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プラネタリウム がVRに出会うまで

今のプラネタリウムはスペースエンジン(デジタルプラネタリウム)やフルドーム映像がすっかり定着し、昔ながらのプラネタリウムのイメージからは、ずいぶんと変わりました。

でも、ここへきていよいよ、プラネタリウム業界が次の変遷を見据えるときが来たのを感じています。そう、バーチャルリアリティの時代です。

というわけで、今回はプラネタリウムがVRへとつながっていく流れを、技術的な面で整理してみます。

先にお断りですが、もちろんこの流れは一方向に「従来のプラネタリウムが、VRに置き換わる」などというものではありません。現代のプラネタリウムは昔ながらのスタイルの良さを受け継ぎつつ、新しい映像技術も取り入れて進化しつつあります。

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①プラネタリウム と ドーム映像

プラネタリウムは、丸天井のシアター型施設で、真ん中にはどーんと投影機が鎮座し、夜空(に見立てたドームスクリーン)に星々を映し出す、というものですよね。

一方で、近年はコンピュータグラフィック等の技術が進み、ドーム映像、あるいはフルドーム映像といわれるものが、プラネタリウム施設で多く投影されるようになりました。

つまり、もともと半球形のドームスクリーンを使っていたプラネタリウム施設は、星を映すことに適していた、だけでなく、CGで描いた映像を映すのにも、大いに活用することができた、ということ。

で、ネーミングは、

ドームいっぱいに映像を映すから、ドーム映像、またはフルドーム映像

というわけですね。

映像の進化に加えて、元々は星空(のみ)を映す目的で使われていたプラネタリウム施設をいわば流用することで、ドーム映像 が誕生しました。

これまで平面だった映像がドームに映し出されると・・・そこには、人のほぼ視界全体を占める、圧倒的な映像世界が広がり、独特の没入感・臨場感で見る人を包み込む。

いっぽうプラネタリアンにとっては、ドーム映像の導入は、夜空の星以外のものも、何でもドームに映すことができる、ということを意味しました。

平面から解き放たれた映像メディアは、ドームスクリーンに映し出されることで、これまでにない無限の演出可能性を秘めたメディアとなったのです。

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②ドーム映像 と VR

ドーム映像が、おもにプラネタリウムの世界で発展したのに対し、バーチャルリアリティ(VR)は、かなり異なるフィールドで発展をしてきました。

とくに相性が良かったのは、例えばアニメゲームなど、3D CGモデルが多用されるジャンル。

クリエイターが描いた世界が、二次元の映像として見るだけ、にとどまらず、VRによって、3次元空間として描かれ、ときには自分自身もアバターとしてその世界に参加することさえ、できてしまう。
そこにはまるで、これまで「現実」と呼んでいた世界とはまた別の、「仮想現実」の世界が、たしかに実在しているようだ。

そんなVRとドーム映像、それぞれ発展したジャンルは違っても、映像制作の面ではかなり近いメディアだと言えます。

端的に言えば、VRは「全球型」で、ドーム映像は「半球形」

VRでは、3次元の立体的な世界が描かれており、見る人にとっては、四方八方、つまりどの方向を向いても映像が見える。
それに対してドーム映像は、半球状なので下半分は基本的に映像が無いものの、上の半球分は映像が覆い尽くしている。

だから、半球分の映像と全球分の映像、ということで、ドーム映像(ドームマスター形式)⇔VR映像(エクイレクタングラー形式)の変換は、じつは比較的容易に可能。

互いに高い互換性のある映像メディアとして、ドーム映像とVRは、互いに少なからず意識し合ってきました。

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③プラネタリウム & ドーム映像 & VR

ここであえて、もう一度スタート地点を振り返ってみましょう。

Q.プラネタリウムは、なぜ作られたか。
  ↓
A.夜空の星を、あたかも本物のように再現しようとした。

あれ? これはつまり、現代の言葉で表現するなら、それこそバーチャルリアリティを作ろうとした、ということかも。

そもそもプラネタリウムは、世界中の実物を揃える万国博覧会で、どうしても星空の実物を持ってくることが不可能なために、できるだけ本物に近い形で再現することを目指した、というのが起源だと言われています。

1937年パリ万博で、ピカソのゲルニカなどとともに、プラネタリウムが大きな注目を集めたそうです。

空を再現するために、丸天井のスクリーンを作ってそこに投影したのが、現代にもつながる投影タイプのプラネタリウムの始まり。

いっぽうVRも、ヘッドマウントディスプレイなどとともに発展したものの、共通するのは、自分自身をつつみこむように、映像で仮想世界を実現しているということ。

つまり、プラネタリウム⇒ドーム映像⇒VRの共通点は、いずれも没入型/空間再現型のメディアであるということ。

そのおかげで、それぞれのメディアが築き上げてきたコンテンツは、図らずも共有しやすい形式になっていたのです!

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まとめ:プラネタリアンにとってのVRとは

昔ながらのプラネタリウムと、最先端のVRは、どちらも「世界を再現しようとしたメディア」として進化してきたもの。

また、それぞれバラバラな歴史はあれど、フォーマットの形式は、ドーム型シアターやヘッドマウントディスプレイと相性がよい点も、共通している。

だから、プラネタリアンこそVRを駆使して、その可能性を追究していくべきなのです。

最新の天文学は、人間の目では見られない遠くの世界、あるいは人類誕生のはるか以前や遠くの未来の宇宙の様子なども、理論的に描き出すものとなっています。

こうした天文学の目をもって描く映像は、普通に見ることができないこの世界の様子を、なによりもリアルに再現し、体感させてくれるものとなるはず。

いっぽうで、VR畑で新しい映像表現の可能性をすでに堪能してきた人たちも、プラネタリウムが持つドーム型シアターで映像を映すことの可能性を、ぜひとも開拓していただきたい!

ドーム映像⇔VRの互換性が高いおかげで、VR映像の多くは、ほんの少しの手間をかけるだけで、プラネタリウム施設での上映も可能となるのです。

巨大なスクリーンをもつドームシアターの映像は、ヘッドマウントのVRゴーグルでは実現できない、迫力・臨場感・没入感があります。

また、映画や劇場、あるいは音楽ライブなどのように多くの人と一緒に、同じシアター体験を共有することは、個人で体験するヘッドマウントの映像体験とは別の、強烈な説得力を生むものとも、なりえます。

道具が進化する世の中では、あとはユーザーがその道具を以下に使いこなすか。全てはそれ次第で、新しい価値が生まれるかどうかが決まります。

昔ながらのプラネタリウムも、VRのような新しいツールの強みを大いに取り入れて、進化し続ける魅力的なメディアであり続けなければ!

わたしも、いちプラネタリアンとして、頑張ります!!

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