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うつくしいもの(2)「愛されてる女のきれいさ」【岩橋由莉連載エッセイ】

くじらちゃんがもうすぐ結婚する
くじらちゃんとは、何年も前から私のワークショップに来てくれるようになり、縁あって今はプレイバック・シアター研究所に勤務している女性だ
ちなみにこのエッセイと羽地さんのコラムの隔週投稿の企画者であり、編集者でもある
そして詩人でもある

出会った頃は20歳だった彼女が最近際だってきれいになっている
披露宴のドレスに向けて糖質ダイエットをしてるせいなのかなと思っていたけれど、どうやら違うらしいということがわかった

この間、くじらちゃんが家族だけで神様に誓う挙式を挙げた
その前日、夜に彼女と一緒のワークショップを初めて行い、しかも彼女の担当だということもあり、なんだかんだと話していたら、その途中で「明日家族だけで結婚式をやるんですよ」とさらっと言ったのだ
こちらはてっきり2週間後に行われる披露宴で結婚式をやるのだと思っていた
明日の式は神様に宣言するミサで、ご両親が披露宴より重要だと思っている式だという
ええっ! そんな時にこんなことしてていいの? 早く帰りなさいよ! と思わず言ってしまったが、「いや、別に大丈夫です」と本当に平気そうな顔で言ったのだ
そうなんだー、と気になりながらも夜10時過ぎに解散した

そして翌日、13時くらいにわたしは時計を見て、あ、今頃くじらちゃんが挙式をあげてるのだな〜と急に思った
そう思うとなんか目がうるっとしてきた。親でもないのに、なんでこんな気持ちになるのか
あの生きづらい人がこの世でともに歩こうとする人を見つけて、相手もそう思ってくれて2人でご両親にみまもられながら神様に宣言するのだな、と思うとなんかよかったなぁと心底思ってしまったのだ
彼女の神様に、どうか2人をお守りくださいと心の中で少しお祈りをした

そして翌日、彼女はなんでもない感じで研修会に来た
けれど、朝、ひと目見てびっくりした! 彼女が変化していたのだ! 別に服装が変わったわけでもないし、メイクが変わったわけでもない
見た目は一見して変化を感じないのだが、彼女の発しているものが変わったのだった
中学生の女の子が一夜にして女性になった感じが1番近いのかもしれない
その変化はわたしだけではなくくじらちゃんをよく知る人たちもみんな、今日はちがうね、なんか、と言ってて、それについては何故かわたしが保護者のように、この子、昨日結婚したんですよと若干誇らしく彼女がいう前に報告していた

その数日後、くじらちゃんと旦那さんと、2人と長く縁のあるてるみんと4人で一緒にランチを食べる機会があった
(てるみんとは、彼女が初めて社会性を獲得した場、社団法人リヴオンの代表である。くじらちゃんとの出会いは最初てるみんが紹介してくれたのだった)
てるみんは旦那さんになるはちくんをよく知っているらしいのだけど、こちらは何度か挨拶を交わしただけできちんとお話ししたことはなかった
待ち合わせに少し早めに来たわたしとてるみんは駅の階段の上がり口で2人を待っていた少し遅れてやってきた

2人はすみません! と言いながら階段を走って上がってきた
くじらちゃんは、今まで見たこともないような今っぽい女性が着る感じの服を着ていてとても綺麗だった
式の翌日に感じた綺麗さは、一過性ではなかったことを確認した

ランチを食べながらてるみんが披露宴のスピーチを考えるために、2人の馴れ初めや今後について質問をする
それを、食べながら一生懸命に考えて答える2人
話の内容も実に興味深いのだけど、それより何より、わたしには、食べている時のくじらちゃんの所作がすごくおもしろかったのだ
自分の飲むお水がなくなると何も言わずに、はちくんのお水を飲む
自分のパスタを少し残したくじらちゃんがそのお皿を彼の前に置いて「食べて」とぞんざいに言ったけど、話に集中していた彼が食べられずに下げようとした時「食べないなら食べるよ」と冷たくなったパスタをもそもそ食べ始める
そんなちょっとしたことだけど、その一連のことが、この人は、はちくんに愛されてると実感した毎日を送っているんだなと感じたのだ
自分の文章力が足りなくて、嫌な感じに受け取られたら困るのだけど、その一見傍若無人な立ち振る舞いのようだけど、だからこそ、その存在がやはり、美しかったのだ
くじらちゃんを女性として綺麗だなぁと思ってしまった瞬間だった

もちろん彼女はご両親をはじめ、色々な方に愛されてきただろう
彼女は友達がいない、とかいろいろ言うかもしれないが、
大切な人たちに大切にされてきたことは彼女の発言や来し方でなんとなく感じる
それは綺麗というのとは少し違う気がする

愛されていて、そしてそのことを実感している女の子は綺麗だ
花が咲いたように内側から匂いたつような何かを放っている
この咲いたばかりのきれいさはなんだかキラキラしていてまぶしい
わたしは目を閉じたいのか、見ていたいのか、その両方を感じながら彼女を見ている

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(岩橋由莉)

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