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Lプロ合宿インタビュー④:うららさんの経験

2019年9月21日〜23日の三日間、研究所が主催する「プレイバック・シアター実践リーダー養成プロジェクト第7期」(通称Lプロ)の初回となる合宿が行われました。このインタビュー連載は、その合宿で起きたできごとや学びを、メンバーひとりひとりの語りとして記録し、お伝えするための企画です。第四回目は、参加者でもあり研究所スタッフでもあるうららさんのお話をうかがいました。

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家族みたいな自然さで


−合宿はいかがでしたか?

うらら:

一言で言うと、楽しかったかな。すごく疲れもしたんですけど、おもしろかった。

−どういうおもしろさですか?

うらら:

まず、密度がすごい濃かった。ずっと寝食を共にして、プレイバックでは今まで見ていなかったその人のいろんな人生とかを見せてもらうことができたりもして。


−強く印象に残っていることはありますか?

うらら:

朝ごはんが楽しかった! 最初は食べたいものを各自で買って適当に食べようって言ってたのに、「ご飯派が多いからご飯は炊こう」っていうことになって、じゃあもうみんなで食べよう、みたいな感じになって。

こーんな大きな器に納豆ぜーんぶ入れてすっごいかき混ぜて、コタツを六人で囲んで、「それちょっとちょうだい」とか「おかわりー」とか言って食べてる。すごいおもしろかったし、ご飯がすごいおいしかった。で、すごいおかわりしてた。お米も五合炊いたのに、ほぼほぼなくなって、朝からすごい食べた。お昼もちゃんと食べた。しかもみんな、遠慮するとかそういう変な気の使い方をしないというか、ふつうだった。本当の家族みたいに。非日常だけど、日常みたいっていうか。ワークの中身よりそっちの方が印象に残ってる。

−どうしてそっちの方がうららさんの印象に残ったんでしょう?

うらら:

ワークをやってる時は、人の話をしっかり聞こう、とか、神経を研ぎ澄ましていて。ご飯のときは唯一そういうピリピリ感がなかったからかもしれない。だって、九時から十二時までプレイバックやって、お昼食べて、また二時から夜七時まで……結構頭使ってた時間が長かったからかなあ。

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「共にストーリーを作る」という創造性


−頭を使う時間の方はいかがでしたか?

うらら:

プレイバックについて、もっといろいろ知りたいな、もっといろいろやりたいなっていう気持ちが出てきたかもしれない。

これまで、コンダクター(※)はアクター(※)の人に演じてもらうために話を聞いているっていうイメージがあったのね。「ストーリーをうまく見せてあげる」のがメインなのかなって思ってた。だけど、合宿で色々やっていたら、アクターのために聞くというより、テラー(※)の人が見ているビジュアルをみんなで共有して一緒に見る、っていう感じで。自分が体験してみて、「ああ、そういうことなんだ」っていうことに気づいた。…………とかいって全然違ったりして〜!(笑)

(※)コンダクター、アクター、テラー……プレイバック・シアターの用語。プレイバック・シアターでは、場の進行役(コンダクター)が、語り手(テラー)から話を聞き、それを役者(アクター)が演じることで、一緒に即興劇を作っていく。
(※)テラーズアクター……プレイバック・シアターの用語。テラー(ストーリーの語り手)本人役を演じるアクターのこと。

うらら:

普通、プレイバックでは見たい話がある人がテラーの席につく場合が多いんだけど、羽地さん(※)が「話したいことが決まってない人も大歓迎です」みたいに言ったから、「まあ、話は決まってないけどテラーの席に座ってみよう」と思って。そのときに、「羽地さんはどういう風に聞くんだろう?」と思っていて。

(※)羽地さん……プレイバック・シアター研究所所長。プレイバック・シアター実践リーダー養成プロジェクト主宰・講師。

で、「最近プレイバック・シアター研究所で働き始めてどうですか」っていうことを聞かれたのかな。「仕事から帰ってくると疲れちゃって、最近は家帰ってただ漫画読んでそのままお風呂入らないで寝ちゃう感じなんです」という話から、「どういう漫画読んでるの? その中のキャラクターで何が好きなの?」って聞かれて。

ええ? 好きなキャラクター? 別にストーリーに関係ないのに、と思いながら、世間話として「羌瘣っていうキャラクターがいて……」とか話してたら、じゃあ、それを見てみましょう、みたいな感じ。

これがストーリーになるのかなあ? って思ってたのに、アクターのふたりがすごく明確にわたしと羌瘣をだぶらせてストーリーをやった。いつの間にか、自分の今の感じとそのキャラクターがだぶってたって気づいて。つながってるんだー! 話すことが決まってない人が来てもストーリーはできるんだ! っていう、すごい発見みたいなものがあった。全く何もないところから話を作って、聞き出して、ストーリーを作り出すっていうのも、即興っぽいし、創造性もあるし、すごいおもしろいなと思った。いちばんの収穫でした。

ストーリーがない場合でも、「ストーリーを見る」っていう目的は決まってるから、コンダクターとテラーが二人で、どういうストーリーが見たいかを一緒に作っていく、みたいな感じがあって。それがちょっと楽しかったかな。

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プレイバックとインプロのあいだ


− 「即興っぽくておもしろい」んですね。うららさんにとって「即興っぽい」っていうのは「馴染みがある」っていうことなんですか。インプロ(※)をやっているから?

(※)インプロ……インプロヴィゼーションの略で、ここでは台本なしで上演される即興芝居のこと。うららさんはインプロの役者でもある。

うらら:

馴染み深いというよりは、それをおもしろいと思う性質、っていうのかな。この先どうなるんだろう? っていうハラハラわくわくドキドキ、が好き。予定調和だと飽きちゃう。そう、飽きっぽいんです、性格的に。だから、即興性がある方がわくわくする。


−うららさんから見て、インプロとプレイバックは似ていますか?

うらら:

似てるけど、違う。まったく違う。インプロは無の状態からストーリーを作っていくから、架空の話になる。でもプレイバックは、テラーの人の話っていうガイドがある程度あるから、表現するっていう点ではやりやすいのかもしれないけど、やっぱり人の過去を扱っているデリケートなものだから、そこに対する扱い方はちょっと気をつけないといけない、っていうのはあるかな。プレイバックの方がちょっと神経を使うような気がする。インプロは何やってもいいし、はずかしめを受けるのは自分だけだから、そこは度胸と開き直りさえあればいいんだけど。


−うららさんにとって、プレイバックのおもしろさはどこにあるんですか?

うらら:

羽地さんが精神科のクリニックでやっているプレイバック・シアターにアシスタントで行かせてもらったとき、だいたいテラーは患者さんで、わりとシビアというか、すごくデリケートな話が多くて。

アクターをやるときに、どのくらいリアルにやっていいか加減しながらやらなきゃいけないっていう部分もあったんだけど。ストーリーが終わって感想とか聞くときに、テラーの人から「やってくれてありがとうございます」「見ててスッキリしました」とか、そういう感想を結構いただいて。

なんか、微力ながら、その人が抱えている怒りとか悲しみとかを、ちょっとでも解消…………までは行くかわからないけど……スッキリする気持ちになってもらえるんだ、っていうことに、やりがいみたいなものを感じて。

インプロの場合は、見に来た人が楽しんで笑ってあースッキリした! っていうほうが多い。そういうエンターテイメントもすごく大切だと思うんだけど、やっぱり歳を重ねてきて、もっと……「社会貢献」っていうと大きいかもしれないけど、誰かの役に立つことの方がやりがいがあるっていうか。それでプレイバックをもうちょっと勉強してみたいなあって思った。だから、クリニックでのプレイバックがすごくきっかけになっていると思う。

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−これまでインプロやプレイバックとさまざまな関わりを持ってきたうららさんが、今回、Lプロに参加してコンダクターの技能を身につけようとしているわけですよね。うららさんはそのことに、どういう可能性を感じているんですか?

うらら:

「インプロよりもう少し人に寄り添える何かをしたい」って、30代後半くらいから思っていて。産業カウンセラーの資格をとったんだけど、カウンセリングだと今度はお話を聞くだけで、あとひと押し何か足りない気がする。

そう考えると、プレイバックは、インプロ的な要素とセラピー的な要素、両方持ってるような気がして。なので、コンダクティングができるようになると、自分の幅が広がるなあ、っていうのが一個あるかな。

プレイバックだけでもなく、インプロだけでもなく、その場にいる人の感じに応じて、自分の人生とは全然違うエンターテイメント的な世界で楽しむことも、その人の過去を使った癒しとかそういうことも、両方できるようになれたらいいなあって……いう、可能性? かな? プレイバックとインプロを両方やってる人って、あんまりいないので。


「セラピー」について、とぎれとぎれに


うらら:

そうだね。エンターテイメントとセラピー。ここに深い川があるような気がする。最初にプレイバック・シアターっていう言葉を聞いたのは、産業カウンセラーの講座を受けてるとき。でもその時はわたしも全然興味を持たなかった。

−興味を持てなかったのはなんでなんですか?

うらら:

なんか、イメージとしてね、セラピーってちょっと重いなっていうか、責任感が必要というか。出会った時期とかもあるのかなあ。……といいつつ、くじらちゃん(※聞き手)は若いのにプレイバックに興味を持ってるけど(笑)

−今、わたしについて言及していただいたので、自分の話をしてしまうと、わたしはセラピー的なものは重くて怖いと思っています。それでいてLプロに通おうとしているのですが……うららさんは、いまは重いとは思わないんですか?

うらら:

やる側に入ってみたら、負担に思うのはおこがましい、ような気がする、というか。やっぱりそんな……なんだろう……できることって微力というか……

−なんでだろう、なんかすごく……大事なことを聞いている感じがします。

うらら:

うん、わたしもそんなことを言っている気がするんだけど、なんせ語彙力がなくて……

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うらら:

多分、責任なんか負えないし、負う必要もないのかもしれない。それはみんな大人だし、責任を負わせるためにセラピーに来ているわけではないというか。

−みんな大人だし、っていうのは、セラピーを受ける側の人たちが?

うらら:

そう、だね、でもちょっと違うかな。別に子どもの場合もある……だから、「自分がセラピーをする側」みたいに思っていたけど、多分、それは、大きな間違いで………自分がどっちにもなりうるし……なにかして「あげられる」みたいに思うのは、おこがましい。そんなことはたぶん、できないから。その、場に、一緒にいる。……寄り添う…………「寄り添う」も、人によって多分意味が違うと思うんだけど…………。
「共感する」、っていう話をしてなかった?

−はい、はい、していました。(合宿インタビュー①参照)

うらら:

その話に近いのかも。

−「する/されるの関係」ではなくて。

うらら:

うん、一緒にいる、みたいなことなんだろうな。だから、責任を負う必要がないっていうことかな。負えないし。まだうまく自分の中でもことばにできないけど。インプロと、プレイバックと、エンターテイメントと、セラピー……

−なんかすごく大事なことを聞いた感じがします……

うらら:

一個も説明できなかったけど……


★記事中の写真はうららさんが合宿中に撮影したものです。

(インタビュー・記事 Lプロ7期生/研究所スタッフ 向坂)

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