みちくさ
「きれいな、おはな。」
花束を抱えて家へと戻る道すがら、ふと声をかけられました。
声のする方へ振り向くと、ランドセルを背負った女の子が、無邪気に話しかけてきたのです。
「あのね。わたしも、おはな、もってるの。」
そう言うと、その子は私のほうに左手を差し出しました。
汚れた人差し指と親指でつまんでいるのは、うなだれたオレンジの花。
「ねこがしんじゃったの。おはかにうめたから、ねこのおはかにおそなえするんだ。」
不意に見知らぬ女の子から話しかけられ、どう接してよいのか戸惑う私をよそに、その子は作業場の扉を勢いよく開けて「こんにちは!」と大声で挨拶。中にいる人たちの反応を見ることなく、すぐに扉を閉めて、二軒先の建物へと進みます。
同じように工房と思しきサッシを開けて「こんにちは!」と挨拶。すぐに扉を閉めて、再び私のところへ戻ってきました。
人懐っこいのかな?と思いきや、すれ違う親子にはまったく関心を示しません。
ちょっと不思議な雰囲気のする女の子です。
連れ立って歩くうちに、ふと、私の中で知識をひけらかしたい衝動に駆られました。
「そのお花の名前、なんだかわかる?」
「わからない。」
「ナガミヒナゲシ、っていうの」
「へぇ。」
あまり興味がなさそうな様子。その後は何も言わずに黙って一緒に歩き続けます。
「だめだよ、はくせんからでちゃ。くるまにひかれちゃうよ。」
私が歩道からはみ出ているのを気にして、注意してきた女の子。
「大丈夫。車は来ないから、危なくないよ」
そう答えて彼女を道端に寄せ、私は車道側を歩き続けます。
「もうっ。」
私が白線をはみ出して歩き続けるのが気に入らなかったのでしょう。その子は私と連れ立って歩くのをやめ、反対側へと渡っていきました。
そこから、同じ速度で付かず離れず、歩き続けること数十メートル。私の家が近づいてきました。
このまま何も言わずにお別れするのは、気が引ける。そこで、敷地内に入るタイミングで、思い切って通りの向こうにいる彼女に声をかけたのです。
「じゃあね」
その声に応じて、手を振りかえす女の子。
私は家へ、その子は帰路へと足を向けたのでした。
いただいたサポートは、人々や地球の癒しと成長に貢献する人やモノ・グループへと循環させてゆきます。ひとしずくの水が大海へと繋がっていくように、豊かさのエネルギーをここから世界のすみずみにめぐりめぐらせていくためのファースト・ステップに選んでくださるのだとしたら、大変光栄です💫