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パンドラの匣(正義と微笑)

"『パンドラの匣』という題に就ては、明日のこの小説の第一回に於て書き記してある筈だし、此処で申上げて置きたい事は、もう何も無い。甚だぶあいそうな前口上でいけないが、しかし、こんなぶあいそな挨拶をする男の小説が案外面白い事がある"本書はともに実際の日記、手記に触発、創作された表題の書簡体小説、そして日記形式の『正義と微笑』の二作を収録した青春文学集。 

個人的に『桜桃忌』に主宰する読書会に向けて学生時代以来、久しぶりに再読してみました。

さて、そんな本書は前述した通り、三十代になった著者が年少の友、堤康久の十六歳から十七歳の日記、あるいは肺結核の療養所から太宰ファンの木村庄助が著者に宛てた書簡をもとに創作、前者は戦時中に『正義と微笑』として書き下ろしで、後者は『パンドラの匣』として新聞連載され、敗戦後に単行本化されたもので。

時期や形式は違えど、それぞれ学校の受験戦争や部活、家庭環境に悩まされながら【演劇に道を見つけた少年の成長物語】そして『健康道場』という一風変わった結核療養所での【三角関係を描いた恋愛小説】という、誰しもが通り抜けたであろう青春時代を瑞々しく描いているのですが。

朧げながら中学か高校時代に初めて読んだ時は二作品共に【年齢の近い主人公】に自分を重ねて"ここまで自分は拗らせてもないし、ナルシストでもないなー"と笑い飛ばすかのように読んだ記憶があるのですが(すいません)

執筆当時の著者の年齢も越えて立派なおっさん『かっての若者』として本書を手にとった今回。

実際の日記や手記をベースにしつつも、どちらも可愛らしい美少年が主人公の両作品に前者は【著者自身の文学観や演劇観】後者には敗戦後、最初に書かれた小説ということもあってか、著者には珍しく【時代色を感じさせながら、希望に満ちていて】読みやすくも、どちらも普遍的な魅力を持った傑作だと(手のひらを返すようですが)びっくりしました。

明るく、希望に満ちた著者作として。また読みやすくも工夫に満ちた書簡体小説、日記小説としてもオススメ。

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