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宝塚宙組「シャーロック・ホームズ」他(その2)

※芝居編はこちら。↓

https://ameblo.jp/darshaan/entry-12683519587.html

ショー〝Delicieux!〝(デリシュー)は、菓子を通じたパリ巡りがコンセプト。
で、一言で言うならそれは「力技」。全ての場面がハイライト・クライマックスであり、メリハリがない。メリメリ。

ダンスに群舞、歌唱・・・生徒の技あるいは見目麗しきの、これはショーというより博覧会である。「パリに仮託した博覧会」。
なのに、あまりパリっぽくない。野口幸作という演出家はアメリカものが得意だそうで、音でいうならこれはヴァン・ヘイレン。いや、そんなにいいもんじゃないな。産業ロックのジャーニーか。
アメリカン・ロックにも例えばKISSのような、ギター・ベース・ドラムスというシンプルな構成で分厚い音を出せるグループもある。いかに力技に見えようと、そこには確かなグルーヴがある。

ところが本作は、一見目先を変えようとしても変わらず、同じテンションで押しまくる。メリハリがないから従ってグルーヴがなく、観ている者をひたすら疲れさせる。
芹香斗亜を女装させ、宮廷の貴婦人に仕立て上げた場面は一所懸命笑わせようとするがいっかな笑えず、ー これは芹香のせいじゃない。そもそも企画がツマンナイのだ ー 初舞台生に朱のおベベを着せて巨大なデコレーションケーキに乗っけ、それがわらわら降りてくる場面は、まことに申し訳ないが、食べ物にたかる蟻の大群に見えた。

続くロケットの後は男役3人×数組のダンス。それぞれに青、白、赤のスーツを着せてトリコロール(自由・平等・博愛を表すフランス国旗)なのだが、こういう仕掛けをしたり、ただ単に「パリ!」と叫ばせたらパリになるわけじゃない。

フランスが、いかに力技で大革命を成し遂げたとはいえ、我々が抱くパリのイメージはもっと「滑らか」なもの。
芹香に女装などさせず、ごくシンプルに舞踏会の場面をこしらえ、クラシックダンスの大群舞、そこで名題のいろんな菓子をネタにウィット溢れる会話(歌でも良い)、菓子でもって上流階級のありようを表現する方が良かったのではないか。

SMシーンは、「宝塚でSMなんて!」と一部に批判はあるようだが、俺はやっても良いと思う。『エリザベート』だってフランツが売春宿に赴き、宝塚では明示されなかったが梅毒になっちゃうしね。
要はやり方で、本作のSMシーンは許容の全き範囲内。むしろ、そのチャレンジ精神や良し。

俺はやるなとは言わんが、それよりも昔おなじ宙組でやった〝Glorious!〝(アメリカ史を音楽で綴った藤井大介の名作)みたく、ブルボン王朝から革命を経て第一共和制、ナポレオン帝政、パリ・コミューン・・・全部触れなくても良いけど時系列に時代を下っていき、そこに折々の菓子を嵌めていく。そんな仕方があったのかも知れない。
あるいはクッキーなら紅茶? それぞれの菓子に合う飲み物で引き出しを増やすというやり方も。

野口幸作は「真風涼帆にはシャンソンが似合う」。そう思ったのが制作の動機とか。
シャンソンなんかありましたっけ?

もしかしたら、金ラメに黒の衣装で1人歌う、あの場面がそうだったのかもしれないが、あれは演歌でしょう。後半タンゴのリズムで誤魔化し(?)ていても、あれはまごうことなき演歌。
いや、パリで演歌歌ったっていいんだよ。SMみたく、要はやり方。
※敢えて洋物で例えるなら、あの場面はシャンソンというよりファドに近い。

別のところで越路吹雪はあったけどな。「愛の讃歌」、ダンスでアップテンポで。

良かった場面は芹香斗亜が歌い、真風と潤がデュエットダンスを踊るところ。ブルーが基調で♪トワエモア〜♪って。

大階段の多用も使い所によるし、総じてガチャガチャ力押し。「華やか」と「ガチャガチャ」は違う。

くだんの友人が「生田と野口をぶん殴ってやりたい」と言っていた。彼女はかれこれ40年ほど、俺はたかだか20余年だが、昔っから観ているヅカファンに言わせりゃ

「全く宝塚がわかっていない」

なんというのかなあ。ほら、もっと落ち着いて。
もう難しいこと言わんから、ほら、もっと上手く。

宝塚というのはだな。流麗・滑らかでなければならない。ガツン!というのもあって良いが、それはアクセントに過ぎず、アクセントばかりじゃ芝居もショーも成り立たない。
スパイで女詐欺師でオペラ歌手だの、潜水艦の設計図だの、そんなお子ちゃま的ゲーム的設定は要らないのだ。設定・筋がガチャガチャし、生徒にギャアギャア言わせるばかりじゃ宝塚の魅力は半減す。いや、舞台そのものを破壊する。

うっとりさせてよ頼むから。俺なんか、すんげ久しぶりに観にきたんだぜ?

ストーリーなんか、そんなヘンテコなもの考えなくとも、以前書いてみた「タンザナイト」にせよ朝鮮戦争モノにせよ、5分で作れます。

例えばこの曲。

言葉がわりに 微笑みかけて
風を相手に ダンスを踊る
あの娘はいつもミステリー
僕の心を惑わせる

名前も知らず 国籍も不明
面影だけが 手がかりなのさ
誰かあの娘を見つけだし
僕のそばまで連れてきて

※むらさき色の髪をして 
プラチナブルーの瞳をもった
She's so beautiful 
Mystery girl, Mystery girl・・・

バラの花束 小脇にかかえて
夢の扉をあの娘はたたく
一番鳥が鳴く頃に
いつもあの娘は消えていく

うす紅色のくちびるに
異国の煙草をこっそりかくす
She's so beautiful 
Mystery girl, Mystery girl・・・

カミソリ色のくちづけで
夢幻の世界に連れて行く
She's so beautiful 
Mystery girl, Mystery girl
Mystery girl, Mystery girl

動画は※部分から。

https://youtu.be/Qlst5pIBQMs

これは柴山俊之さん(鮎川誠さんとともにサンハウスを作った菊さん)が書いた歌詞。
曲は動画の花田裕之さん@元ルースターズ。ちなみに福山雅治君の師匠筋です。

いずれも我が福岡出身の偉大なる先輩方だが、この詞ひとつで10とおりくらいストーリーは書ける。
ただ難しいのは、台詞と場面づくり。台詞(と、ちょっとした所作)で「こいつ、どんな奴?」や「いったいどうなっておるのか」をわからせなきゃいけないし、場面づくりは市川昆監督や小津安二郎監督みたく、作品の命運を握る。
『東京物語』なんて、話自体は何てことないでしょ? それがなぜ、あんなに泣かせるのか。最後、尾道で。

この点に於いては、映画も宝塚も同じです。

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