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忘れ得ぬ、きみのすがた

ーー私は君を忘れて久しくなる。

君は、どんな顔で笑っていただろうか。
君は、どんな声で笑っていただろうか。

君は、もうどこにもいないのだ。

ふぃと思いだす真実に、胸の真ん中に何かがぽっかりなくなったような虚脱感を覚える。

君は、どんな子だったんだろうか。

明るい子だった気がする。

臆さずに見知らぬ子に話しかけて、友達になってしまう特技。
その日のうちに叶うか知れない「約束」を作ってしまうような無垢な図々しさを持っていた、気がする。

泣き虫だった気がする。

何かあれば子犬のように泣き始めて、嵐が去ったかのようにすぐにけろりと笑い出した、気がする。

誰よりも、「女の子」でありたくて。

誰よりも、一人ではいたくなくて。

ーー私は、君を忘れて久しくなる。

先に手を離したのは、他の誰でもない、私だったね。

最後の日、君がどんな顔をしていたかさえ覚えていないや。

「子供」の君と、いつの間にか「大人」の私。

私は君を忘れて久しい。

でも、現実から目を背けて、ふと振り返ると、遠い後ろには君がいる。

どこにも、いなくなったはずの君がいる。

こちらと目があうと、大きく大きく、目一杯、両手を振る。

変わらない、無意味に誇らしげな、君の笑顔。

なにもなくても自信たっぷり。
君の目には、この世界がキラキラ輝いて、まだ出会っていない素敵な謎に満ちているんだろう。

髪を伸ばすのが好きだった君。
フリルのついたワンピースが好きだった君。

遠い昔に手を離してしまった、今と別人のような子供の君。

ーーー昔の私。

手を離してしまったのは、私。
忘れてしまっていたのは、私。

ああ、どうして大人って奴は、すぐに君を忘れてしまうんだろうね。

世界が夢で満ちていた頃の笑顔を浮かべる君は、いつだってこんな風に手を取ってくれる場所にいるのに。

私は、君を取り戻せるだろうか。

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