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The Weekend

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気まぐれのスケッチ群。
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記事一覧

【The Weekend】ぎこちなく眠る深夜2時に

【The Weekend】ぎこちなく眠る深夜2時に

「見て、私の顔。幸せそう。」



そう言って、俺に写真を見せた。それは春、桜が満開に咲く公園で笑顔で映る女性の姿。撮影したのは俺。



俺は自分の怒りがコントロールできなくなって、彼女を責めていた。なぜ怒ったのかなんて分からないし、たぶん、大したことじゃないのだろう。きっと俺はひどい言葉を彼女にぶつけたのだと思う。もう別れると騒いだのだと思う。

「別れたくないよ」

そう彼女は言い、俺に

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【The Weekend】白い犬と空を飛ぶ日のこと

【The Weekend】白い犬と空を飛ぶ日のこと

実際にそれは見えていた。



白い大きな犬。ピレネー犬のような真っ白い犬が眠っていると俺の前に現れた。



2月のある日。歌舞伎町のはずれにあるビジネスホテルの一室に俺は泊まっていた。その日の夜、近所の八百屋では白菜を盗んで逃げる老人を目撃した。相変わらずそんな街。



普通のホテルの部屋は建物の中にあるものだが、そのホテルは違った。エレベーターを降りると外から吹きっさらしの通路があり

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【TheWeekend】失われていくもの

【TheWeekend】失われていくもの

『蝉』(ラブレスキュー)のサイドストーリーです。

10代最後の夏が終わろうとしている9月。

少し肌寒い朝があった。明け方まで客と過ごすことは絶対にないのに、その夜は40歳女性の愚痴にずっと付き合っていた。

新宿の大ガードの近くにあるホテルの一室。窓際に置かれた二つのソファに座り、もうぬるくなったコーヒーを飲みながら話を聞いていた。

せっかく夕食を作って待っていたのに、夜遅くに電話がかかって

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【TheWeekend】雪で見えなくなる波間のこと

【TheWeekend】雪で見えなくなる波間のこと

俺が住んでいたアパートから歩いて20分くらいのところに、私立大学があった。

俺のような夜の街で生きている荒んだ男にとって、そこは常に嫉妬のような諦めのような感情を呼び起こすような場所だった。毎日その大学の敷地に吸い込まれていく若者たちは、いつも絶えず笑っていた。友達同士だったり、もしかしたら恋人同士なのか、いつも群れては大声で笑っている姿を見ていた。

俺も20歳だった。20歳の冬。
俺だっても

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【The Weekend】星探し (2019年)

【The Weekend】星探し (2019年)

The Weekendは、不定期で週末に気まぐれでスケッチをしてみる企画です。ほんとうに気まぐれですので、あしからず。

19歳の風俗嬢と、最近よく会っている。

その子の年の離れた姉が、俺と一緒に働いていた風俗嬢だった。

もうむかしの話。15年以上前。

姉は源氏名をNといい、精神的に自立しているタイプ女性だった。知能が高いのか思考経験が豊富なのか分からないが、独特の言葉選びで話をする。
風俗

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