に入部する人には私同様に、高校の部活をすっきり終えられることができなかった人も多いです。『高校で競技を全うできず悔しいから大学でも勝負の世界に身を置き続けたい』『ラクロスだったら今まで自分が持っていたのと違う可能性を引き出してくれる』、そう話すメンバーもたくさんいました。」
しかし橋本さんは実際にプレーする選手ではなく、トレーナーとして入部を決断した。最初こそ選手の道も悩んだものの、トレーナーという仕事に強い魅力を感じたのだ。
「もともと私はスポーツと関係なく『本質的な課題解決』という行為が好きでした。トレーナーは選手の悩みやトラブルを問診しながら自分の専門性を磨いて、選手と一緒に課題に向き合って解決する仕事。
高校の時から自分が試合に出なくてもチームが勝った時は大きな喜びを感じていたし、サポートする・されることの重要性を知っていました。だから選手の道に進まないことに後悔はありませんでした。」
トレーナーの仕事は、大まかには選手のけがの予防と治療。応急処置やテーピング、けが予防のためにトレーニングメニューを作ることもあった。
「はっきり言ってしまうと、トレーナーはいてもいなくてもチームは成り立つと思います。ただ、選手たちのパフォーマンスの質を上げるという意味では欠かせない存在です。選手のコンディショニングには必ず客観的な視線が必要ですし、長いシーズンでは万全な状態で試合に臨めることのほうが少ないので。」
「チームメンバーのことが好きだから」。4年間やりとげたトレーナー生活
もちろん楽しいことばかりではなく、辛いこともあった。知識不足で選手に100%のサポートをしてあげられなかった時、提示したトレーニングメニューが適切ではなかった時、痛みの原因がわからなかった時。それ以外にも単純にチームが勝てない時期など、「辛い時間のほうがはるかに長かったのは事実」と話す。
「やめようと思ったことは何度もあります(笑)。一番悩んだのは留学の直前ですね。大学2年の秋からイタリアの大学に1年間留学したのですが、やはり長期間チームを離れることには葛藤がありました。」
チームのためには行くべきではないと理解していたが、留学は入学前から決めていたこと。最終的にはチームからの理解も得ることができた。留学中に気づいたこともあると言う。
「実はイタリアに行ってからも、可能な限りオンラインでトレーナーの仕事はしてたんです。オンラインのコミュニケーションでもチームに貢献できる部分がある、これもトレーナーの魅力かもしれません。」
辛いことも多くチームを長期間離れる難しい時期もあった。それでも4年間続けてこれた理由を話してくれた。
「『ありがとう』をたくさん言ってもらえたから、ですかね。純粋にチームメンバーのことが好きだから、その人たちのために頑張ろうって思えるんです。それと、自分がケアしてきた選手がフィールドに戻っていく瞬間です。その選手のつらさと努力を近くで見てきたから『ようやくか...!』と感動すると同時に、自分の仕事が報われたことも実感します。」
「100%やりきった」と言い切れる。仲間とともに過ごした時間は一生の財産。
橋本さんには忘れられない試合がある。4年生の時に臨んだ早慶戦、その一択だ。通算成績は26戦5勝と大きく負け越し、前年は2-9で大敗していた相手に3年ぶりに勝つことができたのだ。
「いつでもあの時の興奮は思い出せます。大げさではなく、早慶対抗戦はリーグ1シーズンと同じくらいの価値を持つ1試合なんです。トレーナーとして、選手の食事管理なども含めてコンディションには細心の注意を払ってコントロールしていました。体に異常を抱えたまま強行出場した選手もいましたけど、そういう選手たちと一緒に早慶戦で勝てたことは本当に大きな満足感がありました。」
大学部活の4年間の満足感をこう話してくれた。
「100%です。やりきりました。高校とはまた違い、大学では部活動の重みが大きくなります。高校の時に思っていた以上に大変でした。もちろん部活に入らない道を選ぶこともできましたし、むしろそっちのほうが楽しかったかもしれないです。ですが、日本一という高い目標を目指して、共につらい時間を乗り越えた仲間たちとの時間は一生の財産です。後悔は全くありません。」
部活の引退後に卒業論文を書く手を止めて試合を観に行くこともあったほど、「本当にラクロスが好きになっちゃったんだな」と実感した。そんな橋本さんに、ラクロスというスポーツの魅力を聞いた。
「今までどんなスポーツをやっていても、ラクロスでなら活躍できる可能性があります。『大学から』始めても、『本気で』日本一を目指せるスポーツは多くないと思います。プレイ経験が数年で日本代表になる例もあります!」
高校生アスリートへ
最後に橋本さんに、大学でも競技を続けるか迷っている高校生アスリートたちに向けてのメッセージを話してもらった。
「大学でも必ずスポーツをやるべきとは思っていないです。重要なのは、本気で何かに打ち込める環境に身を置くことです。でもやっぱりスポーツに対して少しでも情熱があるなら、大学でも続けてみてほしいですね。やりきれば、必ず違う世界が見えてきます」
あえて部活を選ぶ理由があるとしたら「応援される喜び」だと言う。
「大学・OBOGなどからのサポートも厚く、多くの人に応援される喜びは、やはりカレッジスポーツの最大の魅力です。そして何より、一生モノの仲間ができます。また、ラクロスは2028年にはオリンピック競技になると言われているので、今から始めて五輪に出ることもあながち夢じゃないです。高校の部活が終わっても、その先にもっと大きく羽ばたけるチャンスがあるということを伝えたいですね。」
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