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【研修記録】わたしをほどく〜セルフケアの観点から〜

東京都のある社会福祉法人で「わたしをほどく〜セルフケアの観点から〜」というタイトルでメンタルヘルスの研修を行いました。

その法人は、介護老人保健施設をはじめ、デイサービス、高齢者住宅、地域密着型多機能ホームなど複数の事業を展開しています。

このコロナ禍で第一線で働いている皆さんを対象に、事業間をまたいで、職場の役割を少し横において、職員同士がひと息つけるような時間を作ってほしいというご依頼でした。

最近、わたしの研修でもこういったご依頼が多くなってきました。コロナ禍で対面のコミュニケーションが少なくなってしまったので、働く者同士の風通しをよくしたい、コミュニケーションをよくしてほしい、といったような内容です。特に医療教育団体や支援団体、保育園や幼稚園研修などを担当して感じるのは、他者に親身になっている方ほど自分自身の時間を当然のように削りがちで、そしてみなさん頑張り屋さんが多いですね。


介護関係の方と伺うと自動的に6年前に他界した父のことを思い出してしまいます。介護施設の方、ケアマネさん、そして最後の時を自宅で迎えられるよう交代で世話してくださった看護師さんなど、みなさんのプロの対応に、今でも心から感謝しています。人生を終えようとしている父に対する接し方、介護している我々家族に対する声かけなど、家族の死に直面していく我々にちょうどいい距離感で見守ってくれました。これはそれぞれの家族の関係性や個人の死生観にも直接関わってくる場合もあり、特有のストレスもあるだろうと考えます。専門的な介護の知識はありませんが、みなさんが自分の時間だと思える過ごし方は何だろうかと考えました。

ひとつは他者に気遣うように自分にも注意を向ける、自分を大切にするように、他者にも気遣うというセルフケアの観点を入れること。

これは、数年間、一般社団法人リヴオンの代表である尾角光美さんと共に真宗大谷派の僧侶の教師養成課程にグリーフケアの授業を入れるというお仕事をさせていただいた時に学んだ観点でもあります。グリーフとは、大切な人や物をなくした時に起こる人それぞれの反応のことです。ここではグリーフケアの概念を学ぶ際の大きな柱の一つに「自分自身を知ること」を取り入れていました。他者が何かのグリーフを抱えた時、共にいる自分自身のグリーフも影響を受けます。自分自身の今を感じることが必要だという姿勢は、とても学びになりました。


わたしも自分のワークショップの一番はじめには、いつもみなさんの今の体調と心の調子を伺います。

やるべきことで頭がいっぱいになっておられる方ほど、「今の自分の気持ちや体調は?」と伺うと「え?」と止まってしまわれます。自分のことなどいいです。とおっしゃる方も。けれど、この時に少しでもご自身のことを言葉で話してくださると、それがあとから徐々に効いてきます。口に出したことで自分のことを気にかけ始めるモードに入るのですね。

自分の今に気づきながら他者への働き方を考えるのと、自分を感じることなく他者の方のために動くのとでは、動き方が変わります。(もちろんこれは程度の問題でもあるのですが、介護や支援を仕事にされている方には特にそう思います)


研修は、今の自分を携えて人と関わっていただくところからのスタートです。
そのあと、ストレッチや深呼吸をして、ちょっとしたゲームを行いました。

このゲームは頭でわかっていてもなかなかスッとは実行できないことを楽しく行います。わかっていてもできないこと、うまくいかないことを笑い飛ばす!そんな時間です。

次は、二人組になって相手に「お願い!」「だめ!」とだけ言いあう時間。

お願いする人は「お願い!」という言葉を言い続け、もうひとりは「だめ!」とだけ言い続けます。何がだめなのか、何をお願いしているのかは一切説明できません。なのに、懇願の「おねがい〜」に甘えた「だ〜め!」を言ったり、直立不動の「お願いします!」に座っている人が「だめ」と小さな声で一言言っただけで2人の関係にストーリーが見えてきます。この場は所詮虚構の世界、普段は言えないことを思いきり言って発散してもらいました。

これも介護士さんや看護師さんに保健師さんなどによく行います。今回も「こんなふうに『だめ!』とだけ言って電話が切れたらどんなにいいか…」としみじみ話される方が1人や2人ではありませんでした。

そのあとはそのことをもう少し発展させた「怠け者のお姫様」をなんとか外へ連れ出す即興のやりとりや、言葉のイメージを形にして共有するもの、今思い浮かんだことをただ聞いてもらう時間など、とにかく虚構、リアル関係なく、ご自身が「今」感じていることを人に聞いてもらう経験をたくさんしていただきました。

活動の最後は、自分が普段リセットするためにしていることを可視化し、共有します。普段リセットのために行っていること、やってみたいことを具体的に一枚につきひとつ付箋に書いてもらい、それを全員ホワイトボードに貼り付けて眺めるのです。ホワイトボードには、1人で行うこと、他者と行うこと、身体的か内面的かと座標軸を書いてあり、そこに自分で書いたものをふり分けて貼っていただきました。特別な時にしかできないこと、日常でもできること、コロナがあけたらやりたいことなども書いてみんなで眺めました。
眺めてみると、自分の傾向がよく見えてきます。

研修の終わりは今日の気づきと共有の時間です。
自分1人だけだと自分の学びで完結してしまいますが、それらを皆と共有することで気づける視点のヒントをたくさんもらうことができます。
同じ体験をしたもの同士、その感想の共通したこと、違いにさらに話が弾みました。
こんなに自分の感じていることを他人に話したことがない、とびっくりされている男性参加者の方や、思いきり本気で笑っている自分が久しぶりだった、と言う方、1人になる時間や自分のことを考える時間がほとんどなかった、と気づかれる方など自らのことをふりかえってあらためて気づくことの声が多く聞かれました。


当日の研修は3時からのスタートでしたが、最初はなかなか揃いませんでした。みなさん業務から出てきたばかりで、たくさんなにかを背負って固くなっているご様子。けれど終わる頃には一変して、みなさんの表情も身体も柔らかく、笑い声もたくさん聞こえるようになりました。

Zoomなどで業務報告をしていると、ついつい必要最低限の情報のやりとりになってしまいがちなのですが、一瞬無駄に思えるような天気の話や最近の近況などを数分でも話せると自分と他者との間にすこし余地が生まれます。その余地の部分が人とつながったと実感できる部分でもあると思います。


講座のタイトルである「わたしをほどく」。

ちょっと変わったタイトルと普段あまりやったことのない活動にみなさんおっかなびっくりでしたが、少しずつ自らの心と身体をほどいていくような時間で、わたしも一緒にどんどんほどけていきました。

(岩橋由梨)

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