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【講座】美し過ぎるぞ幾何学的代数

はじめの余談

 幾何学的代数(Geometric Algebra)に遭遇したのは2022年末。
 統計学の動画を観ていてたまたまお勧めで出てきた動画。あの難解で有名な代数幾何学(Algebraic Geometry)と名前が似すぎてて混同しつつも、なんか面白そう、まあ分からんなりに観てみよう、と。
 これです。

 動画の出だしからぶちかましてきた。

 以下の分野が、

Synthetic Geometry(綜合幾何学) 
Coordinate Geometry(解析幾何学)
Complex Variables(複素解析)
Quartanions(四元数)
Vector Analysis(ベクトル解析)
Matrix Algebra(行列演算)
Tensor(テンソル)
Spinor(スピノール)
Differential Forms(微分形式)

https://www.youtube.com/watch?v=60z_hpEAtD8
0:18

幾何(学)積」なるもの一本で全部いけますよ、と。

Geometric Product

https://www.youtube.com/watch?v=60z_hpEAtD8
0:21

 そんな美味しい話がこの世にある訳ない。並んでいるのは大物ばかりではないか。「この商品を買えばお金持ちになって彼女もゲット!全てがうまくいきます!」みたいなのは詐欺に決まっている。新手の数学詐欺か?

 高校生も習う複素数。$${i^2=-1}$$から始まって留数やらオイラーの等式やらを生み出した数学の大勝利である複素数。それが不要に?まさか?
 最近はドローンの姿勢制御とかで使っているはずの四元数。複素数の親分みたいなやつ。ハミルトン先生がダブリンの橋の上に数式を書いた逸話でも有名だが。
 $${\nabla}$$とか$${\Delta}$$とか変な記号で面食らってからずっと付き合う、膨大かつ完成された分野っぽいベクトル解析。ちょっと待て。それは無理。
 今の高校生は習わないが線形代数の醍醐味の行列。ベクトル解析と同じく無理。
 ベクトルの親分みたいなテンソル。あのアインシュタインも苦労したというテンソル。ていうか、その名も「アインシュタイン・テンソル」というのがあったはず。いやいやもっと無理。あとの分野は正直よく分からないが…。

 そう思って動画を観ていると、おおなるほど面白い、確かにこれはシンプルで複素数も不要になる。公理(とりあえず鵜呑みにするやつ)はほんの少し。そして何より計算が異常に簡単。回転も行列要らずで両側から掛けるだけ。けど、それだけで万能選手と言い切れるのか?と疑念が拭えないところに次の引用文が画面に。

"a unified mathematical language for the whole of physics" - David Hestenes
"the most powerful and general language available for the development of mathematical physics" - Stephen Gull, Anthony Lasenby and Chris Doran

https://www.youtube.com/watch?v=60z_hpEAtD8
35:33

 (幾何学的代数は)「全ての物理学を統一して記述できる数学」「数理物理の発展に寄与する最も強力かつ汎用性の高い言語」みたいな意味であり、いやそれは言い過ぎでしょう、と思うと、動画作者も同じこと(信じられない)を思っていたとナレーション。

 しかし、そこからの展開に圧倒され、詐欺ではなかった!美しい!凄過ぎる!とまるで洗脳された信者のようになっていたのだが周りに誰もいなくて良かった。
 何が凄かったのか?
 なんと、あのごちゃごちゃしたマックスウェルの電磁気学方程式4本セット

$${\overrightarrow{\nabla} \cdot \overrightarrow{E} = \dfrac{\rho}{\epsilon_0}}$$
$${ \overrightarrow{\nabla} \times \overrightarrow{B} = \mu_0 \left( \overrightarrow{J} +  \epsilon_0 \dfrac{\partial \overrightarrow{E} }{\partial t}  \right) }$$
$${\overrightarrow{\nabla} \times \overrightarrow{E} = - \dfrac{\partial \overrightarrow{D} }{\partial t}}$$
$${\overrightarrow{\nabla} \cdot \overrightarrow{B} = 0}$$

これが、

$${\nabla F =J}$$

 たったこれ一本にまとめられ、上の4本セットはこの簡単な式から係数比較だけでひょいひょいと取り出されて再現されてしまったのである。

 この事件以降、私は熱狂的な幾何学的代数信者となり、SNSもヤフトピも見ず世間で何が起こっているかも分からず、同時並行の統計学の視覚化作業と相まって立派な数学廃人となっています。

 今回の講座は、物理学科の落ちこぼれなのに何の因果か学生や社会人に数学や統計学を教えていて、大学卒業数十年後に数学に狂い咲きしている私が、数多い専門家を差し置いて、幾何学的代数伝道師としてその美しさ、凄さを教えるという酔狂な企画となっています。

 尚、先程の動画の解説欄に「幾何学的代数は過小評価されている」とあったので、調べてみると、関連分野で言及されていたり、ちゃんとした教科書もありますが、他の分野に比べて圧倒的に取り扱いが少なそうです。やはり使い慣れた道具から鞍替えするというのは、どの世界でも時間がかかるものなのでしょうか。

この講座で得られるもの

  • 幾何学的代数の基礎概念(幾何学積、内積、外積、多重ベクトル、2・3次元)

  • 幾何学的代数での演算と幾何学的な基本操作(正射影、反射影、対称移動、回転)

 但し、厳密な数学的な定義等に関しては範囲外とし、イメージを掴むことと実際の操作に慣れることを主眼とします。

受講対象者

前提

 原則として、高校程度の数学をおおよそ一通り理解していること。
 特に、ベクトルや複素数を扱うので、この分野の知識はあった方が良いです。
 但し、全く自信のない方でも、興味さえあればなんとかします。
 尚、高校数学をちゃんとやっていない、又はこれから修得しようとしている方には、別途「数学基礎講座」を用意します。

想定対象者

  • 単純に幾何学的代数に興味のある方(属性問わず)

  • プログラマ、情報技術者等で、仕事・業務で幾何学的代数が必要な方

  • 仕事で必要だが、実は数学が余り得意ではなく、かといって学習塾に行く訳にもいかず悩んでいる方

授業方法・料金等

  • 1コマ90分(原則)

  • 全5回

  • 複数人でのグループワーク形式(原則)座学とグループワークの繰り返しで定着を図ります。

  • 個人単位での授業も可能です。

  • 具体的な頻度、会場(遠隔含む)については検討中です。

  • 料金は、3万円を目安に、頻度、内容、方法によりご相談に応じます。

カリキュラム(予定)

01回 幾何学的代数概論と基礎概念

  1. 幾何学的代数の歴史と他の分野との関係

  2. 幾何学的代数の利点等(座標、虚軸、クロス積)

  3. 多項式の展開と交換法則

  4. 発想:幾何学積=内積(ドット積)+外積(ウェッジ積)

  5. 幾何学積の三角関数表示

  6. 発想:面ベクトル(多重ベクトル)

  7. 2次元での基底 $${ \{ 1,e_1,e_2,e_1e_2\}}$$

  8. 基底の性質

02回 2次元での演算と幾何学的操作1

  1. ベクトルの成分(基底)表示

  2. 単位ベクトルと逆ベクトル

  3. 分配・結合・交換法則の確認

  4. 2次元基底間の幾何学積の相互関係(表)

  5. 面ベクトル同士の加法・減法

03回 2次元での演算と幾何学的操作2

  1. 正射影と反射影の作り方

  2. 内積と外積の関係

  3. 鏡像変換と作用子

  4. 回転と回転子

  5. 回転子の指数表現

  6. 2元1次連立方程式の再解釈と解法

04回 3次元での演算と幾何学的操作

  1. 3次元での基底 $${ \{ 1,e_1,e_2,e_3,e_1e_2,e_2e_3,e_3e_1,e_1e_2e_3 \}}$$

  2. 3次元基底間の幾何積の相互関係(表)

  3. 次元と基底数の関係

  4. 体ベクトル同士の加法・減法

  5. 正射影・反射影・鏡像変換・回転

  6. 3元1次連立方程式の再解釈と解法

05回 既存の分野との関係

  1. 幾何学的代数と複素数・四元数の関係

  2. 外積とクロス積の関係

  3. 双対ベクトル

  4. 行列の幾何学的代数との関係

  5. ベクトル解析の幾何学的代数による再構成

  6. マクスウェル方程式の幾何学的代数による表現

  7. 講座のまとめと今後の展望

終わりに

 その有用性にも関わらず過小評価されていると言われる幾何学的代数ですが、今後は各分野に浸透、特にシビアな計算効率が求められる人工知能やデータ解析分野では大いに普及していくと予想されます。既に実装されている分野も増えてきています。

 しかし、数学科では関連分野の高度な研究は続けられているようですが、それ以外では大学の正式なカリキュラムには含まれておらず、有志による勉強会等しか見られないようです。それも、数学の専門家や愛好家によるもので、相当なレベルのもののようです。つまりは、一般の方が幾何学的代数を勉強する機会はほぼ独学に限られているというのが現状であり、それでは敷居が高いし、そもそもこの素晴らしい人類の知恵が普及しないのは余りに勿体無い。

 数学の研究者でもない、一介の塾講師であっても、分かりやすく伝えることが本業なので、一般の方に紹介するのであればできるのではないか。そう思って本講座を作りました。

 この講座でお教えできるのは、幾何学的代数のほんの入り口までです。それでも、この楽しく美しい数学を少しでも伝えられたらと思っています。

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